252話 これまでのこと、これからのこと
陽だまり亭に、たまらん匂いが広がっている。
「むほぉう! これは、美味い!」
ロレッタのようなアホっぽい声を上げてアナゴ飯をかっ喰らっているのは、隙のない冷徹な領主だとほんの一時期思われていた三十五区領主のルシア。
今ではすっかり虫人族好きの残念女子だ。
「茶色いアナゴは初めて、私は。好きな味思う、これは」
ギルベルタがアナゴの蒲焼きをほくほく食べて口元を緩めている。
そう、今陽だまり亭に広がっているこの香りは、香ばしい蒲焼きの香りなのだ。
「庭で焼けばよかったな」
「匂いがこもるから、ですか?」
「いや、匂いで通行人が釣れるからだ」
「確かに、とてもいい匂いですね。香ばしくて、甘辛くて、お腹が空いちゃいます」
初めての蒲焼きに、ジネットも満足げな表情だ。
もっとも、こいつは食べるより作るのが楽しいようだけれど。
「とてもいい香りですね、ジネット」
「匂いでシスターが釣れましたよ」
「こいつは、何を作っても食いついてくるからカウントに入れないんだよ」
無臭であろうと、美味でさえあればこいつはやって来るのだ。
まぁ、アナゴはルシアの持ち込みだし、定期的に手に入るわけでもないからメニューにも載せられないし、今日はちょっと豪勢にアナゴパーティーってことでいいだろう。
「お前も食っとけよ。そうそう食えるものじゃないから」
「はい。ではいただきますね」
七輪を総動員して蒲焼きを作り、厨房ではだし汁で炊いたご飯と煮アナゴでアナゴ飯を作っている。
アナゴ飯には刻み海苔と錦糸卵を添えて、ひつまぶし風にしてある。
あぁ、アナゴを食うとウナギも食いたくなるよなぁ。
今度マーシャに聞いてみよう。
……ウナギって海で獲れるんだっけ? 川ならデリアの領分か?
「このふっくらとした白身……酒蒸しにしても合いそうですね」
ほくほくと、蒲焼きを食べるジネット。
酒蒸しも美味そうだ。
「それに、蒲焼きって香りもさることながら、キラキラ輝く見た目も綺麗ですね」
「みりんの効果だな、その『照り』は」
醤油と酒ではここまでの『照り』は出ない。
いいみりんが手に入ってよかった。
「ジネぷー、おかわりを頼めるか?」
「はい、ただいま」
ルシアに呼ばれ、ジネットが駆けていく。
食べるより、食べてもらってる様を見るのが好きなジネットなら、優先順位はそうなるんだろうな。
マグダやロレッタなんか、もうすっかり食べることに夢中になってるってのに。
エステラと同じテーブルでもりもりとアナゴ飯をかっ喰らっている。
「エステラ様。三杯目はだし汁でお茶漬けにするのがマナーですよ」
いつの間に参加していたのか、ナタリアが訳知り顔でご高説を垂れている。
今日初めて食ったもののマナーとか、よくそんなドヤ顔で語れるよな、お前は。
「お待たせしました、ルシアさん」
「うむ。この蒲焼きは実に美味いな。三十五区の白焼きとはまるで違う味だ」
「はい。ヤシロさんが作り方を教えてくださったんです」
「さすがジネぷーだ! 蒲焼きのこの身のふっくらさといったら……絶品だ!」
「ヤシロさんの火加減は絶妙ですからね。わたしも学ぶことが多いです」
「ジネぷーの手料理は美味い。毎日でも食べたい味だ! 連れて帰ってしまおうかな!」
「ぅええ!? ダ、ダメですよ、ヤシロさんは、その、陽だまり亭にとって大切な方ですから!」
「なぁ、エステラ。なんか俺、疲れてんのかなぁ? 会話の主語が迷子になってる気がする」
「奇遇だね。ボクも噛み合っていないのに成立している会話に戸惑っていたところだよ」
ルシア的には、褒めたいのはジネットだけだから主語はジネットに固定され、ジネットはジネットで、アナゴの蒲焼きを作ったのは俺だから主語が俺に固定されている。
双方、揺るぎない事実の前に、相手の主語を「言い間違い」くらいにしか受け取っていないようだ。
変に頑固というか、融通が利かないんだよなぁジネットは。
あぁ、ルシアはいいよ。どーせワザとだろうから。
「ミリリっちょも食べて行けばよかったですのに」
「仕方ありませんよ。この時期はどこも準備に追われていますから、もぐもぐ」
「……代わりとばかりにアナゴ飯を頬張るシスターなのだった」
ミリィは生花ギルドの仕事が残っているというので早々に帰ってしまった。
本当にヒラールの葉っぱをお裾分けに来てくれただけのようだ。
ルシアが寂しがって駄々をこねたりもしたのだが、アナゴを顔に張りつけて黙らせた。
「クッサ!? 生臭っ!?」って悶絶してたなぁ、ルシア。
「そうだジネット。この後アッスントのところへ行くか?」
「え? 明日行こうかと思っていたのですが?」
「……暑くなる前に行こうぜ」
去年は酷暑の中、街中を歩き回らされたのだ。
どうせ明日にはクッソ暑くなるんだ。今日のうちに回っちまおうぜ。この秋晴れみたいな心地よい気候のうちによ。
「ですが、折角ルシアさんもおいでになっていることですし……」
「なぁに、気にすることはないぞジネぷー。私たちはこれを食べたらすぐに帰る」
「多い、やることが、今日は」
「そうなんですか。何もお構いできませんで」
いやいや。勝手に持ち込まれた食材を料理してやったんだ。お構いしまくりじゃねぇか。金を取ったっていいくらいだ。
「して、エステラよ。川遊びというのはいつなのだ?」
「なんで来る気なんですか!?」
「つか、どこで仕入れた情報だよ?」
「マーたんが『今年は参加するんだ~☆』と言っておったのでな」
マーシャのモノマネが吐くほど似ていない!
「喜べ、カタクチイワシ。便乗してやろう!」
「みんな~。今年の川遊びは、三十五区の奢りで豪華海鮮バーベキューだそうだ。礼を言っておけ」
「カタクチイワシ、何を勝手なことを!」
「ありがとうです、ルシアさん!」
「……感謝」
「よぉ~し、大量に持ってこよう!」
ロレッタとマグダの獣人族コンビに感謝され、ルシアが快諾した。
チョロいな、こいつは。
「ウナギがあったら用意するように、マーシャに言っといてくれ」
「ウナギ? あぁ、アナゴのニセモノか」
「バカモノ!」
ウナギはニセモノじゃねぇよ!
夏の王様と言っても過言じゃねぇっての!
本物のひつまぶしを食ってやる!
「まぁ、伝えておこう。日取りは、給仕長同士で詰めてくれればいい」
「よろしくお願いする、私は、ナタリアさんに」
「早急に、日程調整をいたしましょう」
なんか、勝手に計画が進んでいく。
まぁ、ルシアが来たいなら勝手に来ればいい。
川遊びは所詮遊びだ。
俺らがやることと言ったら、昼飯を河原で作るくらいのもんだ。
あとは、美女の水着を見て楽しむだけだ、むふっ。
「それじゃあ、ヤシロさん。お出掛けしましょうか?」
「そうだな。マグダ、ロレッタ、店番を頼めるか?」
「任せてです!」
「……それに、もうすぐ戦力がやって来る頃合い」
マグダが指を折りカウントダウンを始める。
「……さん、に、いち……ゼロ」
「こんにちわッスー! むはぁ!? 今日はなんだかすごくいい匂いがしてるッスねー!?」
お前は几帳面だなぁ、ウーマロ。時間ピッタリじゃねぇか。
「この美味しそうな匂いは、今みなさんが食べている未知の料理ッスね!? オイラもそれが食べたいッス! 何を作ればいいッスか!? 増築するッスか!?」
「落ち着け……猛暑期前だってのに暑苦しい」
蒲焼きとアナゴ飯の匂いに心を射抜かれ、ウーマロが物凄くテンションを上げている。
つか、お前はいろいろ安請け合いするなよ。
飯くらいで仕事を引き受けたりしてたら……俺が喜んじゃうぞ、ふふふ。
「ウーマロ。ヤシロに飼い慣らされ過ぎないようにね。君にも本業があるんだから」
「それはもちろんそうッスけど……でも、ヤシロさんとの仕事は別なんッス」
屈託なく笑うウーマロ。
ただし、エステラに背を向けて。
斬新な会話スタイルだな。もう見慣れたけれど。
「オイラはもっともっとヤシロさんからの依頼を受けて、オールブルーム随一の大工になってみせるんッス!」
「目標と方法が合致してねぇぞ」
ナンバーワンを目指すなら、素人に意見を聞いてんじゃねぇよ。
高みを目指しているのか、ぬるま湯に浸かろうとしているのかよく分からんヤツだ。
「……ウーマロ」
「なんッスか、マグダたん?」
マグダが声をかけると、嬉しそうに顔を向けるウーマロ。
うんうん。いつも通りの光景だ。
だが、その後が少し違った。
こてん……と、マグダが小首を傾げる。
じっとウーマロを見つめて。
「……お疲れ?」
「むはぁ! マグダたんがオイラに労いの言葉を!?」
いや、今のは「お疲れ様」じゃなくて「疲れてんのか?」って意味だと思うぞ。
「今ので元気百倍ッス! オイラ、今なら完璧な仕事が出来そうッス!」
どう見ても疲れているようには見えない。
いつものウーマロだ。
マグダも、元気に拳を振り上げる陽気なウーマロを見て納得したのだろう。「……そう」と呟いてウーマロの注文を聞いていた。
聞くまでもなく、アナゴ飯と蒲焼きだったけどな。
「じゃあ、出掛けてくるから店番よろしくな、マグダ、ロレッタ、ウーマロ」
「あれ!? さらっと入れられてるッス!?」
「任せてです!」
「……店長たちの不在は、マグダたち三人で守る」
「はぁあああん! マグダたんの『たち』の中に含まれたッスぅうう! オイラ、陽だまり亭の安寧を死守するッス!」
熱い男だ。
猛暑期には出禁にしようかな。暑苦しいし。
「カタクチイワシよ」
店を出ようとした俺たちに、ルシアが声をかける。
爪楊枝を咥えて。
……へい、そこのレディ。
いいのか、それで。貴族の婦女子的に。
「私とマーたんには、せいぜい接待をすることだな。間もなく始まるのであろう? アレが」
……ちっ。
確かに、三十五区や海漁ギルドとはいい関係を保っておいた方がいいだろうな。
アレが完成するまでは。
「接待なら、エステラに言え。領主の仕事だろ、アレは」
「ふふん、貴様が言い出したことだ。貴様にもたんまりと責任を背負わせてやろう」
いらんわ、そんな重い責任。
とはいえ、俺の密かな夢の一つがもうすぐ実現するのだ。
接待くらいはしてやってもいいかもしれない。
もうすぐ始まる『アレ』が――
港の工事が、無事に終わるまではな。
そんなわけで、ルシアの見送りはエステラとナタリアに任せて、俺たちはサクッと行商ギルド四十二区支部へやって来た。
……ちっ。相変わらずデカいいい家に住んでやがる。
「あっ、イッケネ。落書きするもの忘れてきた」
「ダメですよ。壁に落書きなんかしちゃ」
くすくすと笑いながら俺に注意を寄越してくるジネット。
でもさ、こんなデカくて白い壁、もはや公共のキャンバスだろう。ガキどもに開放してやればいいんだよ。あっという間にアーティスティックな外装になるだろうよ。
その中から、将来の芸術家が生まれれば、ここの壁だけで数億円の価値が出るかもしれないぞ。
投資だな、投資。アッスントに教えてやろうっと。
庭先の掃除をしていた小間使いに来訪を伝え、俺たちはアッスントのもとへ向かった。
「――というわけで数億の価値がな」
「いえ、そんな先行き不透明な投資には手を出せませんね」
ちっ。
『アッスント自慢の白亜の豪邸ガキの落書きでメッチャクチャ作戦』は頓挫してしまったか。
涼しい顔でさらっと流されてしまった。
「今年も、例年通りの物をお揃えいたしますね」
「はい、お願いします」
アッスントは、この時期の準備に必要な物リストを作成しており、それをもとに必要な物、必要でない物、追加してほしい物などを追記している。
リストのおかげで話が早く、「あ、そういえばそれも必要でしたね」なんてうっかり忘れそうな物まで思い出させてくれる。非常にお客様ファーストなサービスだ。……と、思うじゃん?
実はアレは、逼迫はしていないがあると便利そうな、微妙に欲しいかもしれないラインを狙った品物を買わせるための策略なのだ。
うっかり忘れてしまう程度のものなんか、なきゃないでなんとかなることがほとんどなのに、こうして見てしまうと欲しくなるもんだからなぁ。
激安量販店なんかに行って、ついつい余計な買い物をしてしまうのと似ている。
アッスントめ、小癪な手を……
「この商売上手」
「最高の誉め言葉をいただき、光栄です」
嬉しそうににこにこと笑うブタ顔。
「そういえば、豚足って入荷した?」
「去年もこの時期にそんな話をしておられましたよね?」
いや、なんかお前の顔を見ていたら、ついな。
「そういえば、ちょうど一年前の今頃でしたよねぇ……足つぼ」
何を思い出したのか、アッスントは青い顔で両足を押さえるように身を屈める。
そういや、去年の猛暑期にここで初めて足つぼを披露したんだっけ?
「今では、陽だまり亭で『足つぼ』というワードを出してはいけないと、街の噂になるほど定着しましたね」
「えっ、そんな噂が流れているんですか!?」
ジネットが驚きの声を上げるが……まぁ、アレだけ被害者が出ればそういう情報が共有されてもおかしくないだろう。
みんな、自分の身が可愛いからな。
「以前教えていただいた、青竹踏みという健康グッズを売り出そうとしたところ、二十七区で領主様に発売禁止令を出されたとか」
「トレーシー、トラウマになってるんだろうなぁ……」
足つぼの恐怖を最も味わった領主と言えるだろう。
「お前も有名になったもんだなぁ、ジネット」
「わたしじゃないですよ!? あ、あの、アッスントさん。足つぼ自体はとてもいいモノですので、イメージ改善にご協力願えませんか? ぐっすり眠れたり、お肌がつやつやになったりするんですよ!」
「ではまず、ジネットさんが『節度』という言葉を身に付けるところから始められるべきでしょう」
「はぅ……」
にっこりと笑みを返され、ジネットが言葉を失う。
お前は足つぼとなるとハッスルするからなぁ。
「適度なマッサージとして『素敵やんアベニュー』に輸出すれば、そのうち定着するだろう」
「それはいいですね。なんでしたらわたし、講師をお引き受けしてもいいですよ」
「「いや、『適度』がいいので」」
「はぅっ、ヤシロさんとアッスントさんが声を揃えて……」
ジネットを講師にしたら、足つぼが恐怖の対象として認識されてしまう。
マッサージ屋が出来るなら、俺も通ってみたいものだ。最近肩こりが酷くてなぁ……
「そういえば、今年は大豆がお安く提供できますよ」
「おぉ、ようやく需要が安定したのか」
「はい。喜ばしいことです」
『BU』とのいざこざ以降、豆は他の区でも作れるようになった。
需要の多い大豆や小豆は四十二区でも作っている。
その代わり、収穫量に応じて一定の税を『BU』に収めることになっているけどな。そうしないと、産業のない区が破綻しかねないし。
『BU』のチェックが入り品質に問題がないと判断されたものだけが認可を受けることが出来る。そうすることで、豆の品質は守られている。
下手な農家が粗悪品を大量生産して味噌や醤油の味が落ちるなんてことは防がれているというわけだ。
「去年も大豆や小豆を買ってたっけなぁ」
「毎年この時期だけ市場に出回るのですよ。年末で、味噌や醤油の生産が一時的にストップするからなのですけれど」
味噌や醤油などの工場も、この時期だけは仕事を休む。熟成は続けられるが仕込みは止まる。
そのため、この時期だけは大豆や小豆が出回るのだそうだ。年末年始へ向けてのお恵み的な意味合いも込められていたらしいが。
それ以外の時期では一般人の手元に回ってくることがないので、大豆はかなり売れていたらしい。
それも今年までだろうけれど。
「来年から需要が落ちるぞ、きっと」
「そうでしょうね。でも、今年は爆発的に伸びていますので」
今までなかなか買えなかったものが、今年はリーズナブルに市場に出ているのだ。
一般家庭はここぞとばかりに飛びついているらしい。
今まで手が出せなかった高級ブランドが安売りを始めたら、そりゃ飛びつくよな。最初は。来年以降は安いのが当たり前になっているだろうし、需要高騰も今年までだな。
「また一年かけて売れる方法を考えますよ」
楽しそうな顔をする。
腕の見せ所だとでも言わんばかりの表情だ。
こいつは、本当に楽しそうに仕事をするようになったな。
「うふふ。アッスントさん、楽しそうです」
「えぇ。おかげさまで、今年一年は本当に充実した年になりました」
にこにこと「おかげさまで」なんて言葉を俺に寄越してきやがる。
そう思うなら通年半額特権でもくれよ。
「二十四区では麻婆豆腐が大ヒットしているんですよ。新しい名物と懐かしい名物のコラボレーションだと」
大豆を作っていた二十四区は豆腐の名産地でもあった。
だが、味噌と醤油の誕生により大豆はすべてそちらに回され豆腐は姿を消した。
それが、大豆の生産量が上がったことでまた復活し、懐古主義のお年寄りを中心に懐かしの味がブームになっているらしい。
そこへ、麹が生み出した新たな調味料豆板醤が現れ、二十四区はお祭り騒ぎだそうだ。
こりゃあ、二十四区領主のドニスには相応の『お礼』をいただかなきゃなぁ。
俺のおかげで跡取り問題も解決したわけだし。むふふ……覚悟しとけよ、DD。
「そうそう、懐古酒場というものが流行っているそうですよ」
「懐古酒場?」
「お豆腐と甘酒が楽しめる酒場なのだそうです」
「なに、その凶悪にミスマッチな食い合わせ……」
そもそも、甘酒は酒じゃねぇだろうが。酒場で出すなよ。
「懐かしの味がまた楽しめるということで、ご年配の方を中心に話題になっているようです。なんでも、ご年配カップルのデートスポットになっているとか」
「う~っわ、なにその危険地帯」
ジジババが集まってイチャイチャしてんのか?
目が抉れそうだな。
数年後には心霊スポットになってんじゃねぇの、そこ?
「……ドニスさんが作られたのかもしれませんね」
こそっと、声を潜めてジネットが囁く。
とても楽しそうに。
「マーゥルさんをお誘いするために」
「あぁ、そういう回りくどいことしそうだな、あのジジイは……」
二十九区領主ゲラーシーの姉にして、領主になるために育てられたにもかかわらず二十歳の年にその権利を剥奪された貴族。……こいつがまたえらい曲者なんだ。腹の黒さでは『BU』随一。いや、俺の知る全貴族の中で一番かもしれない。
普段は穏やかなオバサンなんだけどな。
「ゼルマルのジジイに教えてやったら、ずっとそわそわして面白そうだな」
「うふふ。少し遠いですけれど、たまには旅行もいいですよね」
ジネットも、ムム婆さんの幸せを願っている。
ジネットの祖父さんが健在だった時代の陽だまり亭の常連客。
ムム婆さんにゼルマルのジジイ。ボッバ、フロフトというジジイ仲間。
そして、三十五区の元貴族オルキオ。
アゲハチョウ人族のシラハと人間の貴族だったオルキオの結婚は、当時の風潮や周りの固定観念によって様々な悲劇を生みはしたが、現在は周りも落ち着き二人仲良く三十五区で暮らしている。
たまに陽だまり亭に顔を出してはコーヒーとケーキを食っていく。
シラハはリバウンドすることなく、線の細い儚げなお婆さんのままだ。脂身の塊だった時代など、まるでなかったかのように。……恋のパワーってヤツか? 恐ろしいわ。
「二十九区と四十二区の間にニューロードが出来て、流通が盛んになりましたからね。今年はいろいろ珍しい物もご紹介できますよ」
これまでは、外から入ってきた商品はほとんどが中央区に向かっていた。
外周区をぐるっと回ってこなければいけない四十二区にまで商品は回ってこなかったのだ。
だが、オールブルーム随一の通行量を誇る三十区のすぐ隣、二十九区に最果ての四十二区に通じるニューロードが誕生したことで、物の流れが変化した。
二十九区は通行税により税収をアップさせたし、三十区もこれまで商売に行けなかった外周区へ物を売りつけようとする商人の増加で税収が上がっているらしい。
是非とも友好的な関係を築いてこちらにいろいろ融通してもらいたいもんだな。
受けた恩恵は抜かりなく還元するべきだ。つーか、しろ!
「来年もまた、今年とは違った一年になるんでしょうね」
輝かしい未来を見据えて、アッスントがほくそ笑む。
そして、期待を乗せた目をこちらに向けて満面の笑みを浮かべる。
……俺に期待すんじゃねぇよ。自分で動け、自分で。
「気が早ぇよ」
「んふふ。ですね」
嬉しそうな顔しやがって。
「その前に地獄の猛暑期と豪雪期だ。考えただけでゲンナリする」
「おや? かまくらカフェなんて面白いことを考えたヤシロさんらしくもない。そういう時期だからこそ、商機があるのではないのですか?」
あんなもんは偶然の産物だ。
今年はいろんな店が真似をするだろうから、陽だまり亭は去年のような賑わいはないだろう。
ゆっくり過ごせそうだ。
「それに、ウクリネスさんが新作の水着を大量生産していましたよ」
「それは楽しみだな、うん!」
「もう、ヤシロさん。……懺悔してください」
猛暑期唯一の楽しみと言ってもいい。
新作の水着か。今年は一体どんなぽぃんぽぃんが拝めるのか、今から楽しみだ。
「それから――」
と、アッスントがにやりと笑って俺に言う。
「昨年おっしゃっていた例のアレ、今年はちゃんとご用意しておりますよ」
何をするつもりか知りませんが、おいしいお話なら一枚噛ませてくださいね。
そんな声が聞こえてきそうな笑顔だった。
マーゥルが個人で確保していたから少し分けてもらうつもりでいたのだが……アッスントから大量購入しておけば商売にも使えるか……
ふふふ、今年の夏は陽だまり亭二号店七号店がアツいぜ。
猛暑期、豪雪期は大変なのでゆっくり休みたいと思った数分後には儲け話を考えている。
これはきっと、四十二区一番のお人好しな社畜に影響されてしまったせいだろう。
今年はかまくらカフェの売り上げ減が予想される分、猛暑期にガッチリ稼がせてもらうぜ。
冷た~い、定番スイーツでな。
あとがき
どうも、花粉に惨敗中の宮地です。
若い頃は、舞い散る花粉の一粒一粒を避けて歩いていたものですが、
最近は被弾することが多くなってしまいました。
老いを実感しますのじゃ。ふぉっふぉっふぉっ。
というわけで、本日は語学の話をします。
漢字の成り立ちというのを、小学校の頃に習ったのを覚えていますか?
山の絵があって、それが山っぽい感じのうねった線になって、『山』という字に変化していくヤツです。
漢字は、見た目や意味でその『字』が決まっているのです。
『手』なんかも、なんとなく手っぽい形をしてますよね。
そう考えた時、
『兆』という字。
これ、じっくり見てください。
なんか、
なんとなくですが、
美人巨乳教師のはち切れそうなブラウスに見えませんか?
( ・`ω・´)キリッ
『ル』っぽいところが、ボタン留めてるところで
その左右の『ン』『く』が、ボタンに引っ張られた服のシワ。
そして、ブラウスがそんなに引っ張られるということは、これはもう
美人巨乳教師以外にあり得ないわけです。
( 兆 )
……ね?
…………ねっ!?
さて、それを踏まえて、以下の漢字を見てください。
『挑』
「いどむ」という字です。
巨乳ブラウスの隣に迫った『手』。
男子中学生が授業そっちのけで毎日毎日ガン見している巨乳ブラウスに手を伸ばす――
まさしく『挑む』です!
チャレンジャーです!
停学も覚悟の上です!
もしかしたら、「こらっ! め!」くらいで許してくれるかもしれないというわずかな可能性にかけて……っ!
『挑む』
この言葉の成り立ちを、みなさん覚えておいてください。
そして、もしかしたらいるかもしれない、
小学生でここを読んでくれているボーイズ&ガールズ。
正しい成り立ちは先生に聞いてください。(・▽<)b☆
あぁ、またしても学術的な話をしてしまいました。
え? 前回の( ¥ )とほぼ同じですって?
そのとーり!(*´▽`* )
いえね、どっちをあとがきで書こうかと悩んだ結果……
どっちも書いちゃいました☆
日本語は美しいものなので、皆様にもっと親しんでいただきたいと思った次第です。
以上、語学の話でした☆
いやぁ、楽しいですね。
皆様に楽しんでいただけているのかは、イマイチ不安が残るところではありますが……
楽しんでいただけているといいなぁ……チラッ
ようやくですね、書くことが楽しいと再び思えるようになりました。
まるっと二年くらいですかね?
企画練って、プロット書いて「じゃあ、執筆します!」って段階で
「出版なくなりました!」みたいなことが立て続けに起こりまして……
さすがにしんどくなって、
あと、『私の作品なんてきっと面白くないに違いない病』を患いまして。
長らく療養しておりました。
書くのをやめ、「見る」「読む」「聞く」「揉む」と
インプットに重点を置いてみたり、
旅行に行って心を震わせてみたり、
そんなことをしておりました。
実はまだ、何が面白いのかはっきりとは掴めていないのですが、
でも書くのが楽しいと感じられるようになったので
リハビリを兼ねて書いていこうかと思います。
いつかまた、どこかで出版できたらいーなー
くらいの気持ちを持ちつつ、新しい話を書いていこうと思います。
異世界詐欺師も、無添加の途中辺りから「もうすでに役目は終えたかもな~」って思っていたのですが
まだいまだに「続きを」と言ってくださる方がいるようですので
そのご厚意に甘えて書かせていただこうと。
無添加の頃になると、感想欄がおっぱいの話ばかりになって、
(`ε´)「もう、どうしておっぱいの話ばっかりなの!?」
ヾ(。`Д´。)「おっぱい以外に言うことないの!?」
ヽ(`Д´#)ノ「おっぱいと私と、どっちが大切なの!?」
と、思ったりもしたのですが、
よくよく考えたら本編もあとがきもおっぱいの話しかしていないので
感想がおっぱいで埋め尽くされるのは当然じゃないか!
Σ(・ω・ノ)ノ!
という、真相にたどり着きました。
真実とは、驚くほど身近に潜んでいるものなのですね。
P「おっぱい減らしたら?」
宮地「つまり、ペチャパイキャラをもっと出せということだね?」
P「違う。全然違う」
少々考え過ぎてしまう傾向があるので、なるべく何も考えずに
ひたすら楽しんで書いていこうと思います。
三幕、ちょっと長いお話になりそうです。
お好きな時に、お好きなペースでお相手いただけると幸いです。
というわけで、
今回は真面目な話しかしていませんが、たまにはこういうあとがきも……
巨乳ブラウスの話してたぁー!?Σ( ̄□ ̄|||)
おそらく、何も変わることなく
こんな感じで続いていきます。
皆様があきれ果てるまで、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。
宮地拓海




