251話 そしていつもの陽だまり亭
――まぶたを閉じて、神経を集中する。
風の流れ、大気の温かみ、酸素の香り。そこに存在するすべてのモノと一つになるような感覚で、意識が世界へ溶け込んでいく。
五感のすべてを解き放つ。
無と有の狭間において、俺は、世界を把握する――
たゅ~ん。
「ジネットか」
「ぅええ!? どうして分かったんですか!? 今、目を閉じていましたよね?」
陽だまり亭の奥の方、いつもの席に座って瞑想していた俺に近付いてきたジネットが驚愕の声を上げる。
……ふっ。なぁに、大したことじゃないさ。
「日頃の修練の賜物だ」
「何の修練をしていたんだい、まったく……」
「おぉ、エステラか」
揺れる音がまったくしなかったから――
「気が付かなった」
「なんだろう。今の一瞬の間に、ほのかな殺意を覚えたよ」
研ぎ澄まされたナイフのような目で睨み、研ぎ澄まされたナイフをちらつかせる。
はっはっはっ、おいおい、本物を持ち出すのはダメだろう。逮捕されちゃうぞ☆
「何をなさっていたんですか?」
「いや、ここ最近遊んでばっかりだったからな。ここらへんで気を引き締めておかなきゃなと思ったまでだ」
「遊んで……? あぁ、ハロウィンとかミスコンテストとかですか?」
そう。
ここ最近街を挙げていろんなイベントをやりまくっていたせいで、ぜ~んぜん人を騙していない。
こんなことでは、俺の詐欺スキルが鈍ってしまう。
そう思って、ここらでピシッと修行の一つもしてみようと、そう思い立ったわけだ。
「最近気が緩んでいたからな、五感を鍛えていたんだ」
ついでに、こういうたゆまぬ努力の片鱗をチラ見せしておくことで、「あ、だからヤシロさんってばそんなにすごいのね! パンピーとはレベルが違うわ! ステキ!」と思わせられるという副次的効果も狙っている。
「君は、年中そんなくだらないことをしているのかい? ……嘆かわしい」
おかしい。
賞賛の目を向けられるべきタイミングで、物凄くしょっぱそうな顔を向けられている。
エステラなら、日頃の修練の大切さを分かってくれると思ったのだが……
「あのな。修練ってのは積み重ねが大事なんだよ。練習を一日さぼると取り返すのに三日はかかると言ってな。そういう点では、ピアノもおっぱいも一緒なんだよ」
「絶対一緒じゃない」
なぜか理解が得られない。
お前だって、毎日の修練で神経を研ぎ澄ましているくせに。
というか、ピアノってこの街にもあるのか?
歌劇があるならあっても不思議ではないか。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
エステラが毎日修練を欠かしていないという証拠を、今ここで、俺が見せてやろう。
懐から五枚のカードを取り出す。真っ白で同じ形、同じ大きさのカード。
そのうちの四枚に『ちっぱいの呪い』という文字を書き、一枚は白紙のままにする。
それを裏返し、入念にシャッフルして、完全に分からないようにする。
そして、カードを広げてエステラの前に差し出す。当然表は見えないようにして。
「さぁ、引いてみろ!」
「ふん!」
エステラは、迷うことなく白紙のカードを引き抜いた。
「おぉ~!」っと、いつから見ていたのかマグダとロレッタが拍手を送る。
「これが、修練の賜物だ」
「ボクはこんなくだらないことのために、日々修練を積んでいるんじゃないんだけど?」
「「「えっ、違うの!?」」違うです!?」
「うるさいよ、君たちは! 本当に!」
こ~んな適当に書かれた、なんんんの影響もないような『ちっぱいの呪い』なんてものにまで気を揉んで意地になって避けたがる、それがエステラというヤツだ。
「この揉みたがり」
「そんな非難の言葉を受ける謂れは一切ないんだけれど?」
ティータイムが終わり、客が退け、洗い物も粗方終わった暇な時間帯。
俺はいつものように、いつもの場所で、いつも繰り返されるくだらないバカ話に興じていた。
要するに、暇なのだ。
「あぁ……遊びたい」
「ついさっき、遊び過ぎて気が緩んでるって言ってたところじゃないか」
バカモノ。
確かにイベントはたくさんやったさ。
運動会にハロウィンにミスコン。その間に教会のパンの改革まで行ったし、素敵やんアベニューとかいうもんにまで口を出した。
それ全っ部、忙しかったから!
俺、超忙しかったから!
休ませろよ、俺を!
自分の時間をちょうだい!
思う存分詐欺を働きたぁ~い!
「エステラ。なんの御利益もないくせにやたらと見栄えだけはする胡散臭い壷を高値で買う気ない?」
「いらないよ、そんなしょーもない物!?」
そっかー。
もし欲しそうなら、ここぞとばかりに売りつけてやったのになぁ。
「あの、ヤシロさん。もしかして、お金が必要なんですか?」
「いや、金はある。いるかいらないかと聞かれればめっちゃ欲しいが、とりあえず現状金に困っているようなことはない」
「そうですか。それなら安心ですね」
ほっと胸を撫で下ろすジネット。
エステラの八倍くらいの時間をかけて胸を撫で下ろすジネット。
エステラのように、最短ルートは通れないからな。
「お金はあるけれど満たされていない。つまり君は、また何かトラブルにでも巻き込まれたいと、そんなことを考えているのかい?」
「おい、やめろ。そーゆーのは口にするとマジで寄ってくるんだからな! トラブルなんぞ御免だ」
今年はもう散々面倒くさいトラブルに巻き込まれたからな。
『BU』からの難癖とか、……そういや、ルシアと出会っていろいろあったのも今年だっけ?
もう十分だろう。あとは平穏無事に年末を乗り切りたいところだ。
でもまぁ、そうだな……
「これだけは言っておいた方がいいか」
「なんですか?」
真剣な表情をする俺に、ジネットとエステラの表情も少し引きしまる。
マグダとロレッタも、ジネットたちの後ろから俺の顔を見つめる。
「ジネットが胸を撫で下ろすと、エステラの八倍くらい時間かかるよな」
「そーゆーしょーもないことはわざわざ言わなくていいから!」
「確かに、エステラさんと店長さんでは、移動距離が違い過ぎるですからね」
「うるさいよ、ロレッタ!」
「……エステラは最短距離」
「君もね、マグダ!」
「もう、ヤシロさん。懺悔してください!」
俺以外の連中が騒がしくしているにもかかわらず、俺だけが怒られる。
いつものことだ。
あぁ、本当に変わらない。
だって、ここは――
ここは、陽だまり亭。
……とか言うと、劇場版のラストシーンみたいな雰囲気が出るよな、うん。
もし俺の生涯が劇場上映されるなら今のがラストシーンだ。
だから、もうトラブルとか起こらなくていいからな?
マジだからな?
フリじゃないからな?
聞こえてるか、精霊神?
まじで、とんでもないトラブル寄越しやがったらぶっ飛ばしに行くからな?
お前の顔を描いたパンチングバルーン『殴る精霊神』を作って売り出してやるからな?
……あぁ、この街のヤツに作らせたらキノコの起き上がりこぼしになるんだろうな。
「あぁ……精霊神が信用できねぇ」
「なぜ急にそんな話題に!?」
ジネットがびっくりして「精霊神様はとても慈悲深い方なんですよ」とか、ちょっとよく分からないことを言ってくる。
そんな慈悲深いヤツが、毎度毎度絶妙に面倒くさい嫌がらせをしてくるわけがない。
「いいや、あいつは俺が必死に走り回っている様を見て笑ってやがるんだ。そうに違いない」
「まったく、君は……精霊神を友達みたいに言うんじゃないよ。罰当たりな」
「いや、お兄ちゃんなら、精霊神様とも友達になれるかもです」
「……精霊神までもがストライクゾーン」
「あ、あの、ヤシロさん……その、だ、ダメですからね?」
精霊神に対してそんな感情を抱いてはいけないと、ありもしないことを危惧して釘を刺してくるジネット。
ねーって。
つか、この街の連中は基本的にアルヴィスタンらしいが、精霊神に様を付けるヤツとそうじゃないヤツがいるんだよな。
意外なことに、エステラは様を付けない。……教会関係者の前ではいい子ぶって様付けすることがあるけど。あぁ、そういやたま~になんの脈絡もなく様を付ける時があるよな。きっとそういう時は精霊神に何か願い事でもしている時なのだろう。主に胸部関連で。
「エステラは精霊神に『様』を付けないことが多いよな」
「え、そうかな? あんまり意識したことはないけれど」
基本的に付けていないという印象だ。
様を付けないのがエステラとマグダ。そういや、ルシアも「精霊神」って言ってたっけな?
で、様を付けるのがジネットにべルティーナ、ついでにロレッタ……か。
「精霊神に『様』を付けて呼ぶと、最低Cカップまでは育つってわけか……」
「そんなわけないだろう!? そんなくだらないことに興味を持たれないよ、精霊神様は」
「エステラさんが急に様付けし始めたです!?」
「……微かな可能性を逃さない女、エステラ」
「う、うるさいなっ! ボクはいつだって敬意を払っているさ。敬虔なるアルヴィスタンだからね!」
敬虔が聞いて呆れる。エステラの信仰心はブレッブレじゃないか。
都合のいい時だけ縋りつこうという魂胆だ。
初詣と受験シーズンにだけ足しげく神社に通う日本人にちょっと似ている。
わぁ、なんだかすごい親近感。
「ごめん、くださぁ~い」
俺がエステラに妙な親近感を覚えていると、食堂内に小さな声が流れ込んできた。
遠慮がちにドアから中を覗き込む小さな女の子。
その頭には大きなテントウムシの髪飾りが揺れている。
「こんにちは、ミリィさん。ようこそ陽だまり亭へ」
「ぁう……ぁの、今日はぉ客さんじゃ、ない、んだ……ごめん、ね?」
「いいえ。ミリィさんならいつでも大歓迎です」
「ぁはっ。ぅん、ぁりがと、ね」
ジネットに招き入れられ、ミリィがとことこと俺たちのもとへ歩いてくる。
肩には、いつもの大きなボストンバッグ――にしか見えないポシェットをかけている。ポシェットなんだよ。ミリィがそう言ってるんだから。
「ミリリっちょ! ちょっと質問いいですか?」
しゅぱっと手を上げて、ロレッタがミリィの前へと踊り出る。
「なぁに? ろれったさん」
「ミリリっちょは、精霊神様のこと、なんて呼んでるです?」
「ぇ? ぇっと……精霊神様、かな?」
「……けど、Bカップ」
「ぅぇえ!? な、なんで大きな声で言うの、まぐだちゃん!?」
「……ヤシロの仮説は否定された」
「様付けしてもCに届かない事例はあるです」
「だよね! そりゃそうだよね! だと思った!」
「ぁう……ぁの、なんの、ぉ話?」
力強く拳を握るエステラに、ミリィがドン引きだ。
あぁ、いいのいいの。そいつらのことは気にしないでいいから。
「それよりミリィ。今日は何の用なんだ?」
もしかして、俺の顔が見たくなって会いに来ちゃったとか?
まぁ、なんて可愛らしい。……あ、違うらしい。
嬉しそうな顔でジネットの方へ向き直った。
「ぅん。ぁのね、今日はね、ぉ裾分けに来たの」
「お裾分けですか?」
にこにこと嬉しそうにミリィの顔を覗き込むジネット。
そんなジネットに、束になった葉っぱが手渡される。十把ほど。……多いな。
「ぅふふ。去年、たくさんぉ泊まりの人がいたって聞いたから」
「まぁ、ヒラールの葉っぱですね。こんなにたくさん、いいんですか?」
「ぅん。みんなで食べて、ね」
ヒラールの葉っぱ。
はて、どこかで聞いたことがあるような……
「もうそんな時期なんですねぇ」
「ぅん。今年も、みんなで川遊び、したい、ね」
あっ! そうだ! ヒラールの葉っぱだ!
たしか、こいつが採れるようになるとまもなく猛暑期がやってくるという――そして、その直後には恐ろしい豪雪期がやってくるという、四季のないこの街にしては珍しい季節の風物詩だ。
そうか、もうそんな季節なんだなぁ。
「そういや、ヒラールの葉っぱって、どの区でも食う物なのか?」
区によって特色などあるのだろうか。
日本の雑煮みたいに。
「いや、ヒラールの葉っぱは四十二区独自の文化じゃないかな?」
エステラが答えて、少しだけ苦い笑みを零す。
「それくらいしか、保存食として確保できるものがなかったんだよ、昔はね」
最貧区である四十二区では、干し肉などのちょっと豪勢な保存食を作るのが難しい……もしくは、そういう保存食があったとしても買えなかった連中が多いのだろう。
それで、大量に取れる菜っ葉を保存食として、雪に覆われる地獄の豪雪期をなんとかかんとか、細々と、辛うじて命を繋ぐように乗り切っていたのだろう。
……あれ、なんだろう。泣けてくる。
「今年も、お汁粉いっぱい作ろうな」
「いや、ヤシロ。君が優しさを垣間見せてくれたのは嬉しいんだけど、みんなもう、保存食くらい十分に買えるようになってるから」
四十二区はこの一年でさらにで大きく飛躍した。
ド貧乏と言われるようなヤツはいなくなった――と、エステラが言っていた。
事情があって金銭的に立ち行かないような貧しい家庭には、領主から保護手当が出されるようになったらしい。
それを足掛かりとして、生活を立て直すための仕組みを構築したのだそうだ。
限界だった頃のヤップロックと出会い、これは放置できないと行動を起こしていたらしい。時間はかかったが、なんとか体裁は保てたと安堵の息を漏らしていた。
つくづくお人好しだな、この区の領主様は。
「んじゃあ、もうヒラールの葉っぱは食べなくなるかもしれないのか」
まぁ、見るからに貧乏くさい保存食だしな。
去年はおひたしとスープにしたっけな。
今年からは、どの家庭も肉を食うのだろう。焼肉も流行り始めたことだし。
なんてことを思っていたら。
「えぇ~! あたし、ヒラールのお浸し食べたいです!」
「……アレがないと、年の瀬という感じがしない」
ロレッタとマグダが猛反発し、ミリィがここぞとばかりに激しく首肯していた。
「では、今年もみなさんでおひたしとスープをいただきましょうね」
今からわくわくとした顔でジネットが言って。
「わたしも、ヒラールの葉っぱは大好物ですから」
ペロッと舌を覗かせる。
あぁ、そうかい。
つまりこれはアレだ。お節みたいなもんだ。年末年始に食料を保存する必要がなくなった日本でも、ないとなんだか寂しいなぁ~みたいな感じで生き残り続けている。まさに、風物詩なわけだ。
合理性とか、良し悪しじゃないんだなもう。
四十二区の年の瀬にはヒラールの葉っぱが不可欠。
そういうことなのだろう。
「じゃあ、大量に仕込むか……って、あいつら、また泊まりに来る気かな?」
去年はいろいろ仕方がない事情があっただろうが、今年は事前にちゃんと準備しろよ?
毎年恒例になられちゃ堪らんぞ、あんなバカ騒ぎ。
だというのに。
「みなさんと一緒なのは楽しいですから、たくさん準備しましょうね」
ジネットが乗り気なのだ。
あ~ぁ、これはきっと不可避なんだろうなぁ……
「恒例行事と言えばさ」
ミリィと仲良く戯れるマグダ&ロレッタの隣で、エステラが俺に問いかける。
「今年の光の祭りはいつやるの?」
「光の祭り?」
「ほら、去年やったじゃないか。街道を使って、教会へ光を返還するお祭りをさ」
それは、陽だまり亭の前の道がまだ街道と呼ばれていなかった頃、そこへ街道を誘致するために企画したお祭りだ。
光るレンガのお披露目を兼ねて、屋台なんかをずらっと並べて盛大に行った大イベント。
おかげで、陽だまり亭の前に街道が通ることになった。
「今年はやる予定ないぞ?」
「えっ!? なんでさ!?」
なんでも何も……
「俺は、店の前に街道を通したかっただけだし」
もう街道は通ったのでやる理由がない。
そもそも。
「やるにしてももう遅いだろ?」
去年の祭りはもっと前にやってたぞ?
やりたいならもっと事前に根回ししないとムリだろう。
「なら早く言ってよ!?」
「お前がとりまとめとけよ。街のイベントは領主の管轄だろう?」
それでなくとも、今年は新しいイベントを山のように行ったのだ。
もう終わったイベントにまで構っていられない。
「恒例行事にしたいなら、どれを残してどれを省くか、ナタリアや各ギルド長らと協議しとけよ。ノリだけで出来るもんじゃないんだから、イベントって」
「……運動会にハロウィンにミスコンテスト」
「ま、まぁ……確かに、結構ノリだけでいろいろやったけどもだ」
一回目と二回目以降は違うの!
一回目は割と失敗しても大目に見てもらえるんだよ。記念だ思い出だメモリーだヴァスパミナーニエだとな。
でも、恒例行事にするつもりならそれじゃダメなんだ。
そのイベントを行うための『なぜ』が重要になってくる。
「楽しいから」だけでは続かなくなる。
失敗するのが目に見えているものに、人は金と時間と情熱を費やせない。
「やるなら、年始から動いてないと間に合わねぇよ」
「そっかぁ……楽しみにしてたのになぁ」
「ハロウィンや運動会も、来年やるかどうかは分からないだろ?」
「いや、やろうよ、折角なんだし」
「区の財政を圧迫する可能性を考慮してるか?」
「う…………でも、光の祭りはやりたいな。すごくキレイだったし、みんなも楽しそうだったし、利益も結構出たし」
取捨選択するとして、光の祭りは最優先されるようだ。
「なんにせよ、規模は考えとけよ。そうでないと、拡大し過ぎて破綻するか、縮小し過ぎて自然消滅するか、どっちにしても続かないからな」
ジネットの誕生日にしてもそうだった。
ロレッタやマグダは去年と同等、いやそれ以上の盛大なパーティーをやりたがったが、ジネットがそれを固辞した。俺もジネットに賛成した。
毎年規模を拡大していたのでは陽だまり亭の経営を圧迫するし、何よりジネットの負荷が大きくなり過ぎる。
祝われる方も、少なからず心労を負うのだ。
盛大になればなるほど、その苦労は大きくなる。
『あなた一人のために東京ドームを貸し切って10万人でお祝いします!』とか言われたら、憂鬱とプレッシャーで寝込んでしまいそうになるだろう?
何事も適度がいいのだ。
なので、今年のジネットの誕生日はささやかなものにしておいた。
近しい者たちだけで、気持ちばかりのプレゼントを贈り、ジネットの手料理をみんなで食べた。
ケーキだけは、ちょっと頑張ったけどな。俺が。
そのくらいでちょうどいいのだ。
「確かに、ハロウィンを毎年今年レベルで続けるのは大変かもね……」
ハロウィンでは、トルベック工務店と金物ギルドと服飾ギルド――というか、ウクリネスが物凄く頑張っていた。
初お披露目となる最新技術がいくつも登場した。
そんな万博みたいな盛り上がりを毎年は続けられない。
縮小も、長く続けるためには必要なことなのだ。
「でもさ、光の祭りだけは去年のレベルを維持したいよ」
「まぁ、各店で利益があったんなら、協賛を募ればやっていけるんじゃないか?」
去年の、よく分からない状態でもそこそこ協賛が得られたんだ。
祭りの味を知った者たちからなら、いくらでも金を引っ張ってこられるだろう。
「あ、祭りをやるなら花火も同時に打ち上げたいな」
「えっ、結婚式じゃないのに?」
「別に結婚式限定じゃねぇよ、花火は。俺の故郷では祭りとセットで打ち上げるところが結構あったぞ」
「そうなんだ……うん、考えておくよ」
「……嬉しそうな顔しやがって」
エステラがすごく前向きだ。
何がなんでも光の祭りをやりたいという意気込みが見て取れる。
そんなに楽しかったのか、食い歩きが。
「イメルダの接待ではあったけどさ」
当時を思い出すように、エステラが楽しげな顔で空を見つめる。
「浴衣着て、がま口持って、棒に刺さった変わった料理を食べてさ……ふふ。楽しかったよね、ヤシロ?」
自然な感じで俺に向けられた笑顔。
それは、一緒に過ごした者へ向ける顔であり、俺とこいつが同じ時間を共に過ごしたという事実をことさら強調する行為だった。
その時、ジネットや他の連中は仕事の真っ最中だったんだぞ。
なんか、俺とエステラだけが遊び歩いていたみたいで、居心地が悪いじゃねぇか。
「エステラさん、お兄ちゃんを独占できて嬉しかったです?」
「どっ、独占じゃなかったよ!? イメルダがいたから!」
「……祭りの後、ヤシロにがま口をもらってはしゃいでいた。マグダは四度自慢された」
「それはっ、ほらっ、ヤシロの要請で私物のがま口を手放すことになったから、その補填だよ!」
……な?
そういうことを言うと、こういう反撃に遭うんだよ。
まったく、迂闊な領主だな、お前は。
「とにかくっ! 光の祭りはとっても楽しいので来年から恒例行事にするよ! 教会との関係も良好にしておきたいしね」
そんな照れ隠しを大きな声で言うエステラ。
その大声が、ヤツの耳に届いてしまった。
「その話、詳しく聞かせてもらおうではないか、エステラ! そして、カタクチイワシ!」
ドバーン! と、ドアを開け放ち、ルシアが陽だまり亭へと入ってくる。
……なぜ、お前がここにいる?
「私のおらぬ間に、私の知らぬ楽しいことをするつもりか? 許さぬぞ、そのようなことは!」
「いや……つか、お前関係ないじゃん」
「何を言うか、カタクチイワシ!? カニの食べられないところだけをかき集めて食べさせるぞ!?」
やめろ!
気分悪くなるわ!
「えっと……ルシアさん?」
「なんだ、エステラよ?」
「今日は一体、どういった御用向きで……」
「んほぉぉおおう!? ミリィたんではないか!? 今日も一段とプリチーだなぁ! すりすりしてもいいだろうか!?」
「落ち着け、変態領主!」
「カタクチイワシ。エステラとて傷付くことがあるのだぞ? 言葉には気を付けてやるのだ」
「お前だ、変態なのは!」
えっ、まさか自覚ないの!?
いよいよ隔離が必要な段階か?
「何しに来たんだよ? 理由もなく来るような距離じゃないだろう?」
念のためにもう一度確認するが、四十二区から見た三十五区は、外周区の対角線上に位置する最も遠い区だ。
二十九区を通るニューロードを使用したとしても、対角線上なので結局遠い。
そう頻繁にやって来られる距離ではないのだが……
「ふふん。我が区の新たな名産品である打ち上げ花火の需要が多くてな。税収が上がったので、馬車のグレードを上げたのだ! 以前よりも馬の速度が格段に上がったのだ! すごいだろう!」
「他所に使え、その労力と金!」
そうまでして四十二区に来たいのか、お前は!?
「ふん、小憎たらしい男だ。折角、今日はこの時期に三十五区でよく取り引きされる物を持ってきてやったというのに」
「それって、豪雪期に備えて保存食にされるような物か?」
「そうだ。まぁ、言ってしまえば風物詩というものだな。ギルベルタ、アレをここへ」
「了解した、私は」
荷物の中身をギリギリまで隠して俺たちを驚かせたかったのだろう。
表で待機させていたギルベルタに荷物を持ってこさせるルシア。
ギルベルタが持ってきた四角い箱状の物には黒い布がかけられていた。
ホント、ギリギリまで焦らしやがる。
「ジネぷーにこれを料理してもらえば、きっと美味しいものになるのではないかと思ってな」
「わぁ、嬉しいです。どんな食材なんでしょうか。わくわくします」
ご指名を受けたジネットがギルベルタの前に近付く。
エステラも興味があるようでジネットの隣に陣取る。
そうなると、マグダとロレッタも「我も我も」と身を寄せ、ミリィも興味が引かれたのかちょこんと群れの中に身を置いている。
ギルベルタが持つ、黒い布をかけられた四角い箱の前に女子たちが群がる。
そして、ルシアの合図とともに黒い布が取り払われる。
「では、ご開帳だ!」
「ばさっとはぎ取る、私は、黒い布を」
その瞬間、群がっていた女子たちが悲鳴を上げて後方へ倒れ込んできた。
ギルベルタが持っていたのはガラス製の水槽で、その中には巨大なアナゴが泳いでいた。
女子たちが悲鳴を上げたのは、アナゴが水槽のガラスに向かって突進してきたからだろう。
「な、なん、なんなん……なんなんですか、これは!?」
「はっはっはっ! エステラはにょろにょろした物が苦手か?」
期待通りのリアクションだったようで、ルシアが大いに満足げだ。
「あの、ヤシロさん」
ちょっと驚いたのか、ジネットが胸を押さえながら俺の方へと振り返る。
「どうした? 押さえるのを手伝ってほしいのか?」
「違いますっ!? あの、ヤシロさんは、あれをご存じですか?」
ジネットはアナゴを見たことがないようで、魚だとすら認識していないようだ。
「あぁ。こいつは美味いぞ。いくつか調理方法はあるが……」
「そうなんですか。では、教えてくださいますか?」
それは構わないが。
「なぁ、ルシア。普段はこれ、どうやって食ってるんだ?」
「開いて焼くか、蒸し焼きが一般的だな。水槽に入れておけば豪雪期の間生きていてくれるので、保存食になるのだ」
それは保存食なのか?
まぁ、一週間から十日くらいならそれで十分か。
「それじゃあ、とっておきの食い方を教えてやる」
ちょうど、いい物が手に入ったところだしな。
「ジネット、みりんを使ってみるか」
「はい! 使いたいです!」
つい先日、二十四区の麹職人リベカからみりんが送られてきたところなのだ。
米麹があると言っていたので、みりんの作り方を教えておいてやったのだ。
みりんがあると料理の幅が広がるからな。
出来たみりんを融通してくれる見返りに、レシピはくれてやった。
調味料は多い方がいい。
ふふふ、これでぶり照りが作れる~♪
夢が膨らむね。
そして、この料理にもみりんが役立つ!
「アナゴの蒲焼きとアナゴ飯を作るぞ!」
そんな、賑やかだが妙に落ち着く日常は、こうして過ぎていくのだった。
あとがき
恥ずかしながら、帰ってまいりました!
いえ、とはいえ別に恥ずかしい格好で帰ってきたわけではありません。
安心してください。穿いてますよ!
本日より、『異世界詐欺師』三幕、開幕です!
(「わーいわーい」みたいな顔文字を入れようとしたのですが、なんか「これだ!」というのが見つからなかったので文字にてお送りいたします。「わーいわーい」)
さて、他所様で『異世界詐欺師-分割版-』とか『詐欺π』とかやっておりましたが、
ご覧いただけたでしょうか?
別にご覧になっていなくても問題なく三幕はお楽しみいただける……はず、です。楽しんでいただけると嬉しいなぁ~(*´ω`*)
『異世界詐欺師』三幕は、
こちら、『小説家になろう』、
そして、『カクヨム』、『ノベリズム』にて同時掲載になります。
(掲載? 連載? 更新? まぁ、そんな感じです)
他2サイトでは、3000文字(ちょっとオーバー)ごとに区切り
毎日更新です。
いえ、毎日更新の予定です。
今のところそんな予定ですが、急に止まるかもしれません。その時はごめんなさい。
そして、こちら『小説家になろう』では、
これまでと同様、数日に一回、
10000文字(ちょっとオーバー)にまとめてドーンと更新していきます!
長いよ!
ここだけ、めっちゃ長いからね!
ただ、内容は一緒です。
二日~五日に一回くらいの予定です。
そして、こちらでは、
ここだけは、
『小説家になろう』限定で、
(」≧□≦)」< あとがきがつきますよー!
(」≧△≦)」< いらないって言ってもつくんだからねー!
(」≧▽≦)」< 楽しんでくれると嬉しいにょー!
あとがきも、これまで同様1500文字~2000文字(ちょっとオーバー)くらいでしょうかね(^▽^)
……なんですか、皆様?
腕をまっすぐ伸ばして私を指ささないでくださいませんか?
(ちょっとオーバー)が嘘だとおっしゃるんですか!?
どうせ(めっちゃオーバー)するんだろと、そう御思いですか!?
( ̄^ ̄ ) …………
(  ̄- ̄) …………
(*゜∀゜) 正解っ!
あぁ、ただですね、
『異世界詐欺師』統括総合エグゼクティブプロデューサー、略して『偉いさん』から
「本編最優先で!」
と、厳令を受けておりますので、本編を圧迫しない程度に抑えていく予定です。
あと感想返しも滞ったり、お返事できなかったりすることがあるかもしれません。
ので、その点はあらかじめご了承くださいませ。
思っていたほど書き溜められなかったので、
また書いて出しの自転車操業になりそうですので。
何卒、ご容赦くださいますよう、重ねてお願い申し上げます。
いや~、実は、
同時に別作品をやっておりまして(チラッ、チラッ)
それも、二作品同時でして(チラッ、チラッ)
さらにちょこっとリンクしたりシンクロしたりする世界観でして(チラッ、チラッ)
そちらも併せてお楽しみいただければ、この上なく幸せだなぁ~と思う次第でして
えっ、宣伝しちゃっていいですか!?
いや~、悪いっすねぇ、なんか催促しちゃったみたいで(*´ω`*)>
というわけで、
『縁、結ぶ。異世界結婚相談所~現世で100連敗を喫してもなお、結婚目指して異種族婚活はじめます~』
『縁、解く。異世界離婚相談所~現世で999組を成婚させた末、異種族夫婦の離婚問題に取り組みます~』
上記二作品
よろしくお願いいたします!
宮地さんのマイページか、
小説情報の下の方の、『同一作者の小説』から飛んでいけます。
神が統合せし『世界』シリーズ
という、カッコよさげなシリーズ名で一括りにしているのですが、
作業場では『婚活』『離婚』と呼んでおります。
喫茶店とかでミーティングするじゃないですか?
その時にですね――
宮地「もうすぐ婚活が一段落するから、そしたら離婚するよ」
P「いや、先に離婚して、目途が立ってから婚活して、そのあとすぐ離婚してくれる?」
店員さん「……(なんじゃ、こいつら!?)」
みたいなことになっております。
P「離婚と婚活は同時に公開するから」
店員さん「(離婚と婚活を同時に後悔!?)」
宮地「じゃあ、それが終わったら詐欺師はじめるわ」
店員さん「(結婚詐欺師か、この二人!?)」
P「作家とマスターどうする?」
店員さん「(被害者!? その二人はカモなの!?)」
宮地「月一くらいで定期的に出来ないかなぁ?」
店員さん「(そんな何度も騙されるの!? アホなの、作家とマスター!?)」
みたいなことに……なっていなければいいのですが。
ともあれ、他の作品ともども、
新たに動き出した『異世界詐欺師』三幕をよろしくお願いいたします!
無添加から続く四十二区の日常。
まだ問題は起こりませんが、ちょっとばかり厄介な事件を起こしてやろうかと企んでおります。
でも、しばらくはまたのんびりと、
久しぶりの四十二区を楽しんでいただければと思います。
あぁ、そうそう。
本編中にあった
「――ここは陽だまり亭!」
は、とあるアニメ作品のオマージュでして、
まぁ、タイトルを言っちゃうのはアレなので一部伏せますが、
ここ○グリーンウッドってOVAが……伏せるとこ下手か!? 上のと併せてなんとなく分かるわ!
まぁ、いいでしょう。
その作品のOVA一巻の終わり方がそんな感じなんですね。
でも、ほら、『OVA』って昭和の香りするじゃないですか?
だって、『オリジナル・ビデオ・アニメ』ですよ?
「ビデオて!?」Σ(・ω・ノ)ノ!
なので、本編では「劇場版」ってことにしときました。
本当はOVAなんですけどね。
でもほら、今年は私、『令和BOY』として売り込んでいこうとしているじゃないですかぁ~
昭和の香りとか、ちょっとメンゴなんっすよねぇ~
キャハッ、ナウい言葉出ちった☆
というわけで、
『令和・シちゃってる・ぼぅい☆』宮地さんをよろしくです☆
そろそろ締めのお時間なんですが、
最後にどうしても言いたいことがありますので、一つだけ。
円マークって、あるじゃないですか?
¥ ←これです
これって、カッコでくくると――
( ¥ )
パッツパツのTシャツを着た巨乳さんの谷間に見えませんか!?
バストトップに出来るシャツのシワまで再現!
素晴らしい!
左右の空白なくしてもいいですよ!
(¥)ムギュゥゥゥゥウウッ!
ね?
ねっ!?(*゜∀゜)o彡°
みたいな感じで、
『異世界詐欺師』三幕と婚活離婚もよろしくです☆
今後ともよろしくお願いいたします。
宮地拓海




