37.確認という名の排除 (側近目線)
ある時、ひとりの貴族青年が訪ねてきた
家格は中程度
だが、人当たりがよく、将来性もある
そして何より
ヴァルグレイヴ嬢に、明確な好意を持っていた
「ご挨拶だけでも」
そう言って差し出された書類は、正式で、正当で、何の落ち度もない
私は一瞬、迷った
(……通すべき、か? )
書類を送ってくる人間なら何人もいた
だか、アレクシス様が保護しているのを知って会いたいと、面会まで申し出たのはこの青年だけ
まだ、婚約前だ
彼女は、自由だ
だが、最終判断は閣下に委ねられる
私は、書類を持ってアレクシス様のもとへ向かった
「面会の申し出です
ヴァルグレイヴ嬢宛に」
その瞬間
閣下の手が、止まった
ただそれだけ
だが私は、これまで何度も見てきた
策を巡らせる時の
排除を決める時の
この“静止”を
「……名前は?」
淡々とした声
告げると、 閣下は一度だけ頷いた
「会わせなくていいです」
即断
「理由は?」
形式上、尋ねただけだ
何か口実をつけてくるだろうと
だが、返ってきた答えは、 想定を超えていた
「彼女が、混乱します」
それだけだ
利害を問うでもなく
言い訳を口にするでもなく
「すでに、選択肢は十分与えました」
静かに続ける
「これ以上は、不要です」
私は、背筋が冷えた
(……選択肢?)
令嬢は、 まだ何も選んでいない
だが、閣下の中では違う
“選ばせる段階”は、すでに終わっているのだ
「ですが……」
私は、慎重に言葉を選ぶ
「もし、令嬢が直接会いたいと望んだ場合は」
一瞬
ほんの一瞬だけ、主君の視線が鋭くなった
「その時は」
声は、低く、静か
「彼女が、なぜ会いたいと思ったのかを、私が確認します」
確認
会わせる、ではない
選ばせる、でもない
「原因を潰す」
ヴァルグレイヴ嬢は、庭園で花を眺めていた
私は、少し離れた場所から様子を見ていた
アレクシス様が近づくと、彼女はすぐに気づき、ほっとしたように微笑んだ
彼女はもう、安心の基準が完全に閣下一人に固定されている
「少し、冷えますね」
閣下が外套をかける
「ありがとうございます」
彼女は、当然のように受け取る
拒まない
疑わない
その様子を見て、私は悟った
もう、面会の可否など問題ではない
あの青年は理由も知らないまま、排除されるだろう
ただ、
「混乱させようとした」
それだけで
アレクシス様は横目でこちらを見るがすぐにヴァルグレイヴ嬢に視線を向ける
邪魔だと、目が語っていた
私は、深く一礼しこの場を離れる
これ以上、この場にいると後で仕事を増やされそうだ
この時、側近はまだ知らなかった
「もし、令嬢が直接会いたいと望んだ場合は」
彼が不用意に言ったあの一言が、後々面倒なことを引き起こすとは
その夜、一人になったアレクシスは、その言葉をふと、思い出していた
レティシアが他の男に会いたいと望む
そんな想像が頭から離れず、苛立ちは募るばかりだ
結局、アレクシスは眠りにつくことができず、夜明けまで仕事に没頭することになった
アレクシスが仕事をした分だけ、彼の仕事の量も増える事に
翌日、山のように増えた仕事を前にして、その理由を知った彼は、あの発言をしたことを心から後悔するのだった




