8.許された名(アレクシス目線)
側近から彼女がいつも通り図書塔にいると報告を受け彼女に会いに行く
彼女を呼び止める前に、ほんの一瞬だけ呼吸を整えた
「ヴァルグレイヴ嬢」
彼女は小さく肩を揺らし、こちらを向く
私が彼女の居場所を知っているのを不思議がらず何も気にしていない
むしろ安心しているかのような反応に、内心で静かに笑う
「少々、よろしいでしょうか」
「は、はい」
言葉を選びながら話す
「以前から考えていたことがございます」
直接彼女を見つめるのは避け、持ってきた本に視線を落としたまま続ける
「私があなたを呼ぶ際の、名についてです」
気配が、わずかに強張る
だが、まだ引き返せる段階だ
「ヴァルグレイヴ嬢とお呼びするのが、礼を失しないのは承知しております」
前提を崩さない
「ただ……私にとっては、少々距離を感じるのです」
言い過ぎない
本心の、半分だけ
「もし、差し支えなければ」
ここで初めて、彼女を見る
「これからは、レティシアとお呼びしてもよろしいでしょうか」
選択肢は、彼女に渡す
だが、選びやすい形で
「無理にとはいいません
嫌ならば今まで通りに」
彼女は戸惑いながらも、視線を彷徨わせ、小さく頷いた
「……だ、だいじょうぶ、です……」
短い答え
だが、それで十分だった
「ありがとうございます」
そう言って柔らかく微笑む
それ以上の感情は見せない
重くすれば、彼女は身構える
「では」
ごく自然に、呼ぶ
「レティシア」
彼女が息を呑む気配が伝わってくる
その反応を見届けてから、何事もなかったように次の話題へ移る
急がない
だが、戻るつもりもない
名を呼ぶ許可は得た
それだけで、距離は確実に変わっている
何も知らないヒロインと、裏で暗躍するヒーローが好きで、ちょくちょくアレクシス目線も入れてます
読みにくかったらすみません




