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策略家の彼とポッチャリな私〜重い愛を乗せて〜  作者: 紫煙 くゆり


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36/42

36. 名を持たない関係(側近目線)

違和感に、最初に気づいたのは私だった

まだ、婚約は成立していない

正式な発表も、契約も、誓約もない


——それなのに

侯爵閣下の世界は、すでに一人の令嬢を中心に回っていた


「本日の予定です」


私は執務室で報告書を読み上げる

だが、閣下の返事は一拍遅れる

視線は、ヴァルグレイヴ嬢へ向けられていた


「……ああ、続けてくれ」


声は平静

だが、注意は完全に彼女に向いている


彼女は社会学習で侍女になった令嬢

だが実際は客人だ

そして、保護対象でもあり、滞在は一時的なはずだった


しかし、実態は違う


招待状は、令嬢に届く前にすべて精査され、不必要な訪問は、理由をつけて断られている


「レティシア、疲れてはいませんか?」


閣下が声をかけると、令嬢は少し驚いたように首を振る


「い、いえ……大丈夫です」


その返答を聞いた瞬間、閣下の肩から、わずかに力が抜ける


(……安心したな)


国家交渉が成功した時よりも、よほど分かりやすい反応だ

私は、報告を続けながら、内心でため息をついた


これはもう、保護ではない

支配とも違う

だが、明らかに「確保」されている


ある日、私が意を決して進言した


「閣下、まだ婚約前です

これ以上、ヴァルグレイヴ嬢の行動を制限するのは……」


その瞬間、空気が変わった

閣下は、ゆっくりと私を見る


「制限しているつもりはありませんが?」


静かな声


「選択肢を分かりやすく整理しているだけです」


(……言い換えただけでは?)


そう思ったが、口には出さない


「彼女は、混乱しやすい」


淡々と、しかし確信をもって続ける

まるで、令嬢の心の内部を熟知しているような言い方


「だから、静かな場所を用意して、安心して選択できるようにしています」


それが

この屋敷であり

この距離であり

この関係だ


(……すでに、逃げ場はないな)


だが、奇妙なことに

レティシア嬢は、怯えていなかった

むしろ、日を追うごとに、表情が柔らいでいく

閣下が部屋に入ると、無意識にそちらを見る

呼ばれなくても、自ら近づく


(……本人が、一番早く順応している)


ある夜、令嬢が部屋へ戻ったあと、閣下が私に言った


「いずれ、彼女は選びます」


「……閣下を、ですか」


「他に、誰が?」


即答だった

迷いも、疑問もない

その確信が、私は少しだけ恐ろしく、同時に、納得できてしまった

私は、深く一礼した


「……承知しました」


これ以上の進言は、不要だ

令嬢はすでに、閣下の世界に足を踏み入れている


名を持たない関係

だが、実態はなによりも強固

婚約するにしても、それは、ただの確認作業にすぎない

名などなくとも、すでに揺るぎないものとして、そこに在った

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