第48話: 終わってたまるか
第48話: 終わってたまるか
1. 魂の再燃
右腕を失い、左足は砕け、自慢の翼すら毟り取られた。東銀座の冷たいアスファルトの上で、湊は文字通り泥水をすすりながらのたうち回っていた。
(痛い、熱い……いやだ、死にたくない……!)
あまりの激痛に、脳が恐怖で焼き切れそうになる。だが同時に、あまりの苦しさに(いっそ、早く楽にしてくれ)という相反する弱音が胸をかすめる。意識が急速に遠のき、世界が暗闇に包まれようとしていた。
その絶望の淵で、湊の耳の奥に、ある少女の声が響いた。
『必ず、戻ってきてね』
高尾の隠れ家で、涙を流しながら自分を送り出してくれた結衣の姿。彼女の温もりと、交わした約束の言葉が、消えかけていた湊の魂の火種を猛烈に煽り立てた。
(そうだ……俺は約束したんだ。結衣を一人にして、こんなところで死ねるか。いや、死ぬにしても……ただで終わってたまるか!)
死を覚悟した人間の、それは最期の狂気だった。もう何もできないはずの、破壊し尽くされた五体。その内側から、かつてないほどに純粋で、凶暴な黒いエネルギーが爆発的に燃え上がった。
2. 決死の特攻
「おおおおおおおおおおおーーーーッ!!!」
湊は、残された右足の一歩だけで、東銀座の地面を爆破するように蹴り上げた。
腕もない、翼もない。ただの肉の弾丸と化した、執念だけの決死の体当たり。
油断していた中将の目の前で、湊の身体が漆黒の流星と化す。その速度は、全盛期のクローの神速すら遥かに凌駕していた。
「なに……っ!?」
中将が驚愕に目を見開いた瞬間には、すべてが終わっていた。
湊の命を賭した一撃は、10メートルを超えるアークデーモンの強固な肉体を真っ向から貫いた。
――ドガァァァァァァンッ!!!
凄まじい衝撃音が銀座の街に響き渡る。湊の身体は、中将の巨大な胸のど真ん中を、肉ごと骨ごと派手に突き破った。
アークデーモンの胸に巨大な風穴が空き、異形の絶叫が夜空に木霊する。中将の巨躯が、内側から崩壊を始めながら、ゆっくりと後ろへ傾いでいった。
3. 銀座中央通りの奇跡
中将の胸を突き抜けた湊の身体は、その凄まじい運動エネルギーのまま、東銀座から銀座中央通りへと放り出された。
放物線を描いて落ちていく湊の視界に、ガラス張りの美しい建物――アップルストア(Apple 銀座)のビルが映る。
すでに意識を保つ力は残っていない。このまま時速数百キロのスピードで、アップルストア前の道路のアスファルトに叩きつけられれば、今度こそ湊の命の灯火は完全に潰える。
地面が、目の前に迫る。あと数センチ――。
――シュバッッ!!
激突の寸前、突風が吹いた。
鋭い風切り音と共に、何者かの強靭な両腕が、宙を舞う湊の身体を激しく、しかし確実に抱き止めた。
「よくやった、湊。……あとは俺たちに任せろ」
聞き覚えのある、だが月島で合流したばかりの別のクローの声だった。
アスファルトを滑るように着地したそのクローは、瀕死の湊をしっかりと抱き抱えると、追撃の手を緩めないエンジェルたちの光の矢を紙一重でかわし、再び銀座の闇の中へと超高速で消え去っていった。
中将の胸を穿ち、劇的な一撃を刻み込んだ湊。戦況はさらに激化する中、物語は一瞬の救出劇によって、次なる局面へと進み始める。




