39.再び静かになる(アレクシス視点)
庭園での小さな茶会
形式的な挨拶
レティは、私の隣にいる
ほんの一瞬
私が別の貴族に視線を向けた、その隙に、一人の男が彼女に近づいた
若く、身なりは整っている
声は、無駄に柔らかい
「侯爵夫人、初めてお目にかかります」
「えっあっはい、初めてまして」
(……こいつ)
報告書に名前はあった
取るに足らない家の次男
大方レティを通じて我が家との繋がりを持とうとしているのだろう
「夫人は庭園がとてもお似合いですね」
褒め言葉の体裁をした、接触
レティを利用するとは、いい度胸だ
だが、それ以上に気に触るのは
この男、レティとの距離が近すぎる
彼女が一歩下がるよりも早く、私はすでに動いていた
「妻に、何かご用ですか」
声は、低く、静かに落ちる
その一言で、その場の空気が、一瞬で変わる
男は、私の射抜くような視線と凍つくような空気に、緊張を滲ませる
「い、いえ……ただ、ご挨拶を……」
「それは、私を通して行うものです」
淡々と告げる
私は、レティシアの肩に手を置き、自分の方へ引き寄せた
彼女は、少し驚いた顔で私を見る
(……不安にさせたか)
それだけが、気に障る
男は、気圧されたように一歩下がる
「失礼しました」
そう言って去っていく背中を、私は最後まで見なかった
興味がない
私の意識は、すでに妻に戻っている
「……怖くありませんでしたか」
小声で尋ねる
彼女は、少しだけ考えてから、首を振った
「いいえ……でも、びっくりしました」
「そうですか」
私は、彼女の手を包む
「貴女が対応する必要はありません」
これは、過保護だろうか
だが、譲れない
「話しかけられるのも、見られるのも」
声を落とす
「私が、あまり好みません」
彼女は、少し困ったように笑った
「……嫉妬、ですか?」
直球だ
否定はしない
「ええ
レティが他人の視線に入るたびに感じます」
重い言葉
彼女は小さく私の袖を掴む
「……じゃあ、私が誰かに取られるって、思いました?」
私を見上げ、悪戯な笑みを浮かべて言う
「いいえ
取られるとは、思っていません」
はっきりと言い、彼女の顎に、そっと指を添える
視線を逸らさせない
「ですが
近づかれること自体が、不快です」
その理由を、彼女はもう理解している
沈黙のあと、彼女は小さく笑った
「……私、ちゃんとここにいますよ」
その一言で、胸の奥のざわめきが、完全に消える
「それと、私も他の令嬢に嫉妬してます」
私はレティの額に口づけ、低く、優しく囁く
「知っています」
彼女は、顔を赤くする
世界は、再び静かになった
邪魔者は去り、彼女は私の腕の中
結婚しても嫉妬と独占欲は健在のアレクシス様




