第46話:巨神の一撃
第46話:巨神の一撃
1. 届かぬ刃
「湊ーーッ!!」
骨の砕ける凄惨な音と共に湊が崩れ落ちたのを見て、東銀座の入り組んだ路地裏から二人のクローが飛び出した。アジア圏の戦火を生き抜いてきた実力者たちだ。彼らは湊を救うため、背中の黒い翼を限界まで広げ、晴海通りを掠めるほどの猛烈なスピードで中将の死角へと肉薄する。
しかし、その決死の特攻は、あまりにも無謀な足掻きに過ぎなかった。
「羽虫が、群れるなと言われただろう」
中将の声は、もはや人間のそれではなく、大気を震わせる地鳴りのようだった。アークデーモンへと完全覚醒した彼の肉体は、東銀座の雑居ビルを遥く見下ろす、10メートルを超える巨躯へと膨れ上がっていたのだ。
クローの神速の接近すら、中将の超質量を前にしては容易く見切られる。
中将は迫り来る影に対し、一切の無駄がない、それでいて圧倒的に破壊的な動作を繰り出した。
「が、あ……ッ! ?」
空中から襲いかかろうとした一人は、中将の丸太のように太い右手に無造作に捕まえられ、骨の軋む音を立てて握りつぶされる。そして、地を動かすような鋭い一撃を狙ったもう一人は、中将の巨大な左足によって無慈悲に踏みつけられ、そのまま捕らえられてしまった。
圧倒的な質量と絶対的な力の差。二人のクローは、抵抗する術すらなく完全に動きを封じられた。
2. 銀座の街への投擲
「そのまま失せろ」
中将は、掴んだ二人をゴミのように投げ捨てた。
東銀座の目と鼻の先にある、銀座の中心街へ向けて――。爆風を伴って放たれた二人の肉体は、音速の壁を突き破る砲弾と化し、ほんの数十メートルの距離を一瞬で駆け抜けていった。
ドゴォォォォォンッ!!!
すぐ近くのブロックから、鼓膜をぶち破らんばかりの衝撃音が轟く。湊の視線の先で、銀座のシンボルたちが次々と悲鳴を上げた。
一人目のクローが猛烈な勢いで叩きつけられたのは、数寄屋橋交差点にそびえる銀座ソニービルの分厚い壁面だった。コンクリートと鉄骨が派手に炸裂し、クローの身体はビルの構造を何層もぶち抜きながら建物の奥へと埋まっていく。
そしてもう一人は、目抜き通りに面した歴史あるライオンレストランの正面ガラスを凄まじい爆音と共に突き破った。店内の高級な内装や何十ものテーブル、ビール樽を巻き込んで粉砕しながら床へと叩き込まれる。
飛び散る破片と立ち上る白煙が、東銀座の路地からもはっきりと見えた。
世界最高峰の機動力を誇るはずのクローたちが、中将のたった一振りの腕、一蹴りの足によって、文字通り一撃で戦闘不能状態に追い込まれてしまったのだ。
3. 包囲される希望
アスファルトに転がる低級のデーモンたちが、中将の圧倒的な暴力に狂喜乱舞の声を上げていた。
折れた足を押さえ、泥と血に塗れて這いつくばる湊の視界に、ゆっくりと向き直る10メートル超の巨大な影が映る。
目の前で助けに来てくれた仲間が瞬く間に肉塊のように吹き飛ばされ、上空の凪もまた、20万のエンジェルを率いる大天使たちとの死闘から離れられない。東銀座の夜空が白銀の光と暗黒のオーラに染まる中、湊の周囲からは完全に「味方」の気配が消え失せていた。
中将の巨大な足が、地面を揺らしながら湊のすぐ目の前で止まる。逃げ場のない絶望が、冷たい夜気と共に湊の全身を支配していった。




