253話 猛暑期には冷たいスイーツを
アッスントの家を訪れた後、俺は一人、ノーマの家へと向かった。
「のぉ~お~ま~ちゃん☆」
「ふぉお!? 猛暑期の前に豪雪期が来たんかいね!?」
肩を竦めて自身の二の腕をさすさす擦るノーマ。
失敬な。こんなにもプリティー&フレンドリーな俺に対して。
「実は早急に頼みたい仕事があってな」
「今度は何さね? あぁ、前に言われてた物なら出来てるさよ。猛暑期に間に合わせてくれって言ってたからさ」
「そうそう。それなんだけど、大至急あと二個作れないかな?」
「……はぁ?」
いや、分かるよ!
試行錯誤して作ってくれた物をもう二個作れとか、それも大至急とか、ちょっとムリさせてるなぁ~って思うけどさ!
でも、ノーマなら出来るはず!
「褒美は、弾んでくれるんだろぅね?」
「ほ、褒美?」
なんだろう?
ハグならいくらでもしてやるが……あっ。
「バストアップマッサージをしてやろう」
「それじゃ、ヤシロへのご褒美じゃないかさ!?」
「入念に!」
「いいからその卑猥な手つきをおやめな!」
卑猥じゃない!
これは『ふんわり包み込むようなエンジェルタッチ』というのだ!
「去年は、その……随分楽しかったらしいじゃないかぃ? ねぇ?」
「去年なら、お前も参加しただろう、川遊び」
ノーマの水着姿は今でも目に焼きついている。
あれはいい。零れ落ちそうで……
「手がまたマッサージしてるさよ!」
おぉ、いかんいかん。『ふんわり包み込むようなエンジェルタッチ』が勝手に。
「……で、そうじゃなくてさね」
視線を外し、手をもじもじさせて、尻尾が忙しなくゆっさゆっさ揺れて、ノーマがチラチラとこちらを見ながら言葉を寄越してくる。
「猛暑期じゃなくて、豪雪期に、さ……ほら、あの……ねぇ?」
あぁ、豪雪期の集団宿泊の件か。
あれは別に狙ってやったわけじゃなくて、連中が勝手に押しかけてきて、そのすべてをジネットが受け入れちまっただけなんだが……
「……狭いぞ?」
どーせ、デリアやイメルダは来るなと言っても来るだろうし。
エステラたちはどうする気だ? 去年はナタリアの采配ミスで給仕が全員いなかったようだが、同じミスは二度としないだろう。……ミスじゃなくてワザと仕出かす可能性はあるけどな。
なんにせよ、陽だまり亭では部屋不足だ。
宿泊施設じゃないんでな。
「大丈夫さね! アタシはマグダをお腹に乗せて寝るからさ!」
そんな、子供をヒザに乗せて電車に乗るみたいな……
新幹線でもつらいのにさ。ずっと乗っけてるのは。
「じゃあ、ジネットに聞いとくよ」
「やったさね!」
「その代わり、例の機械をあと二つ……」
「もう出来ているさね!」
はぁ!?
発注する前にもう出来てるだと!?
「何かトラブルがあった際の予備にと思ってね。よかったさね、ちょうどあと二個あるんさよ」
これはまた、なんとも都合のいい。
「んじゃ、明日の朝陽だまり亭に来てくれ。試作品を食わせてやるよ」
「明日かぃ? 今日でも時間は作れるさよ?」
「いや、今日は涼しいからな」
アレは、暑い日に食ってこそその美味さを発揮するのだ。
たしか去年は、日も昇る前から猛暑になっていたし、ちょうどいいだろう。
「ほんじゃあ、明日の開店前に行くさね」
「おぅ。ミリィも来ると思うから一緒に感想聞かせてくれ」
「そうなんかぃ? んじゃあ、アタシがミリィを迎えに行ってやるさね。日の出前は物騒だからねぇ」
四十二区でも、日の出前に美少女が一人で出歩くのは注意した方がいい。
ん? ノーマ?
大丈夫だ。ノーマに勝てるヤツなんか、四十二区には数えるほどしかいない。
デリアとマグダとナタリアと……男では皆無だろうな。
「そんじゃ、また明日な」
「楽しみにしてるさね」
例の機械は重たいのでノーマに持ってきてもらうことにして、俺は陽だまり亭へと戻った。
そして夜が明けて、猛暑期がやって来た。
「マグダ。廊下に転がるなって去年も言ったろ?」
「……この暑さが悪い。マグダは被害者」
今年もまた、綺麗な『気をつけ』で廊下に転がるマグダ。水揚げされたマグロのようだ。
「頑張って起きると、ご褒美があるぞ」
「……コーヒーゼリー?」
ふふん。
そんな、一年も前にお披露目したスイーツなわけがないだろう?
「もちろん、最新作だ」
「……ほぅ。それは、頑張って起きる甲斐がありそう」
むっくりと起き上がり、汗で顔に張りついた髪をくしゃくしゃっと払いのける。
あぁ、もう。もはもはしちゃってるし……あとでブラシしてやらなきゃな。
「ヤシロさん、マグダさん。おはようございます」
この酷暑の中、汗一つかかずににこにこ顔で二階へ上がってくる。
こいつはもう働いていたのか。
この暑い中、本当に頭が下がる。
「じぃ~」
「ヤシロさんっ」
頭が下がったら、自然と視線が谷間に吸い寄せられてしまった。
汗ばんでいないだろうか?
「ノーマさんとミリィさんがお見えですよ」
「おぉ、もう来たのか」
随分と楽しみにしていたようだな。
大きな荷物を抱えた美女と美少女が寝起きの俺たちを迎えてくれる。
「なんさね、ヤシロ。シャキッとするさよ」
「くすくす。てんとうむしさんもまぐだちゃんも、寝癖、すごいょ?」
二人は食堂に入ってもなお、荷物を抱えている。
置けばいいのに。
「どこに置けばいいさね?」
あぁ、設置までしてくれるつもりで持ってたのか。
ミリィも然りか。
「悪かったな、ノーマ。そんな大荷物を持たせて遠回りさせちまって」
「なに言ってんさよ。こんなもん、大した重さじゃないさよ」
そんなわけがない。
あんな鉄の塊を三つも持って重たくないはずがないのだ。普段から鍛えてでもいない限り……はっ!? そうか!
「ノーマは巨乳をぶら下げることで普段から修行を……!?」
「この荷物を持たされたくなかったら口を閉じるさね!」
そんなモンを持たされたら腕が千切れてしまう。
しょうがない。黙ろう。
「じゃあ、一つはここに置いてくれ。あと二つは屋台に設置するから」
「んじゃあ、あとでアタシがやってあげるから、とにかく早く使って見せておくれな」
「まぁ、待てって。その前にシロップを作らなきゃな。ジネット」
「はい。準備は出来ていますよ。ミリィさん、果物をお願いします」
「ぅん! いっぱい持ってきたょ!」
「……『おっぱい持ってきたさね』」
「言わないさよ、マグダ!? 捏造はやめておくれな!」
寝ぼけ眼でも決して外さないマグダ。
やるな。
ジネットがミリィを連れて厨房へ入る。
作り方は教えてあるので任せておこう。
こちらはマシンの設置を行う。
猛暑に食べたくなる、利率の高い最強スイーツ!
その名は――かき氷!
そう、アッスントには去年チラッと「氷ないか?」と話を振っていたのだ。
まさか覚えているとは思わなくて一切期待はしなかったのだが、あのちゃっかり者め、しっかりと氷を用意していやがった。
行商ギルド内に氷室まで作ったのだそうだ。
工事費は掛かったが、元手が掛からなかったそうで、思った以上にお手頃価格だった。
日本での値段に比べると割高ではあるが、そこはしょうがない。冷凍庫がないこの世界で氷は貴重なのだ。
だが、利益は十分に上げられる!
高級かき氷路線に走ってもいいが、まずはかき氷を受け入れてもらうために安さで勝負をしようと思う。
「ヤシロさん。かき氷のシロップ、作ってきました」
事前に用意しておいた『みぞれ』シロップにフルーツの果汁や果肉を混ぜて作られたカラフルなシロップがずらりと並ぶ。
イチゴ、レモン、ピーチ、キウイ、メロン、そして抹茶小豆。
色味をくっきりとさせるために、食紅を少々加えてある。やっぱりカラフルな見た目って重要だからな。
「じゃあ、マグダ。冷やっこい仕事を頼む」
「……うむ。まかせて」
暑さにうだっていたマグダが、心持ち軽い足取りでフロアを出ていく。
涼しかった昨日とは違い、今はうだるような暑さだ。
飛び散る氷の粉は、涼しくて気持ちいいだろう。
『氷保存庫』に入れられた巨大氷を20センチ角に切り出してもらう。
この『氷保存庫』と氷用のノコギリはリースだ。結構な額を持っていかれた……「気が向けば買い取りでも構いませんよ?」とかぬかしやがって。その分氷をおまけさせてやったけどな。
「そのうち、マーゥルの家の氷室を真似て氷保管庫を作ってもらおうかな」
「なら、大工との共作になるさねぇ……いつから着工さね?」
いやいや! 今ぽろっと言っただけだから!
決定事項じゃないから!
「あんなこといいな出来たらいいな」の段階だから、まだ!
食いつくねぇ!? ノーマ、魚だったらすぐ釣り上げられてるぞ、お前。
ノーマ曰く、外気温を室内へ伝えないための工夫は確立されているとかで、氷室は一定ランク以上の貴族は持っているものらしい。
なので、陽だまり亭に作ることも出来るのだとか。
ただし、完全に熱をシャットアウトは出来ないので多少は溶けるらしいけれど。
年中涼しい四十二区の気候なら、一年中氷を保存することは可能らしい。
……いや、力説してるとこ悪いけど、決定事項じゃないからな?
そこまで金かけて、維持費かけてまで氷が欲しいかって言われると「う~ん……」だから。
アッスントから買う方が結果安上がりになるだろうし。
前のめりなノーマを落ち着かせたところでマグダが氷を持って戻ってきた。
氷は現在、一日中日陰で温度が上がらない裏庭に置いてある。
ぐるっと回ってご苦労様だな、マグダ。
好きなだけ食っていいからな。お腹を壊さない程度に。
「おっはよーでーす!」
「おはようございます」
昨日のうちに知らせておいたロレッタと、知らせていないはずのベルティーナが満面の笑顔でやって来る。
……うん。だろうね。来るよね。
「あとはエステラさんですが……」
「そのうち来るだろう。先に始めよう。氷が溶けちまう」
「そうさね! アタシも早く見たいさね!」
「みりぃも、ちょっと気になる、かも」
エステラには、移動販売の新商品ということで試食させることになっている。
まぁ、あいつなら不許可とは言わないだろうが、領主の認可を得ておくのは後々のトラブルを防ぐのに役立つ。
というか、教えておかないと絶対あとでぶーぶー文句を言われるからな。
「それじゃ、始めるぞ」
かき氷器に氷をセットし、ハンドルを握る。
俺がオーダーしたのは、古き良き日本のガキどもが熱中したかき氷屋の氷かき器。
本体側部に回転式のハンドルが付いたオーソドックスタイプだ。
上部にハンドルが付いたタイプでもよかったんだが、横回転と縦回転では、やはり縦回転の方が疲れなくていいのだ。
……どうせ、アホほどやらされる羽目になるんだろうし。
「わぁ!」
ハンドルを回せば、氷が削られてふわふわとした雪のような塊が器に落ちる。
それだけでジネットとミリィが瞳をきらきらさせて歓声を上げるが、これではまだダメだ。
氷の粗さを確認しながら刃の位置を調節する。
数度調整を繰り返し、理想の氷が出来るようになってからが本番。
昨日のうちに大量生産しておいた『フラッペボゥル』にかき氷を盛っていく。
このフラッペボゥルと、セットの木のスプーンは屋台にて5Rbで販売される。
ポップコーンの時と同じで、入れ物とスプーンを持っていれば5Rb安くなるのだ。
かき氷は20Rbで販売される。
だが、おかわりの時は器があるので15Rbで買える。これはお得!
――という錯覚を起こさせる効果がある。
日本円で150円だとちょっと高い気がするが、そこは珍しいスイーツということで我慢してもらうほかない。
氷が高いんだよ、日本よりも。
「雪の山です」
フラッペボゥルに形成されたかき氷の山を見て、ジネットが頬を紅潮させる。
ミリィもうっとりと見つめている。
舞い散る雪のような見た目は、女子の心にクリティカルヒットしたらしい。
「そこに、お好みのシロップをかけて食べるんだ。最初は……じゃあ、頑張ってくれたノーマにするか」
「えっ!? ア、アタシでいいんかぃ?」
ベルティーナやジネットを差し置いてと、恐縮した顔を見せるノーマ。
だが、冷静を装っていても尻尾は雄弁に物語っている。
「うはぁ、キレイさね~、かわいいさね~、食べてみたいさね~」ってな。
可愛い物好きなノーマにはたまらんスイーツだろう。
「何味がいい?」
「そ、そうさね……じゃ、じゃあ、ピーチにするさね。……あぁ、でも待っておくれな! イチゴも捨てがたいさね!」
「みんなでシェアすればいいだろうが」
「そ、そうさね! じゃあ、誰かイチゴ食べる人はいるかぇ?」
「じゃあ、わたしはイチゴにします」
「……マグダはメロン」
「みりぃ、レモンにしてみよう、かな?」
「あたし、キウイが食べたいです!」
「全種類お願いします」
「こら、そこのシスター」
腹壊すぞ?
こいつの言う全種類は『全部かけ』ではなく、単体かけを全種類だからな。何杯食う気だ。
「じゃあ、俺は抹茶小豆にするからみんなで回し食いするか?」
「そうですね。そうします」
抹茶小豆。またの名を宇治金時。
ただ、『宇治』が伝わらないと思って抹茶小豆という名称にした。
宇治茶は、さすがにないからなぁ、四十二区には。
「それじゃ、まずはピーチだな」
瓶に入ったピーチシロップをこれでもかとかき氷にかける。
キレイに盛られた氷が少し溶け、シロップの色を吸い込んで薄桃色に染まっていく。
「そ、そんなにかけるんかぃ? なんだか贅沢さね」
「シロップは多い方が美味いからな」
少ない方が利率は高いが、ケチって「イマイチ」なんて評価を受けるのは愚策だ。大盤振る舞いしてやろうじゃないか。
かき氷を受け取ったノーマは少しだけ緊張した面持ちで、スプーンを氷に突き立てる。
しゃくっと音がして、上部の氷が崩れ落ちる。
「あぁっ!? もったいないさね!」
「いいから食えよ。溶けるぞ」
「そ、それじゃあ……」
しゃくしゃくと山を崩すように突いて、そしてシロップがたっぷり染み込んだかき氷を口へ運ぶ。
「…………ん~! あっまい、さねぇ~」
甘みが全身に行き渡り、ノーマの頬を紅潮させる。
尻尾が幸せそうにうねうね動いている。
「じゃあ、次はマグダのを作るか。ご褒美をやる約束だったしな」
「……うむ。氷を切り分ける仕事もこなしたマグダが最適」
マグダも期待が抑えられないようで、尻尾がピーンっと立っている。
「あの、ヤシロさん。シスターが我慢できない様子ですよ」
くすくすと笑って、ノーマを羨ましそうに見つめるベルティーナを手で指し示すジネット。
近所のかき氷屋でも、順番待ちのガキが同じ目をしていたよ。次々量産されるカラフルなかき氷を目で追いながらな。
「ベルティーナを優先させると、一口もらう前になくなっちまうだろ?」
「ふふ、そうですね」
「むぅ、それくらい、我慢しますよ?」
おぉ~っと、シスターが嘘を吐いていいのか?
お前なら、二秒で完食してしまうだろうに。
「ほい、マグダ。自分でシロップかけるか?」
「……それは、贅沢な提案」
出来上がったばかりの氷の山を渡してやると、マグダは緑色をしたとろみのあるメロンシロップを贅沢にたっぷりとかけていく。
一周回し掛けて、チラッとこちらを見てきたので、「もっといいぞ」と言ってやると、嬉しそうに尻尾を立てて二周目をかけた。
メロンシロップは、ハムっ子農場で獲れる甘いメロンをふんだんに使用した贅沢なシロップだ。今はアンデスメロンに近い味だが、いつしかマスクメロンや夕張メロンを作ってやろうと密かに執念を燃やしている。
メロンは高級品として需要があるからな。完成すれば、富をもたらしてくれるだろう、むふふん。
「…………よき」
しゃくしゃくと、シロップ多めのところを突き崩して食べるマグダ。
多くを語らず、黙々とかき氷を食べている。
冷たさが心地いいのか、一口食べてはまぶたを閉じて「ん~……っ」と体をぷるぷる震わせている。楽しげだ。
「マグダっちょ、美味しいです? 美味しいですか?」
と、かき氷を食べるマグダの周りを回遊するロレッタ。
じっとしろよ……さっさと渡して落ち着かせるか。
「ほれ、ロレッタ。お前も自分でかけろ」
「えっ!? あたし三番目でいいです!? てっきり最後まで待たされて『じゃあ全員行き渡ったな』ってネタが来るかと思ってたです!」
「……ご希望ならやるけど?」
「いらないです! やったです! かき氷です!」
出来立てのかき氷を掻っ攫い、キウイシロップをかけるロレッタ。
氷の上に『キウイ』という文字を書いている。……しょーもないことを。
「これ、可愛いですけど、シロップが全然足りてないです!?」
味がほとんどしなかったらしく、その後ドバドバとシロップをかけていた。
ホント、いろんな反応があるもんだな。
「じゃあ、次はミリィな」
「ぅん。ぇへへ。近くで見てて、ぃい?」
「おう。氷が飛ぶから気を付けろよ」
「ぅうん、いぃの。冷たくて気持ちぃいから」
よぉ~し、それじゃあミリィがびしょ濡れになるまで氷をかけちゃうぞ~☆
……はっ!?
イカン。一瞬、俺の中の不審人物が顔を覗かせかけた。
恐ろしい……俺のような紳士の中に眠るほんの些細な邪念を掻き立ててしまうなんて……ミリィの幼女力、侮りがたし!
「そりゃ」
「ぅひゃう!? もぅ、冷たいょう、てんとうむしさん」
零れていた氷を投げつけると、ミリィが可愛らしく腕を振って抗議してくる。
あはぁ……癒される。
「ヤシロさん。イタズラはダメですよ」
「えい」
「きゃう!? ……もう」
叱るジネットにも氷を投げる。
落ちた氷は衛生上もう使わないからな。こういう使い方をしても罰は当たらないだろう。
腹は膨れんが、心は満たされる。
「ヤシロさん、あ~ん」
「お前のは意味が違うから、ベルティーナ」
次は自分だとばかりに前へ進み出て大きく口を開けるベルティーナ。
そんな堂々としたつまみ食いの催促、初めて見たわ。
ベルティーナがうずうずしているので、さっさと作ることにする。
三度目ともなると慣れたもんで、あっという間に氷の山が器の中に誕生する。
「……なるほど。器を持つ手を回転させて山を作るんですね」
と、俺の動きを研究しているジネット。
手首を見よう見まねでくるくる回している。
「ジネット、やってみるか?」
「はい! あ、でも、シスターのが出来た後で」
俺がやる方が早いからな。
ベルティーナはもうそろそろ限界だろうし。
「ぁまぁ~い。これ、とっても美味しぃ、ね」
ベルティーナのかき氷を作っている間に、ミリィがレモンのかき氷に舌鼓を打つ。
あの定番の真っ黄色なレモン。やっぱり、こいつがないとかき氷という感じがしない。
日本でよく見かけるレモンシロップと違い、こちらでは本物の果汁を使用している。
シロップを甘めにして、ほのかにレモンの香りを感じるくらいの量で調整してある。
若干甘みが強いが、レモンスカッシュのような味わいが表現できているのではないかと思っている。
ほんのちょっと大人向けの、爽やかな味わいだ。
まぁ、大人向けと言っても、子供向けの中では比較的大人向けってレベルだけれども。
「ベルティーナ、最初は何味にする?」
「え~っと、では、ピーチにします。ノーマさんのが美味しそうでしたので」
イチゴはジネットが、抹茶小豆は俺が食べるので、その最初の感動は譲ってくれる。そんな気持ちなのかもしれない。
俺は抹茶小豆食ったことあるんだけどな。
どんだけ子供の喜ぶ顔が見たいんだよ。この母親代わりは。
「うふふ……」と、ジネットが静かに笑みを零す。
「なんだよ?」
「いえ。やっぱり、全部食べを許してあげるんだなぁ~っと思いまして」
許すも何も、止めようがないだろうが、ベルティーナの食欲は。
「ヤシロさんって、みなさんの喜ぶ顔が大好きですよね」
いや、それは俺じゃなくて…………ふん、言ってろ。
「ほい、ピーチだってよ」
「はい、承りました」
出来た氷の山をジネットに押しつける。
働け、無駄口を叩いている暇があるなら。……ふん。
ベルティーナは、こういう時に「では、自分で」ということはあまりしない。
ジネットに丸投げするのが一番安心で、一番美味しく出来るから。……ってのもあるんだろうが、なんとなく「ベルティーナのために頑張りたい」というガキどもの心情を慮っての行動のように思える。
ガキどもは、ジネットも含めてだが、ベルティーナに「ありがとうございます」って言われるのが好きだからなぁ。
「あぁ、とっても冷たくて美味しいです。ありがとうございます、ジネット」
「えへへ」
……な?
「ヤシロさんも、ありがとうございます」
「……ん」
俺は別にいいんだよ。
感謝とか……
どうせなら物品で支払ってほしいものだ。『つんつん券十枚綴り』とか。
「じゃあ、ジネット。やってみるか」
「はい」
返事をしながらくすくす笑うな。
俺の顔を見てにこにこするな。
照れてないから。全然普通だから。
だからそんな「ヤシロさんってば」みたいな顔をするな。氷を投げつけるぞ、ったく。
「結構重いぞ」
「わっ、本当ですね」
精度を上げたベアリングのおかげで、かき氷器のハンドルは軽くなっている。
それでも、最初の一回転は結構な反発を感じる。
氷が回り出せば、あとはスムーズに削れるんだがな。
「なんだか、楽しいですね」
数度練習で氷を削り、ジネットが本番に挑む。
向こうでは、すでにかき氷を手にした四人がシェアを始めている。
ジネットの分も早く作らなきゃな。
「わっ、わっ! 難しいです」
器の回し方が難しいらしく、氷がどんどん零れ落ちていく。
二杯分くらいの氷を消費し、なんとか強引に山を形成させ、ジネットの第一作目が完成する。
「もっと練習が必要ですね」
「最初にしちゃ上出来だ。じゃあ、これは――」
「抹茶小豆、ですよね?」
最初の一杯は、俺にくれるそうだ。
そうかい。
「じゃあ、シロップと小豆を頼む。その間に、ジネットの分を作っておくよ」
「はい。お願いします」
やっぱ、人に作ってもらう方が、ちょっと美味しく感じるからな。
かき氷が濃いグリーンに染まり、山の裾野に小豆が盛られる。
やっぱ、白玉も欲しいな。
「出来ました」
「こっちも完成だ」
出来た氷の山に赤いイチゴシロップをかけて、ジネットと互いのかき氷を交換する。
「では、いただきましょう」
「おう」
作り手に感謝を示し、美味しくいただこうと思う。
「ん~! 冷たくて、甘くて、猛暑期にも負けないくらいにわっしょいしています」
言葉の意味は分からんが、とりあえずお気に召したらしい。
甘みの中に少しのほろ苦さを感じさせる抹茶小豆は、後味も爽やかで実に美味い。
みんなの顔を見る限り、どの味も大成功のようだ。
「ヤシロさん、一口いかがですか?」
「それは、『お前のを一口食わせろ』って催促か?」
「うふふ。バレちゃいましたか?」
可愛らしく舌を覗かせるジネットと一口分をシェアしながら、俺はかき氷の大ヒットを確信していた。
あとがき
ありがとうございます。
宮地です。
一話を公開した後、二十一件もコメントをいただきまして、
そして、感想はなくともPVの上がり方で、本当に多くの方に見ていただけたことを知って
本当に嬉しかったです。
ありがとうございます!
Pに「本編最優先!」と釘を刺されていましたので、軽めの感想返しになりましたが、
心を込めてお返事書かせていただきました!
宮地「感想返ししたよ~!」
P「三話のあとがきは?」
宮地「まだ♪」
P「本編+あとがきを終わらせて公開できる状態にするんだよ!」( ゜Д゜)くわっ!
軽く怒られました。
次回から、お返事遅くなるかもです、ごめんちゃい( ノωノ)
というわけで、このあとがきが書き終われば無事に三話が公開されることでしょう。
三幕は、無添加以前とは書き方が若干変わりまして、
カクヨム、ノベリズムでの毎日更新と小説家になろうでのまとめ公開、
どちらでも読めるようにと配慮しております。
――執筆開始前
P「毎日更新の方は1話あたり2000~3000文字くらいで、なろうの方は3~4話でまとめて10000文字くらいで1話にして公開の仕方するから、そのつもりでヨロシポ!」( ˙▽˙)ノ
宮地「へいへ~い、まかせとり~」\(*´▽`*)
――執筆期間
宮地「二話、全部4000文字超えで18000文字になっちった☆てへっ☆」(*´▽`*)>
P「長いわっ!」( ゜Д゜)くわっ!
ということがあり、
もともと二話だったお話は二話と三話に分割されました。
そんな第三話です!
私の予想よりも早く皆様にお会いできて嬉しい限りです。
あ、そういえば、
ツイッターをご覧でない皆様には、この『P』なる人物、
いきなり出てきて「何者でおじゃるか!?」って感じですよね。
そんな皆様に一言!
「おじゃるか」って……ぷぷっ( *´艸`)
えっとですね、
実はこの『異世界詐欺師』の製作には強力なブレーンが協力してくれておりまして、
もうほとんど共作と言えるくらい助力してもらっているんです。
というか、最近は思いっきり上から指示されているのですが……おのれ、Pめ!
このPさん、
私が完全に忘れ去っているキャラの特徴とか、四十二区での年表とかを記録して教えてくれる人で、
異世界詐欺師に誤字が少ないのはこのPさんのおかげです。
あと、大食い大会とか、『BU』との多数決の際もいろいろアイデアをもらいました。
三幕では、私に代わり小タイトル(各話のタイトル、今回なら『猛暑期には冷たいスイーツを』ですね)を決めてくれております。
今作だけでなく、『縁、結ぶ。』『縁、解く。』の小タイトルも考えてもらっています。
分かりやすく言うと、マキ・プロですね。
異世界詐欺師のマキ・プロです。
ん?
分かりやすくないですか!?
え、最近のアニメって、マキ・プロ絡んでないんですか!?
昔はどのアニメでも見かけたんですけどねぇ、マキ・プロ。
「なにやってる会社なの、マキ・プロ!?」って、
誰もが一度は思ったことがあるはず!
「えっ、ここにもマキ・プロ!?」って!
どうやら、
タイトルをつけてくれるところらしいです。
意外と悩むので、タイトルをつけてもらえるのはありがたいんですよ。
――一話公開前
P「一話のタイトル、『そしていつもの陽だまり亭』と『ここは、陽だまり亭』とどっちがいい?」
宮地「なぜグリー○ウッドに寄せた!? いや、そういうネタ入れ込んだけども!」
うん、ちゃんと確認はしてますよ。
丸投げではありません。
私もちゃんと仕事してますよ!
ただ、三話が急に差し込まれた影響で、
おっぱいに見える漢字が発見できませんでした!
また、いつか発見できた暁には、この場で発表させていただきます!
( 平 )
平っていう文字なのに、若干、若干ですが、
胸の谷間のところに穴が開いたセーターを着た胸元に見え……ませんか?
見えるような、見えないようなちょっともやもやした感じですが……
急だったので、この程度しか発見できませんでした。……悔やまれます。
しかも、『平』なのに谷間っぽいとか、この矛盾!
あぁ、モヤモヤする!
でも、これが哲学というものなのかもしれません。
いや、まぁ違うんでしょうけれども。
さて、といったところで、
レビューをいただきました!
★.。・:*:・゜'☆ヽ(´▽`*)人(*´▽`)ノ★.。・:*:・゜'☆
随分とお待たせいたしましたが、
三名いらっしゃるので、順番にお返事させていただきます。
2020年 10月 27日 23時 05分の方!
温かい!
なんだかじんっとくるレビューで、脳内で渋い男性ナレーターの声で再生されました。
土曜の夜の5分番組でありそうな感じです。
陽だまり亭という舞台、四十二区という世界をうまいこと食堂のように表現して織り成される文章は巧みだなぁと感心しきりで、こういうセンスは羨ましいですね。
感動を主題に持ってきつつ、楽しげな雰囲気が感じられる温かいレビューでした!
ありがとうございます!
2020年 11月 09日 02時 42分の方!
虚乳美女!
この一言に尽きます! いいワードって、一つ生み出すことが出来ればそうれはもう成功したも同然なのです!
全体的に漂うおっぱい感と、でもおっぱいだけじゃないと語る軽妙な文章は面白みがあって癖になりそうです。
なんとも「らしい」雰囲気で楽しめる、おっぱいでありおっぱいだけじゃない、楽しいレビューでした!
ありがとうございます!
2020年 11月 21日 15時 22分
なんだか真面目なレビュー、のように見えてしっかりと『π』にも触れている、押さえるところを押さえているレビューでした。
あとがきに関してもコンパクトでありつつもポイントを押さえてあり、分かりやすい。おまけに、私が思わずにこっとしちゃう嬉しいことを書いていただいて、ありがたいです☆
タイトルから本文まで、読まれることが意識されている構成も文章もうまいレビューでした!
ありがとうございます!
というわけで、
ずっと心に引っかかっていたレビューへのお返事もやっと出来ました(*´▽`*)
さぁ、また明日から本編書きます!
次回もお楽しみにっ!(っ´>ω<))ω<`)ギュッ
今後とも、よろしくお願いいたします!
宮地拓海




