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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
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360/769

無添加15話 約束は、きっちりと

 オシナ、メドラ、そしてエステラを交えた作戦会議は滞りなく終了し――というか、俺のプランを語って聞かせ「じゃ、そんな感じでよろしく」とだけ告げて、終わりの鐘が鳴って小一時間くらい経ったころ、俺は再びカンタルチカへとやって来ていた。


 店に入る前、空を見上げるといい具合に茜色に染まっていた。


「あぁ……やっぱり捕まってたか」


 店の前にいなかったので店を覗いてみると――


「……おかえりなさいませがぉ~、ご主がぉ様」

「え、……っと? ご主がぉ様、ですか?」


 ――ジネットがマグダから謎の挨拶で出迎えられていた。

 マグダ、それは朝の『ご主にゃん様』を知ってないと意味不明になるネタだろう。変えてきたあたりに努力の跡は見受けられるけどさ。


「あ、ヤシロさん」


 店の入り口に立つ俺を見つけ、ジネットが手を振ってくる。

 そう。俺はジネットとここで待ち合わせをしていたのだ。


「遅れたな」

「いいえ。今来たところですし、マグダさんもいましたから」


 待ち時間は一切苦痛ではなかったと、マグダの頭を撫でるジネット。

 陽だまり亭の外で見ると、本当に甘やかしてるって気がするよなぁ……陽だまり亭の中だとマグダを甘やかすのが当たり前になり過ぎて特に気にもならないんだが……やっぱ甘やかし過ぎだよなぁ……ジネットは。


「ジネットはマグダに甘いよな」

「え? それは、ヤシロさんが、ではないんですか?」


 俺はそこはかとなく厳しく接してるっつの。

 マグダが一端のウェイトレスに成長したのは、俺の厳しくも的確な指導があればこそだ。


「ぇっと……どっちも、けっこう甘いと思ぅ、ょ?」


 ミリィが第三者的ポジションで意見を述べてくる。

 が、それはきっとジネットフィルターを通しているからそう見えるだけだ。

 ジネットのそばにいると、極悪人でも真人間くらいには見える補正がかかるからな。

 それかもしくは、ジネットとの方が付き合いが長いことに起因する贔屓目が生きているか、そのどちらかだろう。


「……マグダが、アイドル過ぎるから」

「うふふ、そうですね。こんなに可愛いから、可愛がってしまうのは仕方ないですよねぇ」


 な?

 甘いだろ、ジネット『は』。


「それで、ヤシロさん。わたしはここで何をすればいいんですか? 『重要な任務がある』と、いただいたお手紙には書かれていましたけれど」


 朝、俺が出かける前にジネットに渡した手紙には、こんなことを書いておいた。



『 ジネットへ

  天高く乳揺れる秋。

  (※『懺悔してください』はその場で言っておくように)


  今日の十七時、カンタルチカに一人で来てほしい。

  頼みたい重要な任務があるんだ。

  (ロレッタたちにはそのまま仕事の準備を進めておくよう伝えておいてくれ)

  別に秘密の任務ではないので、気軽な気持ちで来るように。

  ただし、ある程度空腹であることが望ましいため、間食は控えめに。


  それじゃ、よろしく頼む。 オオバヤシロ』




 という内容なのだが、なんということはない、ただのお誘いだ。


「あ、そうでした。ヤシロさん」


 ぽんと手を叩き、俺の前へと歩いてきて、背筋をしっかりと伸ばした綺麗な姿勢で眉を曲げてはっきりと言う。


「懺悔してください」

「……手紙の前で言っとけって書いといたろうが」

「ダメです。ヤシロさんはもう……ちゃんと懺悔してくださいね」


 懺悔することが多過ぎてもう忘れたよ。


「それより、腹はどうだ?」

「少し、空いています。昨日今日とあまりお料理をしていませんので」


 作っているうちにお腹が膨れるというジネット。

 そう言うと、こいつも飯を食っていないように感じるが、俺は知っている。ジネットは結構な頻度でつまみ食いをしているという事実を!


「つまみ食いが出来なかったんだな」

「ふなっ!? ……ば、バレてましたか?」


 お前の場合、隠そうとすればするほど秘密が明るみに出ると認識しておいた方がいい。

 頬をぱんぱんに膨らませて「なんでもないです!」とか言うしな、こいつは。こっちは何も聞いてないってのに。


「腹が減っているならちょうどいい」


 店はそこそこ繁盛している。

 完全に日が落ちれば客は一気に増える。満席になるまで、あと数十分というところだろう。

 そんなそこそこ混み合ったフロアの中で、目の前にジネットとマグダとミリィを並べて、俺は今から行う重要な任務を発表する。


「これより、マグダとミリィの『カンタルチカ卒業試験』を行う!」

「ぇ……!? ぇぇええ!? ぁ、ぁの、みりぃ、聞いてないょぅ?」

「……マグダも初耳」

「事前告知をしておいたのでは、お前たちの本来の力が見られないじゃないか。こういうのは抜き打ちでやるもんなんだよ」


 事前に「いついつに行きますからね~」と告知をして、その日に合わせて整理整頓をし、その時だけいつも以上に丁寧に仕事をしてみせて、それで評価を下すような社内監査を、俺は無意味だと思っている。バカなんじゃねぇのとすら感じる。

 その一瞬だけちゃんとやっても意味がない。こういうのは、日々の積み重ねを監査することにこそ意味があるのだ。

 特に飲食店の場合は、一時の気の緩みが取り返しのつかない大惨事を招きかねないからな。


「というわけで、俺とジネットをきちんと接客出来るか、審査させてもらうからな」


 言って、近場の空いた席へと腰を下ろす。

 カンタルチカの座席は大きなテーブルがいくつか並んでいるような構成で、四人がけテーブルのように向かい合って座ることはあまりない。連れとは隣同士座り、近い距離で会話を楽しむ。そういうスタイルなのだ。

 向かいの席で内緒話をされるとちょっと聞こえづらいな、くらいの距離が空いている。向かい合って話したいなら、テーブルに手を突いて身を乗り出さなければいけない。そんなサイズだ。


 なので相席は当然。

 あとは、適当に自分たちでスペースを作るスタイルだ。


 なので、すごく当たり前に、必然的に、ジネットは俺の隣に座ることになる。

 隣の椅子を引いてやると、ジネットは嬉しそうに頭を下げ、「ありがとうございます」と律儀に礼を寄越してくれた。


 まぁ、座れよ。な。


「ぅう……どぅしょぅ……みりぃ、緊張してきたょぅ……」


『試験』という言葉に緊張が溢れ出してくるミリィ。

 そんなに構えなくてもいいんだが……


「……落ち着いて、ミリィ。マグダがいるから、平気」


 緊張からぷるぷる震えるミリィの肩に手を置き、落ち着いた声で話しかけるマグダ。

 さすが、ウェイトレス歴が長いだけはある。ミリィとは比べものにならないくらいに冷静だ。

 接客に相当な自信があるようだ。


「……ヤシロ」


 椅子に腰掛けた俺とジネットの前まで来て、マグダが見慣れた半眼で俺たちにお辞儀をする。


「……試験、合格にしてにゃん」

「働けぇーい!」

「………………………………にゃん」

「もう一押しとかいらないから! 普通に接客して!」

「…………(ミリィ)」

「ぇ? ぁっ、ぁの……にゃん」

「小声で強要しないであげて!?」


 それで陥落するのウーマロとジネットだけだから!

 ……ハビエルもいけそうだな、ちきしょう!


「変態だらけか、四十二区!?(ハビエルは四十二区民ではないけれど!)」

「ま、まぁまぁ、ヤシロさん。落ち着いて」


 周りにいるオッサンどもがにやにやした目でマグダとミリィを見ているのも気に入らん。ここが陽だまり亭であったならば、別料金を食事代に加算しておくというのに……

 先払いのカンタルチカでは、あとでこっそり加算することが出来ない。あぁ口惜しい。


「とりあえずグレープフルーツジュースをくれ。ジネットは何か飲むか?」

「では、ヤシロさんと同じ物を」

「酒でもいいぞ?」

「いえ、この後お店もありますし」


 夕方から、陽だまり亭はオープンする。

 だからお酒は飲めない、か。


「たぶん、今日は『マグダたん復帰祭』になるから、ジネットの出番はそんなにないぞ?」

「うふふ。ウーマロさんが喜びそうなお祭りですね。でも、お酒はやめておきます」


 そこまで言うなら無理には勧めないでおく。

 料理中に事故なんか起こされても困るからな。


「じゃあ、グレープフルーツを二つと、魔獣のソーセージと、フルーティーソーセージ。あとはビッグベーコンと……パンとか食うか?」

「えっと……普通に食べていいんですか?」

「あぁ。普通の客として、普通に飯を食って、マグダとミリィの接客がきちんと出来ているかを判断すればいい」

「それだと、本当に普通のお客さんになったような…………あ」


 何かに思い当たったらしく、ジネットがぴたっと動きを止める。


「もしかして、昨日のお話……ですか?」

「まぁまぁ。とにかく、食いたいものがあれば注文しろよ」

「はい」


 嬉しそうに頷いて、テーブルに置かれたメニューをじっくりと眺め始めるジネット。


 昨日。

 ジネットに弁当を持ってきてもらった時にこんな話をしていたのだ。



『機会があれば、今度ご一緒にお食事をしませんか?』



 ――と。

 まぁ、実際はもっとつっかえつっかえゆっくりな発言だったけどな。


「あの、では、このピリ辛チャーハンというのと、あとチーズケーキをお願いします」

「ケーキをおかずにチャーハンを食うのか?」

「ち、違いますよ!? あの……ヤシロさん直伝のチーズケーキがカンタルチカさんでどんな進化を遂げたのか、少し気になってしまいまして」

「そういえば、ケーキを教えた時はジネットも一緒だったな」

「はい。いろんなお店を回って、料理教室を開いて……うふふ。楽しかったですね」


 やっぱり、ジネットは人に料理を教えるのが好きなんだろう。

 ……俺の頭にはクッソ面倒くさかったって記憶されてるもんな、ケーキ教室。


「……とりあえず、以上でいい?」

「おう。足りなきゃまた追加するよ」

「……待っていて。マスターに檄を飛ばして、ほっぺたが落ちておっぱいにバウンドして元通りにくっつくくらい美味しい料理を持ってくる」

「物凄い美味しそう!?」

「では、期待しましょう」

「バウンドに!?」

「……ヤ・シ・ロ・さんっ」


 なんで俺を怒るかなぁ……今のは絶対マグダなのに…………ジネットのマグダ贔屓、日に日に酷くなっていってないかなぁ。


「……では、少々お待ちください」


 ぺこりと頭を下げて、マグダがカウンターへ向かって歩き出す――


「……ミリィの可愛いダンスでも眺めながら」


 ――余計な無茶振りを残して。


「ぇ!? む、ムリだょ? みりぃ、そーゆーの、ムリだから、ね!?」


 慌てて俺たちに頭を下げてマグダのあとを追いかけるミリィ。

 あはぁ……癒されるぅ……


「ヤシロさん。顔が緩んでますよ」


 くすくすと笑って、俺の頬を突くジネット。

 おいおい、そんなことされると余計緩んじゃうだろうが。


「……覚えていてくださったんですね」

「ん? あぁ、飯か?」

「はい」

「昨日の今日だぞ?」

「そうですね。でも……嬉しい、です。こうやって外でお食事出来るのが……ヤシロさんと」


 ……最後の一言、今必要だったかなぁ。絶対必要ってほどでもなかったと思うんだけどなぁ…………わざわざ言わなくてもいいのに……もう。


「チャンス……っていうと、語弊があるかもしれんが、こういう機会はそうそうないからな。折角だから、活用してやろうと思ったまでだ」


 ――俺も、お前と二人で飯食ってみたかったし…………なんてことは絶対に口に出来ないけれども!


「そうですね。では、こんな機会をくださったみなさんに感謝ですね」

「『倒れてくれてありがとう』か?」

「そんなことは……!? ……もう、ヤシロさん、意地悪です」


 ちょっとした照れ隠しを挟んで、フロアを見渡す。

 マグダとミリィ。小さな二人が広いフロアをあちらこちらへと走り回っている。客足は徐々に増え、店内の騒がしさが増している。

 滅多に見られない光景だ。

 カンタルチカの制服姿のマグダも、料理を運ぶミリィも。


 そして、働くマグダを座って眺めているジネットも。

 こいつは、誰かが働いている時は大抵働いているし、誰も働いていない時でも働いているようなヤツだからな。陽だまり亭で座っていても、それは営業時間内での休憩に他ならず、こうやって完全に仕事から離れて、働くマグダを見守る姿ってのは珍しい。


「なんだか、不思議な気持ちです」

「娘を嫁に出したような気分か?」

「え? ……いいえ」


 他所の店で働くマグダを見ての発言だと思ったのだが、そうではないらしい。


「マグダさんは、まだまだ他所様には差し上げられませんから」


 珍しく、ジネットが独占欲を垣間見せた。

 親バカオヤジのように「マグダさんは他にはあげません!」とか言っている。

 こいつはこいつで、甘える術を身に付けたのかもしれないな。


「まだまだウチで一緒にお仕事するんです」

「ウーマロが伝染したのか?」

「もし伝染したのだとすれば、きっとヤシロさんです」


 俺がいつ独占欲を発揮したよ。

 俺は別に…………まぁ、マグダを掻っ攫おうなんて輩が現れたらボッコボコにしてやるけども。デリアとメドラを焚きつけて。


「でも、そういうことではなくてですね」


 傾けていた姿勢を真っ直ぐに正し、テーブルに両手を置いて幾分そわそわしたような表情を見せる。


「どんなお食事が出てくるのだろうって、待っている感じが懐かしくて」

「そっか。ジネットはいっつも料理の味を知ってるもんな」

「はい。こういう気分はお祖父さんがいた時以来ですから」


 サプライズで、ジネットの知らない料理を作ったりはしたが、こうやって「待っている」というのは、確かにないかもしれないな。


「ヤシロさんが作ってくださる未知の味とは、また違う感覚なんです」


 俺が持ち込む料理を待っている時、ジネットはプロの顔をしている。

 技術を、ちょっとしたことでもすべて吸収しようとする貪欲なまでのプロ目線で見ていることが多い。

 今のように無防備ににへら~っと待っていることはそうそうない。


「ある程度は想像が出来るけれど、たぶんその通りの味ではなくて、ではどこがどれくらい違うんだろうって、なんだかいろいろ考えてしまって、落ち着かないんです」


 そう言った後で俺を見てはにかみ、また体ごと振り返りフロアを見つめる。

 カウンターへ駆けていくマグダを眺めながら、ジネットは緩みっぱなしの口元をもうワンランクふにゃりと緩める。


「そのお料理を、マグダさんが運んできてくださるなんて、幸せですよね」


 美少女の運んだ料理は格別な味ッスー! ……ってタイプではないだろうに、マグダが持ってきてくれることが嬉しくて堪らない様子のジネット。

 こいつは絶対親バカになる。確実に。


「……お待たせしました。魔獣のソーセージとフルーティーソーセージ。ビッグベーコンとパン二人前、ピリ辛チャーハンです」


 五つの皿を器用にバランスよく運んできたマグダ。

 このあたりはさすがとしか言いようがない。

 ミリィがお盆に頼っているのに対し、マグダはこれらの皿を細い腕二本で運んでくるのだ。それも一切こぼすことなく。


「……おかずのチーズケーキは間もなく」

「あのっ、おかずではないので、あとでいいですよ」

「……いやいや、遠慮なさらず」

「遠慮ではないんですが!?」


 皿をすべて置いて、ウェイトレスらしくぺこりと頭を下げる。

 お茶目が過ぎるが、仕事ぶりは完璧だ。

 ……と、思ったら、立ち去る前にジネットに抱きついてぎゅっとしていった。


「はい、減点」

「いいじゃないですか。わたしは嬉しかったですよ?」

「そのサービスを認めると、他の客にも提供しなければいけなくなるぞ」

「「「「はいはいはいはい! こっちにも『ぎゅっ!』を一つくれー!」」」」


 ……な?

 バカしかいないんだから、この街。


「……マグダは今忙しいからムリだけれど、臨時の新人アルバイトなら可能」

「「「「マッ、マジで!?」」」」


 マグダの言葉に、浮かれたオッサンがそわそわと浮き立ち始める。

 ある者はミリィに視線を向け、またある者は『臨時』という言葉からオシナを想像したのかカウンターへと視線を向けている。


 だが、マグダがそう言うってことは……


「……では、臨時アルバイトの新人獣人族…………メドラちゃんでーす」

「誰だい、アタシに『ぎゅっ』ってしてほしいってのは!?」

「「「「ごめんなさい! キャンセルで!」」」」


 ……やっぱりか。

 メドラの場合、『ぎゅっ』の後に『ボキッ!』とか『グシャッ!』って音が続くだろうに。


「ダーリン、楽しんでるかい?」

「あぁ。ほんの一瞬前まではな……」


 なぜお前がここにいるのか……


「大丈夫だよ、ダーリン」


 デカい体を丸めて、デカい手をデカい顔の横に添えてデカい口で囁いてくる。


「アタシが愛情を込めて『ぎゅっ』ってするのは、ダーリンにだけだ・か・ら・ね☆」

「ごめん、メドラ。俺、背骨を失う気はないんだ」


 聞けば、オシナが『準備』のために四十一区へ帰ってしまったために、その空いた穴を埋める目的でメドラが代役を買って出たのだという。

 ……お前それ、マイナスを補うどころかマイナスが増加しちまってんじゃねぇかよ。どんどんマイナスが膨れあがってるぞ。


「アタシも暇じゃあないんだが、ウチのマグダも慣れない環境で頑張ってるようだし、夜までなら手伝ってやってもいいって思ったんだよ」


 店側としては是非とも遠慮したかったところだろうな。


「だから、さ……よ、夜からは空・い・て・る・よ☆」

「あぁ、残念。俺、夜から仕事なんだぁ」


 陽だまり亭がオープンするからな。お前には付き合えねぇわぁ――これから先も。そしておそらく来世でも!


「とにかく、食べて寛いでおくれ! 何か困ったことがあったらいつでも呼んどくれよ!」

「マグダー、これ下げてくれる~?」

「……了解した」


 困ったことがあったのでマグダを呼んで、困ったことの原因を撤去してもらった。

 まぁ、おかげで酔っ払いどもによる店員へのセクハラが減るだろう。その点ではいい仕事をしているぞ、メドラ。


 俺たちのやりとりをくすくす笑って見ていたジネット。

 俺と視線が合うと、「では、いただきましょうか」と、箸を差し出してきた。

 ここでも手渡してくれるんだ、箸。……過保護な母親か。


「相変わらず、カンタルチカさんのソーセージは美味しいですね」


 魔獣のソーセージを一口かじって、ジネットが唸る。ちょっと悔しそうに見えるのは、この場の空気によるところだろうか。

 口元に手を添えて大きなソーセージを咀嚼する様が、なんとなく見慣れなくて新鮮だった。


「こちらのソーセージは、少し甘い香りがしますね。……フルーティーソーセージ…………なにか、フルーツの香りでしょうか?」

「ジネットは初めてか、フルーティーソーセージ?」

「カンタルチカさんのソーセージは、ロレッタさんの大好物ですので」


 ジネットの苦笑を見るに、あればあるだけロレッタが食ってしまうのだろう。

 で、ジネットはジネットで「そんなにお好きなら」といつも譲っているのだろう。


「ここのソーセージからロレッタを奪い返すか?」

「うふふ。それも悪くありませんが、大好物は思い出とセットであることが多いですから」


 大して美味くないはずの物も、思い出補正で絶品料理として記憶されていることがままある。

 ロレッタの大好物を上書きするのは、この魔獣のソーセージが好きだと思ったロレッタの思いを邪魔することになる。……な~んてことを考えているのか。本当は悔しいくせに。


「…………リンゴ、でしょうか?」


 こいつすげぇな……よく香りだけでそこにたどり着けたもんだ。


「正解が知りたいか?」

「ヤシロさんはご存じなんですか?」

「まぁな」

「そうですね…………やめておきます。どうなのかなぁ~って考えるのも楽しいですから」


 正解を知ればそこで思考は止まる。正解はゴールだ。

 答えを知らなければいつまでも「あ~かな、こ~かな」と悩めるということだ。それを楽しいと思えるのは、ジネットならではなんだろうけれど。


「……っ!? 辛っ! からいれふっ、これ!」


 ピリ辛チャーハンを一口食べて目を白黒させる。慌ててグレープフルーツジュースを口に含むが…………あ~ぁ、酸っぱいのが辛いのと合わさってなんか痛みに変わっているようだ。ジネットが面白い感じで身悶えている。


「うぅ……『ピリ』の限度を超えています……」

「基本的に、酒飲みのオッサンが多いからなこの店」


 泥酔して味も何も分からなくなったバカ舌のオッサンがかっ喰らって「辛い」と感じるレベルに合わせてあるのだろう。

 ジネットの繊細な舌には刺激が強過ぎたようだ。


「……ネフェリーさんがクセになる味だとおっしゃっていたので気になっていたのですが……」

「辛い物は、好きなヤツはすっごい好きで、苦手なヤツはとことん苦手だからな」

「……チーズケーキが待ち遠しいです」


 赤く染まる舌をぺろっと出して甘い物を待ちわびるジネット。

 乳製品なら、カプサイシンの辛みを抑えてくれるかもな。やったことないから知らないけれど。

「辛っ!?」からの「チーズケーキ!」……うん、ない。


「あ、パンと言えば」


 かったいパンを千切りながら、ジネットが思い出したように言う。

 ……声を潜めて。


「以前、ヤシロさんが……あの、とある理由で……その……誕生させた…………パン、のような小麦の……ほら、アレが、あったじゃないですか……」


 かつて、俺がそうとは知らずにパンを自作して、盛大にこの街の法律に引っかかった話をしたいのだろうが、いろいろ配慮しようとして物凄く挙動が不審になっている。


「俺の作ったパンがなんだって?」

「わっ、わぁ! ……だ、ダメですよ。許されたとはいえ、……どこで誰が聞いているか分かりませんから……」


 俺の口を手で塞ぎ、きょろきょろとあたりを見回す。……そんな警戒せんでも。


「それで、その……ソレに関してなんですが。先日教会から『パンをもっと柔らかく焼く方法を知っている者がいれば、教会へ情報の寄付をお願いしたい』という告知が出まして」

「……なに、その図々しい告知」


 情報を寄付しろって……せめて金くらい出せっつうの。


「ベルティーナからは何も聞いてないな」

「シスターは……お金も出ませんし、ヤシロさんから何もかもを搾取するのはよくないと……わたしもそう思うのですが………………あの時のアレを思い出してなんでしょうが、シスターのよだれがすごくて……」


「ヤシロさんから何もかもを搾取するのはよくないことですので……じゅるるん!」……とでもやっていたのだろうか。

 さすがに、パンは作ってやれないからなぁ。


「俺が情報提供すると、世に出回るパンは改革されるのか?」

「そうですね…………おそらく、少し値段が上がって一定数は出回ることになるかと思いますが……」


 なんとなく、教会の偉い連中が儲かるだけのような気がしてきた。

 クッソ高いパンになって、貴族連中が独占する未来しか見えない。


「……流通方法を見直すなら考えてもいいかな」


 俺も、柔らかいパン食いたいし。

 教会の銭ゲバどもが改心したら教えてやってもいい。……そんなことあり得ないんだろうけれど。


「すみません、変なことを言ってしまって」

「いやいや。聞いといてよかったよ」


 少なくとも、教会の連中が『柔らかいパンの情報』を欲しているということが分かったからな。どこかで活用出来るなら、切り札の一つにしておくのも有りだろう。

 リベカに頼めば高品質のイースト菌とか作ってくれそうだしな。


「……チーズケーキです」


 しゃべりながら飯を食っていたら、いつの間にか皿は全部空になっていた。

 デザートのチーズケーキが出てきて、ジネットも驚いた顔をしていた。

 俺たちが気付いてもいないのに、よく見ていたもんだ。


「ヤシロさん。試験なんですが……」

「悪い。すっかり忘れてた」

「実は……わたしもです」


 声を殺して笑い、そしてわくわくとした顔で「じゃあ、お二人とも大合格ということで」と耳打ちしてきた。

『大合格』ってなんだよ……


「へぇ……陽だまり亭のチーズケーキとは随分違いますね」


 チーズケーキを一口食べて、ジネットが感心したような息を漏らす。

 皿を持ち上げてケーキの断面を覗き込んだりしている。


「弾力もちょっと違います。ヤシロさんのレシピよりもチーズが多いんでしょうか?」

「配合を変えたんだろうよ。パウラの好みに合うように」

「確かに、こちらの方が大人の男性向けかもしれませんね。チーズの香りが濃厚で、お酒にも合いそうです」


 こうやって、同じところから始まった物は場所によって様々な成長を遂げていく。

 良くなったり悪くなったりしながら、進化の道は分かれていくのだ。


「今日、食べられてよかったです……」


 陽だまり亭が店を閉めているこのタイミングで、自分の知らなかったものと出会えた。この出会いがジネットのこれからにどう影響するのか。

 それに気付くのは、もしかしたら何年も先になるのかもしれないな。


「さて、と」


 テーブルを見ると、俺たちの前に置かれた皿はみんな空になっていた。

 グラスも空っぽだ。


「美味しかったです。今日はありがとうございました、誘ってくださって」


 誘ったのはジネットの方が先なんだが……


「……機会があれば、是非、また」

「ん……そうだな」


 次のデートの約束……ってほど大層なものではないが、なんとなくくすぐったい。

 まぁ確かに、ジネットと外で食事というのもいいのだが、俺はやっぱり――



「マグダっちょー!」



 ――賑やかな方が、好きかもしれないな。


「迎えに来たですよー!」


 空はすっかり暗くなり、カンタルチカに客がひしめき合って、時刻は完全に夜。

 そんな満員のカンタルチカに、約束通りにロレッタがやって来た。

 元気になって、自分の足で。


「もう心配かけたりしないですから、あたしと一緒に陽だまり亭に帰ろうです!」


 多少の緊張を感じさせる表情でロレッタが思いの丈を告げる。

 マグダと一緒にいたいと、カッコつけることなく、真っ直ぐに。


「……ロレッタ」


 そんなロレッタの言葉を受けて、魔獣のソーセージを運んでいる途中だったマグダは……


「……今仕事中だから、またあとで」

「はぁう!? フラれたです!?」


 ……前に賄いを一緒に食おうと誘ってフラれたことへの意趣返しだな、あれは。


「も~う、マグダっちょ! あたし、マグダっちょと一緒に働ける瞬間をずっとずっと楽しみにしてたですのに!」

「……ロレッタは甘い」


 魔獣のソーセージを客のもとへと届けて、マグダの姿が――消えた。


「……マグダの方が、もっとずっと待ち焦がれていた」


 気が付くと、マグダはロレッタの背後に回り込んでいて、ぎゅっとその背中に抱きついていた。


「……おかえり、ロレッタ」

「うん……ただいまです、マグダっちょ」


 ロレッタの背中に顔を埋めるマグダ。


「……あ、あの。向き変えないです? あたし、今なんか、物凄い手持ち無沙汰なんですけど? こう、向かい合ってぎゅっとすると、あたしもやりようがあるですから……マグダっちょ? あの、向きを……! マグダっちょ!?」


 ロレッタがどれだけわめこうが、マグダは動かない。

 そっとしといてやれ。たぶん、泣いてんだよ、今。マグダはお前が思う以上に泣き虫だからな。


「寂しかったんですね、マグダさん」

「……だな」


 おろおろするロレッタと子泣きマグダを眺め、その場にいる者がみんなほんわかした気持ちになっていた。

 そんな時、カンタルチカに懐かしい声が帰ってきた。


「さぁ! 夜はまだまだこれからだよ!」


 パウラが、カンタルチカへと入り、カウンターの前で客に向かって凱旋の一言を告げる。


「今日は盛大に盛り上がっていってね!」

「「「「ぅおおおおおお!」」」」


 なんだかんだと、パウラの人気は高い。

 ここの客も、パウラがいないカンタルチカではやっぱり物足りなかったのだろう。

 今晩は、酒が飛ぶように売れそうだ。


「ネフェリーも大丈夫か?」

「うん! この熱気……私も気合い入れなきゃ!」


 パウラを手伝うと公言していたネフェリー。

 本当にカンタルチカの手伝いを頻繁にやっているようで、ネフェリーに声をかける客が結構いた。


「ジネット、ヤシロ。お礼はまた改めて言いに行くね」


 そう言い残して、ネフェリーがパウラのもとへと駆けていく。

 パウラが俺たちを見つけて片手を上げる。

 おしゃべりしている時間はない。そういうことだろう。

 カンタルチカのエプロンを掛けて自身の頬を叩くパウラ。

 乾いた音と共に、カンタルチカの時間が動き出した。急速に。


「はぁーい! 魔獣のソーセージ一丁! こっちはビールのおかわりね!」

「マスターさん! フルーティー、ベーコン二個二個で大至急です!」


 慌ただしく動き始めた二人を見て、俺たちは店を出ることにした。


「ミリィもお疲れ様」

「ぅん……ぁんまり、まぐだちゃんのぉ役に立てなかった、かも、だけど……」

「……そんなことはない。何より、ミリィがいてくれて心強かった」


 涙の跡など見せないマグダが、いつもの口調で言う。

 そんな姿にほっとする。


「お兄ちゃん、店長さん。お店でデリアさんとノーマさんが待機してるです」

「では、早く戻ってわたしたちも準備しましょう」

「……ロレッタ、宣伝は?」

「弟妹を使ってばっちりやっといたです! 本日は営業時間延長で深夜までやるですって!」

「ぁの……みりぃも、ぉ手伝いできること、ぁる?」

「お疲れじゃないですか?」

「ぅん……でも、今日はまぐだちゃんと一緒に働ききりたぃの」

「では、お願いします」

「ぅん!」


 大通りには、まだまだ人が行き交っている。

 太陽が沈んでも、この街の夜はまだまだ終わらない。


「よぉし、ヤロウども! 昨日の分もきっちりかっちりと取り返すぞ!」

「……もちろん」

「はいです!」

「みりぃも、頑張るょ!」


 俺の号令に各々が返事を寄越し、最後にジネットが――


「では、みなさん。今日もお仕事頑張りましょう」


 ――そう笑顔でまとめる。

 そして、全員揃って一歩目を踏み出す。陽だまり亭へ向かって。


「さぁ、陽だまり亭、オープンです!」


 心持ち早足で俺たちは夜の大通りを、陽だまり亭目指して歩いた。







あとがき



どうも、

カラダが夏になる宮地です☆


いえ、季節に抗ってみようかと思ってみまして。

我が家のお布団……分厚さが増しましたよ。

先々週くらいまでは、むしろ掛け布団とかいるかぁああ! 的に蹴り飛ばしていたというのに。


急激な気温の変化、

死・ん・じゃ・う・ぞ@私☆


皆様におかれましては、

どうか体調を崩されるようなことがありませんように。


さぁ、では皆様、ご唱和ください!

せ~の!


レビューをいただきました!!☆♪ o(・ω・o) (o・ω・o) (o・ω・)o♪☆


[2018年 09月 16日 22時 39分 (改)]の方!


物凄く分かりやすい解説は、時にそれだけで読んだ気になれるくらいの満足感を与え「じゃあもう読まなくていいや」となることもあるのですが、こちらはいい意味で「気になる」要素を残した解説だなと思いました。どんな物語なのかはすごくよく分かるのに、内容が見えてこない。けれど、なんだか書き手の方の言わんとするところがじんわりと心に染みてくる。そんな不思議な感覚です。

そんな本編の解説から切り離された二段落目は「ただ一つ注意するべき点は」と、マイナス要素を併記して善し悪しの判断を迫るのかと思いきや、さらに輪をかけて言葉が踊る、跳ねる、飛びまくる。前半が大人しく感じるほどに伝えたい感情がビシビシ伝わってくる「気になる」文章構成はとても興味深く感じました。


楽しさを伝えるためにまず自分が楽しんでみせるような、懐の広さを感じるレビューでした! どうもありがとうございました!!



さぁ、ついにレビューに追いつきました!!

……と、思ったら先日さらに一件追加されたので、

また次回も書けます!!


ひゃっほ~い!(ノシ゜▽゜)ノシ


毎回毎回、ありがたいなぁ~と感じながらここまで来ました。

このあとがきを書いている時点で105件だそうで(減るかもしれませんけどね)

本当に、愛されて幸せです。


……まぁ、かつて愛していたけど今は放置という方もおられるでしょうが、そこはそれ、積み重ねてきた歴史を、私はいつまでも大切にしたいと思っております。


レビューをくださった皆様、

改めまして、どうもありがとうございました!


次回でいよいよ、レビュー返しがラストという状況で……

…………

…………

…………本編、終わる気配がない!?Σ( ゜д゜ノ)ノ


ど、どうしましょう?

次回、いきなり終わったらびっくりしますかね?

いえ、とても終われないんですけども。


もしくは、次回の更新が10万文字とかなら、あるいは……いや、そこまでして無理に終わらせる必要性が見当たりませんけども。


というわけで、

レビューへのお返事が終わっても、

まだもうちょっと『~無添加』を続けさせていただきたいと思います。


果たして、この先レビューが増えることはあるのか……

というか、

さらに2件増えて、

108件目の煩悩まみれのレビューを書く方は一体どんな方なのか!?

私、気になります!


楽しみですねぇ~……チラッ、チラッ。



さぁ、妙にハードルを上げたところで、

秋です!

皆様、『恋』してますか?






…………ほっほ~ぅ、この薄い反応


なか~ま( ^▽^)人(^▽^ )さか~な




では、皆様、

『濃い』してますか?


( ・▽・)/ ハイ!

( ・▽・)/ ハイ!

( ・▽・)/ ハイ!

( ・▽・)/ ハイ!

( ・▽・)/ ハイ!

( ・▽・)/ ハイ!

( ・▽・)/ ハイ!



まさかの、賛同者多数!?

やっぱり、秋は『濃い』の季節なんですね。



――夕暮れ時の教室


JK「私……あなたのこと、こってり好きなの!」

DK「僕も、こってりだよ!」


みたいな甘酸っぱい青春が…………いや、これ、恋が成就したのかどうか微妙ですね?

でもこの二人が付き合ったら、きっと甘酸っぱい恋愛が…………ファーストキス、トンコツの味とかしそうだなぁ、もうっ!


恋……って、いいですよねぇ。




と、いうフリをしたところで――





(」゜□゜)」 <なにイチャついとんねん、ヤシロ-!? 爆ぜろー!




いいなぁ、チキショウ!

私も爆乳とデートしたいわ!

いやもう、デートとか贅沢言いませんよ、

爆乳になりたいわ!


いや、なりたいわけじゃないわ!



もう!

羨まし過ぎて何が言いたいのか分かんなくなっちゃったじゃないですか!


アノ男……

ぺったんこもゆっさゆっさも独占しやがって………………


こうなったら………………もっと書いちゃお☆o(≧▽≦)o☆


本文でロレッタの好物には思い出が~って話があったので――




――四十区


ヤシロ「あ~ぁ、デミリーの屋敷の料理長が急に代わって味が洒落にならないくらい落ちたとか言って、ジネットに料理の指導をしてほしいとか依頼が来たせいで、エステラになんやかんや言われて、まんまと四十区へのお使いをやらされちまったなぁ……きちんと請求しなきゃ乳の虫が収まらねぇな、こりゃ」

ジネット「『腹の虫』ですよ、ヤシロさん(くすくす)」

ヤシロ「やけに楽しそうだな」

ジネット「はい。久しぶりのお出かけですから」

ヤシロ「まぁ、お前が楽しいなら別にいいんだが……じゃあ、用事も済んだし、ちょっと街でも見ていくか」

ジネット「はい。……あっ。あのお店は」

ヤシロ「お。今川焼き屋か」

ジネット「こんなところにあったんですね。初めて見かけました」

ヤシロ「寄っていくか?」

ジネット「はいっ」


――で、今川焼きを購入


ジネット「懐かしいですね、今川焼き。それに、こんなにほかほかなのは初めてです」

ヤシロ「だいたい、エステラが買って帰ってたんだっけ?」

ジネット「はい。お祭りでヤシロさんに買っていただいた時も、時間が経っていましたし」

ヤシロ「でもまぁ、味は陽だまり亭のたい焼きと同じ……いや、たい焼きの方が美味いぞ」

ジネット「ふふ。そうですね。当店自慢の人気商品ですものね(くすくす)」

ヤシロ「とか言いながら、嬉しそうだよな。やっぱ好物は揺るがないか」

ジネット「いえ……、前ほど食べたいなぁと思うことは減りましたよ。それこそ、たい焼きがありますし…………でも、楽しい思い出がたくさん詰まっていますから」

ヤシロ「思い出ねぇ。貧しかった頃に食った美味かった物ってのは、いつまで経ってもご馳走だったりするからなぁ」

ジネット「それもそうなんですが…………あ、あの、ヤシロさん」

ヤシロ「ん?」

ジネット「この今川焼きを、わたしが半分こしますので、わたしより多く食べてみてください!」

ヤシロ「ごふっ!」

ジネット「ヤシロさん!?」

ヤシロ「…………いや、俺も一つ買ったし……つか、それ、まだ覚えてたのか……」

ジネット「はい。…………大切な思い出、ですから。……一生、忘れません」(言いながら、今川焼きを「ぱくー」)

ヤシロ「(……くっ、変に意識しちまって、とてもじゃないが食えねぇ……)」

ジネット「もぐもぐ…………甘い、ですね」

ヤシロ「あぁ…………激甘だな……」


――その後、二人は無言でジネットが食べ終わるまでの時間をその場所で過ごしたのでした。



…………はぁ。

……口の中がザリザリします……甘くて。

とりあえず、明日は一人で今川焼きを半分こしてきます。一人で。えぇ一人で。

「あ~、あの人は割ってから食べる人なんだ~」ってお店の人に思われてきます。


宮地「(買ったばかりの今川焼きを半分に割って)……はい、店員のおねーさん。半分あげます☆」

店員のおねーさん「もしもし、NASAですか!?」

宮地「ダイレクトでNASA!?」


一体、何番にかければ繋がるんでしょうか、NASA。

そんな謎を深めつつ……秋の夜は暮れていくのでした。(よし、まとまった!)



次回もよろしくお願い致します。

宮地拓海

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