そして彼女は灰になる
Taskeyでの連載予定
「やあああああああああああっ!!!!!」
裂帛の気合いと共に、彼女の薙刀が振るわれ、薙刀から出たとは思えないほどの風圧が辺りを制した。
「柏木っ!!銃!!!」
彼女に名を呼ばれた俺は、少々、いやかなりビビりながら彼女に指定された機関銃を投げ渡すと、彼女は薙刀を右手でぶん回しながら、左手で機関銃から鉛弾をぶっ放した。
* * * * * *
事の始まりは今日の昼、事の起こりは2年前になる。
俺、こと柏木真人は、どこにでもいるフツーの高校生だ。
何かが飛びぬけて出来る訳でもなければ、何かを飛びぬけてやろうとも思わない。
クラスに一人はいる、「無気力で影が薄い奴」の模範回答だった俺。
高校の入学式を終え、GWを終えても、毎日変わったこともなく、日常生活をだらだらと過ごしていた。
そんな中で、同級生が一人、何者かに襲われるという事件が発生した。
襲われた同級生は男子生徒で、特に恨みを買うことも妬まれるようなこともしていないのにも拘らず、夕方通りを歩いていたら長身で美貌の女性に襲われたのだ。
美貌の女性に襲われたなんて、世の男子に刺されても文句は言えないような体験かもしれないが、その同級生曰く、「死ぬほどデケえ鎌を持っていた」とのこと。
警察は新手の通り魔事件と断定し、学校は登下校時に注意するよう呼びかけた。
二人目の犠牲者が出たのは、その二週間後だった。
俺の通っている高校は閑静な住宅街にあり、なかなか都会ほど人通りが多くない。
加えて、開発途中にバブルが弾け飛んだのでそこまで開発が進んでおらず、夜になると街灯がぽつぽつとついているだけである。
学校も警察も同じ学校から、それも二人も犠牲者が出たので厳戒態勢を敷いていた。
にも拘らず俺の母親は
「ごっめ~ん★仕事遅くなっちゃったから晩ごはん作ってて★」
と連絡してきた。更に、俺が作る予定だった麻婆豆腐の肝心の豆腐が無い。
そして、チャリがパンクしていたから修理に出していたので歩きで近所のスーパーに行く羽目になった。
近所のスーパーは歩きで片道20分と、結構かかる。
俺はダッシュで豆腐だけ買って家路を急いでいた。
脳裏に少しは通り魔事件のことが浮かんでいたが、そこは自他ともに認める「影の薄い男」、狙われることは無いだろうとタカを括っていた。
しかし。
「・・・・・・?」
30m程先の街灯の下に、女性が立っている。
そして、じっとこちらを見ているようだ。
ざわりと背筋が凍る。
取り敢えず何も起こりませんようにと祈りながら街灯の脇を通り過ぎようとした。
「・・・お前、美味そうだな」
ぽつりと聞こえた女性の声。
振り返ると先ほどの女性が鎌を振り下ろしていた。
「うわっ!!」
何とか巨大な鎌の一撃を避ける。と同時に尻餅をつく。
その時に豆腐が粉砕されたような気がするが知ったこっちゃない。
「ふむ。我が死神の鎌の一撃を避けるとは。・・・次は無いぞ?」
後退る気力も体力も萎えた俺が振り下ろされる鎌を前に目を閉じていると、
がきん。
金属同士がかみ合う音。
目を開けてみると、
女子高生が薙刀で相手の鎌を受け止めている。
「・・・はあ?」
俺の間抜けな声に、
その女子高生が相手と向かい合ったまま叫ぶ。
「そこの男子高校生!!!」
「は、はいいいい!!!」
女子高生に「男子高校生」って呼ばれるのも何かアレな気がするが、今はそれどころではない。
「私の腰にある銃取って!!」
はあ!?銃!?
銃刀法違反とか警察に連絡しなきゃといった事柄が脳裏を過る。
「早く!!!」
女子高生の一喝。
「はいいい!!!」
俺はどぎまぎしながらも彼女の腰のホルスターから銃を取りだし、彼女に渡そうとした。
が、
「両手がふさがってます・・・けど?」
今まさに鍔迫り合い(相手が鎌だから鍔じゃないのか?)をしている女子高生に話しかけている場合ではなかったが、ここで話しかけなければ俺が捕まる。主に銃刀法とかで。
「じゃ、アンタが撃って!!」
いやいやいやいや。無理無理無理無理。
青い顔をしていたと思われる俺に対し、女子高生は、
「撃たなきゃアンタだけじゃなくてアタシと、この町の人皆が危険に晒されるわよ?」
そんなことを言う。
俺はビビッて、色々な方面にビビッて取り敢えずその銃を撃った。
閑静な住宅街の空気を、銃声が切り裂いた。
* * * * * *
その後警察と"特務機関"と呼ばれる部局に所属しているらしい怪しげなおっさんがやってきた。
警察は俺とその女子高生に事情聴取をした後、"特務機関"のおっさんに全てを任せて帰って行った。・・・・・・どうやら「上のお達し」らしい。
例の女子高生は、ちゃんとした灯りのもとで見ると、びっくりするほど綺麗な子だった。
「・・・アンタ、下手すりゃあのババアの餌食になってたわよ?三人目の」
・・・びっくりするほどの物言いだったが。
そして、怪しいおっさんに色々と説明をされた。
曰く、"特務機関"が警察では手に負えない事柄を請け負う機関であること。
曰く、通り魔事件の犯人は、「吸血鬼」と呼ばれる種族であること。
曰く、その「吸血鬼」が、最近活発な活動を続けていること。
曰く、美人な女子高生はその「吸血鬼」と同じく「吸血鬼」であること。(そう説明されると、美人な女子高生はおっさんにやたら抗議していた。何でも、彼女は「吸血鬼」の上位種であり、あんな下級とは一緒にされたくないとのこと)
曰く、美人な女子高生は「吸血鬼」の「愚行」に嫌気が差し、「同族狩り」をしていること。
曰く、俺の血液は「吸血鬼」に多大なる力を齎すとのこと。
・・・・・・なんだって平凡そのものの俺がこんなことに巻き込まれるんだ?エロゲじゃあるまいし。
そう言った説明を割と端折ってされた俺は、家に帰ると豆腐がつぶれていたことで非常に怒られた。・・・・・・厄日だった。
翌日、高校に行ってみると、昨夜の出来事はなんだったのか、とツッコミを入れたくなるほど平凡で、「あれは性質の悪い夢みたいなもんだったんだろう」と考えながらHRを受けていると、
「転校生」として昨夜の美人女子高生がやってきた。
当然、教室は湧く。
しかし、俺はそれどころじゃない。
半分以上上の空でその日の授業を聞いていた。
そして放課後に、その女子高生に呼び出された。
・・・彼女は有栖川鈴音と言うらしい。
「・・・柏木君、ちょっと来てほしい場所があるの」
転校してきたその日に美人の転校生に呼び出し。
教室中が謎の熱気に包まれたのは言うまでもない。
「で、有栖川さん、来てほしい場所って・・・・・・!!」
旧棟の4階。通称「首の皮一枚部」、「歴史研究部」の一室だった。
何の躊躇いもなく彼女がその扉を開けると、
「おーす、青春お疲れー」
昨夜見た怪しいおっさん、こと無燈将也が椅子に座っていた。
「・・・・・・ええええええ!!!!!」
ここで叫んだ俺を咎められる者は居ない筈だ。
「なんで、無燈さんが・・・・・・」
俺が脱力しながらも問うと、
「そりゃ、俺がこの近辺の統括長で、この一帯を調査、監視するよう"特務機関"の上層部に言われたんだよ」
そこの鈴音ちゃんを連れてな。
無燈さんを睨みながら、有栖川さんが言う。
「・・・大体なんであたしが女子高生なんかしなきゃなんないのよ!!」
偽名まで使って!!
・・・相当ご立腹のようだ。
「え?・・・有栖川さんってもしかして・・・」
「あたしの名前はそんなんじゃないし、女子高生なんて年じゃないわ!!」
美人が怒ると怖い。・・・新事実だ。
「少年、彼女の名前はリスティア・フェリス・グーテンベルクだ。で、年は軽く100は超えてんな」
・・・・・・衝撃の新事実だ。
「・・・えと、グーテンベルクさん?」
おずおずと名を呼んだ俺に、鋭い視線が向けられる。
「高位の「吸血鬼」の名前を呼ぶ時は一番前の名前で呼ぶのよ、柏木」
「・・・リスティアさんですね」
・・・この際どうして彼らが俺の名前を知っているのかは聞かないでおこう。
「どうやら君の血液は「吸血鬼」にとって物凄く貴重なものらしいね、リスティアに聞いたからそれは本当だろう」
無燈さんの眼鏡の奥の真意がどうも見えない。
「はあ・・・」
「で、その血液が他の「吸血鬼」を呼び寄せるのも事実だ」
「・・・つまり?」
「君には、この"特務機関"の外部補佐要員として活動をしてもらう」
・・・・・・はい?
「聞けば、昨晩の「吸血鬼」も君とリスティアで倒したそうじゃないか」
・・・殆ど、リスティアリスティアさんが倒しましたけど。
「ある程度の給料と自由は保障するけど・・・どうだろう?」
・・・眼鏡の奥の笑っていない眼。・・・俺に拒否権は無さそうだ。
「・・・やらせていただきます」
「そうと決まればここの契約書、家帰ってから判子押してまた明日持って来てね~。あと、一応この学校の「歴史研究部」乗っ取って"特務機関"の出先機関にしたから、君もこの部活に入ってね」
・・・・・・そう来たか。
どうやら、リスティアさんもこの部活に入っているらしい。
そして、俺の平凡且つ凡庸且つ単調な日常は終わりを告げた。
* * * * * *
「・・・おー、討伐お疲れさん」
俺は這う這うの体で、リスティアさんは涼しげな顔をして「歴史研究部」に帰還する。
今日の昼に"特務機関"の「対吸血鬼アラート」が反応し、それからさっきまで街中を駆けずりまわり、やっと発見した吸血鬼を先程リスティアさんが仕留めたのである。
俺は下手な運動部よりも今日運動した。頑張った、俺。
「柏木、アンタもっと鍛えた方が良いわよ」
スポーツドリンクを飲む俺に厳しいお声が掛かる。
「リスティア、あんま柏木君を苛めんなって。普通の男子高校生にしちゃあ良くやってる方だと思うけどな?」
無燈さんのフォローが入る。
「そんなトゲトゲした物言いしてっと、また同僚居なくなんぞ?」
また?
「・・・余計なお世話よ!!」
リスティアさんがバタンと戸を閉めて出ていった。
そんな様子に俺はビビり、無燈さんは肩を震わせて笑っている。
「・・・どういうことですか?」
俺が尋ねると、無燈さんは親切にも(?)教えてくれた。
「・・・君とリスティアが出会う前、"特務機関"の人と組んで仕事をしていたんだけども、彼女はあんまり反りが合わなかったんだよ」
「そうだったんですか・・・」
「あんな風に意地っ張りだけど、リスティアは案外寂しがり屋なんだよ」
そんなことを言ってのける無燈さん。
「まあそれも無理ないけどね」
何せ同族を狩ってるんだから。
「・・・どういう意味ですか?」
「・・・近年「吸血鬼」は数を減らしていてね、ただでさえ同族を大切にする種族なのに、同胞を狩っているとなるとそれは周りから敬遠されてしまう訳で」
・・・成程。
「さらに、「吸血鬼」には「血の呪い」があって、「同族狩り」をすると体がどんどん灰に変えられてしまうんだよ」
・・・絶句。
「・・・初めて聞きましたよそんなこと!!」
「あり?言ってなかったっけ?」
惚ける無燈さん。
「ま、灰になっても彼女は人間を襲う「同胞」が許せないんだよ」
それはわかってやってくれよ。
そう念を押された俺は複雑な気分のまま頷き、家路につくことにした。
* * * * * *
一人の「吸血鬼」と一人の高校生が居なくなった後の「歴史研究部」にて。
「・・・まったくリスティアは素直じゃないし、柏木君は平凡だしで、先が思いやられるっちゃあやられるんだが・・・」
「・・・まあ、リスティアの『日常』になってくれているだけでありがたいもんだ、な」
無燈はそう呟きながら煙草を燻らせた。
・・・その後火災報知機の洗礼を受けることになる無燈。




