第47話:絶望の狂宴
第47話:絶望の狂宴
1. 蹂躙の宣告
10メートルを超える巨躯となったアークデーモン――中将の足音が、東銀座の崩壊したアスファルトを重く揺らす。
地響きと共にゆっくりと近づいてくる最悪の災厄を前に、左足をあり得ない方向へ折り曲げられた湊は、ただ地面を這うことしかできなかった。
中将は冷酷な眼差しで、虫ケラのように傷つきのたうち回る少年を見下ろした。その異形の口元が、三日月のようにさらに深く歪む。
「さて、湊くん。前座はここまでだ」
中将の地鳴りのような声が、夜の銀座に響き渡る。
「では、これから本番を始めよう。お前たち出来損ないのカラスが、いかに無力で、いかに価値のない存在であるか、その身を以て世界に証明するのだ」
冷徹な宣告。逃げ場などどこにもない。20万のエンジェルが渦巻く空の下、完璧な戦闘不能に陥った湊に対し、中将は一切の手加減を放棄していた。
2. 神速の重爆
身構えることすら許されなかった。
中将の巨体から放たれたのは、あまりにも暴力的で、それでいて洗練されたフック気味のワンツーだった。
大気を爆破するような衝撃波を伴い、まず一撃目の左フックが湊の右半身を襲う。
――ドォォォォンッ!!!
「あ、がっ――――!?」
肉体が衝撃に耐えきれるはずがなかった。激しい閃光のような痛みが走った瞬間、湊の右腕の肘より先が消し飛ばされ、跡形もなく吹き飛んだ。飛び散る鮮血が、銀座の夜を赤く染める。
間髪入れず、追撃の右ストレートが容赦なく叩き込まれる。その拳は、湊の背中から生える、クローとしての誇りであり自慢の象徴でもあった「漆黒の翼」を直撃した。
――ベキキキキッ、ズシャァァァンッ!!
強靭なはずのカラスの羽が、骨ごと容易く粉砕される。中将の爪が翼の根元を深く抉り、自慢の翼の肉が、ボロ雑巾のように無残に毟り取られ、えぐれてしまった。
3. 血と涙の泥濘
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁっ!!! あ、ガ、あああああああ――ッ!!!」
東銀座の路上に、湊の引き裂かれたような絶叫が木霊する。
右腕を失い、翼を毟り取られた激痛は、人間の限界を遥かに超えていた。全身の細胞が悲鳴を上げ、脳が恐怖と苦痛で狂いそうになる。
「う、ぐ……っ、あああ!!」
湊は溢れ出る涙を必死に呑み込み、血と泥に塗れた地面の上でのたうち回った。
激痛で視界は激しく明滅し、呼吸をするたびに口から血が溢れ出る。片腕と片足を失い、誇りである翼まで破壊された今の姿は、あまりにも無残だった。
高尾に残してきた結衣の笑顔が、薄れゆく意識の向こうで一瞬だけ脳裏をよぎる。
「必ず戻る」と約束したはずなのに、その身体は今、世界の支配者であるアークデーモンの前で完全に破壊され尽くしていた。
「素晴らしいな、その鳴き声は。やはりカラスは、そうやって泥水をすすりながら泣き叫んでいる姿が一番よく似合う」
中将は血に濡れた己の拳を眺めながら、満足げに哄笑した。
圧倒的な、容赦のない破壊。東銀座の戦場で、湊の命の灯火は今にも完全に消え去ろうとしていた。




