赤道に浮かぶエメラルドの首飾り
~地球の中央帯の何処かに、美しい翠玉の財宝がある~
そんな話を聞きつけた少年が、ここに。
* * * * * *
「母さん、俺太陽系第三惑星帰還隊に入隊するよ」
2XXX年。
度重なる環境汚染や戦争、惑星に負荷をかける実験のために、人類は「地球」を旅立ち、新天地へと向かうことにした・・・・・・いや、正確に言うと地球を放棄せざるを得なくなった。
人々は地球時代の頃の人種や身分、宗教や国籍といった区分を捨て去り、「人類の存続と繁栄」を旗印に団結して新たな惑星を探した。
しかし。
そう都合よく100億人を突破した二足歩行型生物が居住するのに最適な場所が見つかる訳でもなく。
人類は一世紀もの間巨大居住空間兼備宇宙船「天門」の中で生活しながら宇宙の暗闇を彷徨っていた。
そんな折、人類の統括組織「自由人類機構」がある発表を出す。
「地球に帰還する」
その発表に人類は歓喜に沸いた。
あれよあれよと言う間に様々な関連企業が勃興し、「自由人類機構」も人類地球帰還の尖兵となるべき人材を募集し始めた。
そして、まことしやかに囁かれ始めたのが「翠玉伝説」である。
汚染と紛争に塗れた滅亡寸前の地球には、ある「お宝」が存在し、その「お宝」がある地域は汚染にも紛争にも穢されていないのだそうだ、というのがその噂の大筋である。
噂が噂だったために、その「お宝」を狙う輩も続々と出てき、「自由人類機構」が募集した「太陽系第三惑星帰還隊」も志願者でいっぱいになった。
噂を聞きつけたクレド少年も、その一人。
ドヤ顔をして言ってのけたクレドに対し、母親はあくまで冷静だった。
「あんた、入るっていったって、年齢制限とかがあるだろう」
クレドは待ってましたと言わんばかりに、
「いや、年齢性別経歴不問」
と即答する。
「・・・・・・何だってそんなに地球に帰りたいのかねぇ」
母親がジト目でクレドを見遣る。
「・・・僕のひいひいお祖父ちゃんとかひいひいお祖母ちゃんとかが過ごした惑星を見てみたいんだよ!」
「本当にそれだけかい?・・・まさか馬鹿げた「翠玉伝説」とやらを信じているんじゃないだろうね?」
母親の指摘に、うっと息をつまらせるクレド。
「そ・・・そんな訳あるもんか!」
それでは「翠玉伝説」を信じています、とでも言っているかのようだった。
『・・・図星だねこりゃ』
母親はクレドの様子に心中で呟いてから、ため息を吐いた。
「・・・あんた、「翠玉伝説」で、本当に宝石があるんだと思ってないだろうね?」
「・・・翠玉って、エメラルドのことでしょ?それが地球の中央帯にあるんじゃないの?」
ってか、なんで母さんそれについて知ってんの?
と疑問の目を向ける息子に、
「・・・あんたのひいひい・・・なんだっけ?ま、とにかく、御先祖様がそこに住んでいたからだよ」
母が言い放つ。
数瞬の後、
「ええっ!?」
素っ頓狂な大声を上げるクレドにフライパンが飛ぶ。
「そんなこと祖父ちゃんや祖母ちゃんですら言っていなかったよ!!」
騒ぐクレドに淡々と衝撃の事実を言ってのける母親。
「あたりまえさ。おまえが二十歳になってから言おうと思っていたんだもの」
ま、二十歳まで楽しみにしておくんだね
そう言ってクレドに背を向け、夕飯の準備を始めた母親に、
「ねえ、母さん」
驚きから脱したクレドは声をかける。
「真相は言わないよ」
振り向かずに母親が答える。
「うん、真相は今知ろうとは思わない。真相は自分で太陽系第三惑星帰還隊に入って調べるから。・・・・・・その翠玉って、宝石よりもいいものなの?」
クレドの問いに、果たして母親は。
「ああ。・・・宝石なんかよりずっといいもので、ずっと昔に人間が忘れてしまったものだったそうだよ」
まるで我が事のように誇らしげにそう言った。
* * * * * *
十年後。
太陽系第三惑星帰還隊の調査部隊として地球に降り立ったクレドは、「翠玉」が何を意味していたのかを知ることになる。
もちろんインドネシアのことです。




