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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
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359/821

無添加14話 ご褒美は突然に

 翌朝、陽だまり亭のテーブルには大量の料理が並んでいた。


「これは、シラハさんが実際に食べていたダイエット食なんですよ」

「「「「えっ!?」」」」


 俺と三人娘が揃って驚きの声を上げる。


「シラハさんって、あの細い、品のいいお婆さんですよね!?」

「オルキオさんの奥さんだよね!?」

「あんな細い人がこんなにたくさん食べてたの!?」


 と、ロレッタ、パウラ、ネフェリーが目を剥くが……


「シラハ……この程度の量でよく我慢出来たな」


 俺だけは真逆の意味で驚いていた。


 ロレッタたちは知らないからなぁ……シラハの『元の姿』を。

 あの頃のシラハなら、この程度の量じゃ十秒で食い尽くしていただろうよ。

 ベルティーナ以上の食欲を持っていた数少ない人間だからな。


「味付けはあっさりしてるから、量の割にはぺろっと食べられると思うさよ」


 袖を留めていた紐を外しながらノーマが言う。

 ジネットを手伝って厨房に立っていたのだが……四十二区凄腕料理人のツートップに見えるのはなぜだろう……ノーマ、素人なのに。

 なんかもう、漂いまくってるんだよなぁ……小料理屋の女将オーラが。


「ヤシロさんもよかったら召し上がってくださいね」

「いや、俺は教会で食ってきたし……」


 教会への寄付は、俺とジネットだけで行ってきた。

 ロレッタたちは残って朝の筋トレをしていたのだ。その前にジネット特製野菜たっぷりスープを一杯飲んで。


「マグダさんとミリィさん、ちゃんとお腹満たされたでしょうか?」

「大丈夫だと思うぞ、普通に食ってたし」


 教会でマグダとミリィに合流し、一緒に朝食を食ってきた。

 夕方にはパウラが復帰する予定だと伝えると、ミリィはほっとし、マグダは「……では、残りの半日で客の大半をマグダの虜にしておく」と闘志を燃やしていた。……侵食する気満々だな。


「わっ!? 美味しい!」


 真っ先に箸を付けたのはネフェリーだった。

 三人の中で一番卒なく物事をこなす器用さを持っているのがネフェリーだ。デリアの筋トレにも真っ先に適応して、他二人よりもバテることは少なかったのだそうだ。

 ロレッタはなんでも全力を出したがるし、パウラはすぐムキになるからな。きっと二人で張り合って効率無視の筋トレをしてバテバテになっていたのだろう。


 バテた後は、箸が進まなくなるものだ。

 で、ネフェリーが一番乗りをしたわけだが……


「そんなに美味しいです? あたしも食べたいです!」

「あっ! ズルいよ、ロレッタ! あたしが先なんだから!」


 ……と、単純な二人の胃袋も、遅まきながら起動したようだ。


「美味しい! 味付けがあっさりしてるから野菜の甘さがすごく分かる!」

「ゴボウはえぐみがあるはずですのに、丁寧に処理されているおかげで泥臭さ共々まったくえぐさを感じさせないです! おまけにこのあっさりした味付けが素朴なゴボウの味を優雅で気品溢れる高級な料理のソレにまで昇華させているです! さらに注目すべきはこちらのレンコンです! しっかりと糸を引くほどの新鮮さがこれだけの甘みを引き出しているのでしょうが、なによりもこのシャクッとサクッとした歯応えがたまらないです! まさにこれこそが『美味しい歯応え』です!」

「うん。本当に美味しいよね」


 パウラとロレッタは飲食関連の仕事をしているせいか、味に対して感想を言わずにはいられない様子だ。ネフェリーとの対比が明確で面白いな。

 そうやって、あまりに美味そうに食われたら……


「じゃ、俺も一つ……」

「ふふ。はい、どうぞ」


 分かってましたよとばかりに、ジネットが小皿と箸を寄越してくる。

 そんな嬉しそうな顔をするな。つまみ食いが見つかったみたいでちょっと恥ずかしいわ。


「うわぁ……美味ぁ……」


 このレンコンの歯応え……そして口の中で広がる野菜の甘みと、それを引き立たせる控えめな出汁の味が…………いい仕事してますね。


「ふふ。ヤシロさん、根菜がお好きですもんね」


 いや、まぁ、確かに根菜は好きなんだが……改めて言われるとなんだかむず痒い。わたし、知ってますよ的なその笑顔がな。

 俺が好きだから作ったわけじゃないだろうに、この料理。


「さて、じゃあ俺はそろそろ出かけるとするか」


 小皿一杯分の煮物を平らげて、ジネットへ箸を返す。


 この後、エステラと共にやらなければいけないことがある。

 昼には別の予定があるし、それまでに終わらせなければいけない。時間は結構ない。


 と、その前に。


「今日はこの後何をするんだ?」


 きちんと把握しておかないと、昨晩の『うっかりお着替え出くわし事件』の二の轍を踏みかねない。

 ロレッタたちと一緒に飯をかっ喰らっているデリアに今日の予定を聞いてみると、口いっぱいに根菜を詰め込んでもっしゃもっしゃ咀嚼した後で教えてくれた。


「今日はこの後、川に行って水泳するんだ」

「水泳………………水着……か」


 ――着席。


「ヤシロ。出かけるんじゃないんさね?」

「いや、関係者として、そこはきちんと見届けるべきではないかと」

「あたしたちの水着が見たいだけなんでしょー、ヤシロのエッチ!」

「い、今はダメだからね! 見るなら、ちゃんと綺麗になってからじゃなきゃダメ。ね、みんな」


 尻尾を膨らませて俺を注意するパウラに、トサカを真っ赤に染め上げて照れを誤魔化すように同意を求めるネフェリー。

 そして、ロレッタは自身のお腹を両腕で抱えるように隠して吠える。


「そうですよ、お兄ちゃん! お腹の『ぷよん』がなくなるまでお預けです!」


 バカ、ロレッタ!

 お腹の『ぷよん』はな、それはそれで需要がわんさか……くっ、こいつらに言っても伝わらないか。周りみんな女子だし……反感を喰らう前に退散するとしよう。


「今日は午後から仕事だから、無茶し過ぎるなよ」

「はいです!」

「任せて! 今日はすごく力がみなぎってるんだから!」

「あ、分かる! 私も、今までで一番すっきり目覚められたの、今朝!」


 夜中の高カロリーをやめ、昨日一日管理された食事と適度……かどうかは分からんが、運動をした成果だろう、その目覚めのすっきり感は。


「昼食後にレジーナがここに来て、最後の診察をする予定さね」

「午後の一番陽が高い時に!?」

「……そこ、驚くところかぃね? いや、ビックリする気持ちは分かるさけど」


 たどり着く頃には灰になっているかもしれないレジーナの診察を受けて、問題がないと判断されれば、今回の健康ダイエット塾は卒業となる。

 これから先は、デリアやノーマ、そしてジネットと相談しながら食事や運動をコントロールしていく予定だ。教わる三人はもちろん、教える方もやる気みたいだから、きっとうまくいくだろう。


「なぁ、デリア。ノーマ」

「なんだ?」

「なんさね?」


 この、出来のいい指導者にも、一応声をかけておく。


「暇な時でいいからさ、お前ら講師をやってみる気はないか?」

「「こうし?」」


 昨日エステラたちと話した『美の街』計画を掻い摘まんで説明してやると、ネフェリーとパウラが目をキラキラさせて聞き入っていた。やっぱ、興味あるんだ。


「そこで、綺麗なプロポーションの作り方とか、ヘルシーで満腹感を味わえる料理とか、そういうのを教えてやってほしいんだ」


 当然、次の講師が育つまでという期限付きで。

 いつまでも四十二区の人間を四十一区に貸してやるわけにはいかない。

 …………もっとも、熱狂的な信者が付いたら『それなりの報酬』でお貸しする分には、こちらはやぶさかではないけれどな、ふふふ……ロイヤリティうまうま。


「ん~、暇な時なら……でも四十一区かぁ…………面倒くさいなぁ」

「そっかぁ。デリア、スタイルいいからいい講師になると思ったんだけどなぁ」

「えっ!? あたい、スタイルいいのか!?」

「おぅ。女子が憧れる完璧なスタイルだと思うぞ」

「うぉお!? ヤシロに褒められた!?」

「デリアの綺麗なプロポーションを、みんなに伝授してやってほしかったんだけどなぁ……ちらっ」

「やる! やってやる!」


 はい。いっちょ上がり。

 デリアのような、見た目に「すげぇ!」って思わせるスタイルの講師ってのは、それだけで集客力があるのだ。

「あんなプロポーションになりたい!」って、素直に思えるし、説得力があるからな。


「アタシも暇な時なら構わないさよ。今回、店長さんに料理教えてもらえて楽しかったし……その楽しさをお裾分けしてあげるさね」

「ノーマさん…………ぎゅっ!」


 楽しかったと言ってもらえたのが嬉しかったようで、ジネットがノーマにぎゅっと抱きついた。

 突然のことにノーマは戸惑い、ちょっと照れている。


「……いいなぁ、ノーマ。むぎゅってしてもらえて」

「『ぎゅっ』ですよ!?」

「確実にとある部分の柔らかさが加味されてるさね……」


 何言ってんだよ。

 ぎゅっとしたらむぎゅっとなるだろうが、どう考えても!


「店長さんも講師をやればいいんさよ。教えるの、好きなんさろ?」


 端から見ていてそういう風に見えるのだろう。ノーマは自信ありげにそんなことを言う。

 確かに、ジネットは誰かに料理を教えるのが好きなように見える。とにかく楽しそうにしているしな。


「そうですね。では、機会がありましたら」

「あーっと、それはちょっと待ってほしいです!」


 待ったをかけたのはロレッタだった。

 その理由はというと……


「店長さんは他の人の前に、あたしやマグダっちょに料理教えてです!」

「じゃあ、お前も通えよ、ジネットの料理塾。金を払って」

「あたしとマグダっちょは店長さんの直弟子です! その他大勢の素人さんとなんか同列では教われな……お金取るですか!?」


 当たり前だろう。

 技術というものはそれだけで価値があるのだ。金になるのだ。


 だが、まぁ……ジネットはその技術を無料でぽんぽん教えちゃうんだろうけどな。

『直弟子』とか言われてすげぇ嬉しそうにしてるし。


「では、ロレッタさんとマグダさんには、特別なレッスンをご用意しますね」

「やったです!」

「えぇ~、いいなぁ。あたしも教わりたい」

「私も~」

「ダメです! これは陽だまり亭メンバーのみに許された特権です! 絆の深さが違うんです!」


 とか言っているロレッタを、楽しそうに見つめているジネット。

 自身が受けている特別扱いが嬉しいのか、特別扱いを喜んでいるロレッタの様が嬉しいのか。


「あたしは、いつか店長さんの味をマスターして、ゆくゆくは陽だまり亭をのれん分けしてもらうです!」


 そんな野望を抱いてやがったのか。


「でも、離ればなれは寂しいですので、ここの庭先に三号店をオープンさせるです!」

「系列店を並べんじゃねぇよ」


 お前は計画性のないコンビニか。

 おんなじ店を道を挟んだ向かいに建てたりしやがって……


 で、お前は三号店なんだな。

 二号店はマグダか。それがもう自然なんだろうな、陽だまり亭では。


 そんな浮かれるロレッタの隣では、パウラが少し曇った表情を見せる。


「けどさぁ、『綺麗になれる街』って宣伝してもさ……」

「うん。私たちはヤシロやジネットのことよく知ってるから、『あ、この人たちならなんとかしてくれるんだろうな』って思えるけどさ」

「他の街の人が食いついてくれるのかな? ご飯を食べて綺麗になるとか、ちょっとピンとこないじゃない、やっぱり」


 トマトを食べると血液がさらさらになって、肌に張りが生まれる。――といっても、「は? トマトを食べると? なんで?」みたいな反応をするヤツもいる。

 聞く側にある程度の知識がないと、こちらがどんなに訴えかけても心にまでは届かない。

 信憑性がないからだ。

 岩盤浴が美容にいい、とだけ言われても、知識がなければやってみようとまでは思わせられない。やってもいい――もっと言うなら、「時間と金をそこに費やしても後悔はない」とまで思わせるには、ある一定以上の信憑性を提示してやる必要がある。


「そのためのエサに、これから会ってくる」


 だから分からせてやるのさ。

 食の大事さを。

 誰もが納得するしかないような分かりやすさで。


 百聞は一見にしかず。


 それを体現してやるつもりだ。


「じゃ、今度こそ行ってくる」

「はい。お気を付けて」


 ジネットに見送られ、陽だまり亭を出る。

 そして、ジネットに午後の予定を書いた紙を渡しておく。


「へ? あの、これは……」

「ま、あとで読んでくれ」


 それだけ告げて、俺は大通りを目指して歩き出した。








「……おかえりなさいませにゃん、ご主にゃん様」

「いつからここはそんな店になったんだ?」


 カンタルチカに入るや否や、マグダが謎の挨拶を寄越してくる。


「……これがこの店の標準。ミリィもそのように挨拶する」

「ぇ……ぁの…………ぇっと…………ぉかえりなさぃませ……にゃん」

「「「ミリィちゃん、こっちにも!」」」

「ぁうぅ……む、ムリだょう……!」


 お盆で顔を隠してスタコラとカウンターの向こうへ逃げていくミリィ。

 いじめんじゃねぇよ、オッサンども! 朝っぱらから美少女を眺めつつ酒を飲みやがって。


「……ヤシロは、マグダに会えなくてそろそろ寂しがる頃だと思っていた」

「あぁ、うん。今回来たのは違う用事なんだけどな」

「……寂しいはず」

「あぁ、はいはい。寂しいから、顔が見れて安心したよ」

「……やはり。想像通り」


 満足したのか、頼んでもいないグレープフルーツジュースを俺の目の前に置いて接客へ戻るマグダ。

 いいのかね、もらっちまって。ま、店員の粋な計らいだと思っておこう。


「……パウラとヤシロの大切なメモリーを、こうしてさりげなく上書き」

「お前……日記見たのか?」


 確かに、パウラに初めて会った時にグレープフルーツジュース飲んだけども。それ以降も、なんとなく頼みやすくてこればっかり頼んでるけども。

 ……つか、パウラもわざわざ日記に書くなよな、そんなこと。


 で、接客に戻ったマグダを見送った後、ゆっくりと腰を落ち着けることもなく俺はもらったグレープフルーツジュースのグラスを手にカウンターへと向かった。


「はぅ……ぁの……ぉ、ぉかえりなさいませにゃん!」

「あぁ、ごめんミリィ。言わせに来たんじゃないんだ」


 カウンターの陰に隠れていたミリィと目が合うと、まるで使命かのようにマグダに強要された挨拶を寄越してくるミリィ。

 それ、もうしなくていいからな。


「普通に接客してきてくれ」

「ぅ、ぅん……じゃ、また、ぁとで、ね」


 ぱたぱたと、お盆を抱きかかえてフロアへ駆けていくミリィ。

 人見知りで、知らない人の顔はまともに見ることすら出来なかったミリィが酒場の接客をやってるなんてなぁ。一年前のジネットに教えてやったら、果たして信じるだろうか。

 そんなことを思い、思わず笑みが漏れる。


 そして、今回の本題へと意識を切り替える。


「おかえりなさいませにゃんネェ、ダ~リンにゃん」

「お前までやらなくていいから」


「ウフフ~」と、はんなり微笑むオシナ。

 今日もカウンターに立って客へ酒を提供している。


「どうだ、ここの居心地は?」

「そ~ネェ。悪くは、ないかもなのネェ~」


 含むような物言いで、磨いたグラスを棚へと戻す。

 様にはなっている……が、やはり違和感は拭いきれない。


「ほんのちょ~っと、賑やか過ぎるけどネェ」

「お前の場合、吹いてくる風と揺れる枝の音くらいがちょうどいいもんな」

「ウンウン。そうなのネェ。それくらいの方が、ゆ~ったりとした気持ちになれて癒されるネェ」


 そう言ったオシナの顔は、とても寂しげで、ひどく疲れて見えた。


 やっぱり、こいつは帰りたいのだ。

 自分の店へ。

 誰かの店の手伝いなんかじゃなく、自分の色に染まりきった自分の居場所へ。


 けれど、一人で背負うには、その負担が大きくなり過ぎた。

 だから、逃げ出した。

 逃げ出してしまったから、こいつは、我慢を覚えてしまった。


 こういう生き方しか、自分には残されていないと、勝手な勘違いをして。


「なぁ、オシナ。お前の店の名前、なんだっけ?」

「アララァ~? ダ~リンちゃんはお店の名前覚えてくれてると思ったのに、残念ネェ、寂しいネェ」


 うっせぇな。本当は覚えてるよ。

 言わせたいんだよ、お前の口から。


「オシナのお店はネェ、『サワーブ』――『ご褒美』って名前なのネェ」


 頑張ってお金を貯めた自分へのご褒美として、オシナが自分の好みを全面的に詰め込んで誕生した、オシナの理想のお店。

 そんな自分への『ご褒美』が、そのまま店の名前となった。


「もともとはネェ、名前考えてなくて。それでメドラちゃんが『サワーブ(ご褒美)は気に入ったかい?』って言ったのを聞いて、『じゃあ、それを名前にしよう』って、そうやって決まった大切なお名前なのネェ」


 思い出を語り始めると止まらない。

 それは、その場所が愛されている証拠だ。

 そして、こいつ自身がその場所を今もなお、誰よりも愛している証拠でもある。

 だからこそ、物事を動かすためのきっかけには打ってつけなのだ。

 新しいことを始める前のわくわくは確かにテンションが上がるが、同時にずっと不安が付き纏う。ともすればそれは、踏み出そうとする足を動かなくしてしまうほどに。


 そんな時に頼れるのが、『安心』と『信頼』だ。

 オシナのように、自分の店を愛し、信頼しているヤツが真ん中でドンと構えていてくれると、その周りでは無茶がしやすくなる。ヘマをしても何度でも立て直せる。足場がしっかりとしてさえいれば。


「もし、俺に協力してくれるなら、お前に最高の『サワーブ(ご褒美)』をプレゼントしてやるが……どうだ?」


 カウンターにヒジを突いて、オシナの顔を覗き込む。

 いつもゆったりと細められている垂れ目が微かに開き、その中で瞳が揺らめく。

 ……涙、ではないが、潤んだ瞳がきらりと光を反射する。


 オシナはずっと胸に隠し持っていた。

 期待をするとまでは言えないまでも、一縷の望みまで捨て去ってきっぱり諦めるなんてことは出来ない、本当の願いを。

 その尻尾が見えて、オシナは動揺している。飛びつきたい衝動と、それをするのを躊躇う心の狭間で。


「けど……そんなことまでダ~リンちゃんに甘えちゃうのは……」

「何言ってんだい、オシナ!」


 酒場に、クマが現れた。

 みんな死んだふりして!


「ダーリン! 死んだふりはいいから、アタシに話をさせておくれ」


 なんだ、メドラか。

 吠えながら入ってくるから魔獣かと思ったろうが。

 見ろ。カウンターでオシナを眺めて鼻の下を伸ばしきっていたオッサンどもがみんな逃げちまったじゃねぇか。


「メドラちゃん……ど~して、ここに?」

「ダーリンに聞いたんだよ。あんたがここで臨時のバイトをしてるって」

「そう……ネェ。心配、かけちゃったネ?」

「いや、まぁ……心配はしたけど、あんたならバカなことはしないって信じてるからね、アタシは」

「バカなこと……ネェ」


 オシナが小さく笑う。

 それは、自分がしようとしていた『自分の店を諦める』という行為が『バカなこと』に該当すると自嘲するような雰囲気だった。


「いいかい、オシナ」


 カウンターに手を突いて、身を乗り出してオシナに顔をグッと近付けるメドラ。

 美女を連れ去ろうとしているキングコングのような構図ではあるが、お互いの瞳は真剣で、醸し出される雰囲気は女同士の真剣な話し合いのそれだった。

 メドラは狩猟ギルドのギルド長やオールブルーム最強の狩人という肩書きをすべてかなぐり捨て、ただの一人の、オシナの親友として話しかける。


「アタシはあんたに、あの店を続けてほしい。あの場所で、いつまでも。そんで、あんたの『サワーブ(ご褒美)』をアタシにも分けてほしいんだよ」

「メドラちゃん……」


 オシナの心が大きく揺らいでいる。

 もともと、諦めたくもないのに無理矢理自分を納得させて目を背けていた状態だ。親友にそんなことを言われたら心は簡単にグラつく。

 オシナを尻込みさせているのはたった一点、経営難だ。

 意気込みや愛情だけではどうしようにもない、厳しい現実。それを乗り越える気力が、今のオシナには著しく欠乏している。


 だからこそ。


「俺がくれてやるって言ってんだよ。お前に、『サワーブ(ご褒美)』を」

「けどけど……ダ~リンちゃんにそこまで迷惑かけるのは……オシナ的にもちょっと……」

「なぁに言ってんだい!」


 弱気になるオシナの肩を、メドラの特大張り手が襲う。……複雑骨折してないか? 物凄い音したぞ、今。


「ウチのダーリンは四十一区を救った男だよ! いや、それだけじゃない。ここらの区をまとめ上げ、発展に向けて大きく一歩を踏み出させたたいした男なんだ! あんたも知ってるだろう?」

「……うん。メドラちゃんが、ズゥ~ット自慢してたもんネェ」

「そうさ! 自慢のダーリンさ!」


 いささか盛り過ぎ、持ち上げ過ぎではあるが……まぁ、そこには目を瞑ろう。

 だが、『ウチのダーリン』ではない!

 そこだけはきっちり否定させてもらおうか! 何度でも、何度でも!


「ダーリンの差し出した手を振り払うような非礼は、アタシが許さないよ、オシナ」

「ソゥ……ネェ。あのダ~リンちゃんなら、オシナのお店をどうにかするくらい、朝飯前のチョチョイのチョ~イなのかもしれないネェ」


 いや、そこまで簡単ではないんだが……領主も巻き込むわけだし。街の大改造も必要だし。


「ダ~リンちゃん……」


 オシナが、いつもくったりとした柔らか過ぎる物腰を正して、背筋を伸ばして俺へ体を向ける。

 真っ正面から俺を見つめ、心からの笑みを浮かべてみせる。


「オシナのお店、救ってお願いネェ」


 その変な言い回しがなんともオシナらしくて……イヤミを挟むことすら忘れてしまった。


「おう。俺の儲け話には、オシナの店が不可欠だからな」


 だから、ほどほどに立て直してやるよ。

 俺のロイヤリティのために。


「クススぅ~」と、掴みどころのない声で笑い、オシナは満面の笑顔で目尻の涙を人差し指で掬い取った。


「やっぱり、ダ~リンちゃん優しいネェ」


 まぁ……そうだろうな。

 詐欺師は親切を装って人の懐に入り込み、意のままに操って利益を吸い上げる生き物だ。

 お前の店、『サワーブ(ご褒美)』を拠点に、がっちり稼がせてもらうさ。


「ダ~リンちゃん、なんで黙ぁ~って口をもごもごさせてるネェ?」

「あぁ、なんだったかね? マグダが言うには、照れて自分に言い訳してる顔らしいよ」

「ソゥ~なのネェ。クススぅ~、可愛いねぇ、ダ~リンちゃん」

「まったくだ! つ、……連れて帰ってぎゅってして寝たいくらいだよ! きゃっ☆」


 やめてくれるかオシナ、そういう誤情報を流布するの。

 そして、メドラ……お前は本当に、本っっっ当にやめてください。このとおりですから。


「んじゃ、エステラのところに行くか。いろいろ段取りして、準備が出来次第一気に計画を進めるからな」


 革命はせーので一気に推し進めるのが鉄則だ。

 鉄は熱いうちに打て、乳はデカいなら揺らせ――という言葉もあるしな。


 そうして、マグダに断りを入れてから、オシナをカンタルチカから連れ出す。

 昼までに大筋で合意しておく必要があるからな。


 俺たちは、心持ち急ぎ足で、領主の館へと向かった。







あとがき




好きな四字熟語は「したちち」です。

宮地です。


あ、四字熟語って漢字じゃなきゃダメでしたっけ?

じゃあ、「下乳したちちチラみえ」です。


娘が誕生したら、下乳が大層立派な子に育つようにとの願いを込めて、

アンダー・ザ・グレートと名付けようかと思います。

……そこはかとなくプロレスラーっぽいですね。そこはかとなくね。



という感じで、文学的な(だって、四字熟語とか話しましたし!)雰囲気で始まりましたが――

ここでいつもの、


レビューをいただきました☆

。・+゜∴。゜(*´∀`*)ノジ。∴゜+・。゜


今回は [2018年 08月 30日 18時 54分 (改)] の方!


『悪徳商人その他を嵌めていくラブコメなのだ』このワードにきゅんときました。しっかりと本作がラブコメであることが多くの方に伝わったことでしょう。まぁ、次の行ではおっぱいの話になっていますけども! その辺の方が多くの方に伝わっていそうですけども!

タイトルから本文のレビューを放棄したかのようにも思えますが、しっかりと押さえるところを押さえて本文の味がしっかりと伝わるコンパクトなまとめ方が絶妙です。語り口が潔いので読後感がすっきりしていて妙に心地のいい不思議な文体で、得も言われぬ魅力があるなと。

そして、その後に続く本題。照れますヽ(〃≧∀≦)ノ☆゜'・:*☆

考察が真面目に行われているので、これまであとがきを飛ばしていた方にも「ちょっと読んでみるかな?」と思ってもらえそうな、そんな『引力』を感じました。


面白みと真剣みがいい比率でバランスがよく、一貫してテーマのぶれない芯の強さを感じるレビューでした! どうもありがとうございました!!




ラブコメ。いいですよね。

コミカルな描写もある、ラブストーリー。

照れと、勇気と、愛と、おっぱい。

そんなものがぎゅっと詰まった、切なくも甘酸っぱい物語。

それが、ラブコメです!

それが、ラブストーリーです!


すなわち


『ラブストーリー = 甘酸っぱいおっぱい』


という方程式が成立するわけです。

これを参考に、様々なキャッチコピーに代入してみましょう。



・全世界が泣いた、今世紀最大の『甘酸っぱいおっぱい』


・不器用な二人が我武者羅に紡いだ、不恰好だけど温かい、全力の『甘酸っぱいおっぱい』


・人類が忘れかけていた、真実の『甘酸っぱいおっぱい』



どれもこれも、映画なら大ヒットしそうじゃないですか。

私なら観に行きますね! 二回ずつ! いや、三回!

キャラメルポップコーンとレモンスカッシュ(大)を持って!


私「あぁ~、キャラポ(キャラメルポップコーンのナウい略し方)は甘いなぁ~。レスカ(レモンスカッシュのナウい略し方)はちょっとすっぱいねぇ~。あ~、甘酸っぱい☆ …………ってことは、これがおっぱいの味!?」


そんな素敵なラブストーリー(『甘酸っぱいおっぱい』)を体感出来るなんて夢のようですね☆

どこかが作ってくれませんかねぇ、胸が熱くなるような『甘酸っぱいおっぱい』を。


私は、いつまでも待っていますからね☆



やはり、秋は芸術や文学に触れたくなるんでしょうねぇ。

(え? いや、ほら、映画のお話もしましたし!)


そこでふと思ったのですが、

『天使のブラ』の対義語って、『悪魔のおっぱい』だと思うんです。

いえ、『ブラジャー』の対義語といえば、きっと多くの方が『パンツ』を想像されるのでしょうが、

はたして、ブラとパンツは対なのでしょうか?

だって、ノーブラ派の人だってパンツ穿いてるじゃないですか!


そこで私は視点を変えて――

『ブラジャー = おっぱいを覆うもの』と考え、そして

『おっぱい = ブラジャーに覆われるもの』と転換し、

『ブラジャー』の対義語は『おっぱい』なのではないかという仮説にたどり着いたのです!!


その仮説が正しいとすれば、『天使のブラ』の対義語は『悪魔のおっぱい』になるわけで……

……マズい、悪魔に寝返りそうです……っ! 小悪魔おっぱい……っ!

とりあえず、秋の夜長にじっくり考えてみたいと思います。



そういえば、芸術といえば音楽もそうですよね。

皆様好きですよね、音楽。

私も好きです。

「でもゾウさんの方がもっと(音楽が)好きですぅ!」


……くっ、ゾウさんめ、出しゃばりやがって…………!


しかしながら、

ここで流行歌でも披露しようものならもれなく著作権に引っかかってしまうため、

私の歌声は披露出来ないんですよねぇ…………残念です。

ん……あっ、そうだ、オリジナルソングなら引っかからないじゃないですか!

都合がいいことに、私、ギターが弾けるのでオリジナルソングをいくつか作ってあるんです!

では、折角ですのでここで披露を――

G-F-Em-Dのコード進行で――


♪~

お~~~~っぱいのぉ~


……っと、

私のオリジナルソングは、著作権じゃない別のものに引っかかることに今気付きました。

残念です。こちらも披露出来ません。……残念です。




いやぁ、秋になったので、

たっぷりと芸術について語ってしまいました。

文章で語る芸術、略して文学!

なんて文学的なひと時だったのでしょう。


ん?

結局全部おっぱいの話じゃないかって?

ふふ……

それはつまり、こういうことですよ。




おっぱいこそが、文学なのです。




皆様も、秋の夜長に文学おっぱいご堪能ください。


次回もよろしくお願いいたします。

宮地拓海

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