表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロー!! 暗黒の一族…  作者: masahiro taxi


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/6

第4話:重力からの亡命

第4話:重力からの亡命

1. 傲慢な招待状

カフェの喧騒の中、湊は立ち上がった。その瞳には、先ほどまでの迷いや怯えは消えていた。代わりに宿っていたのは、周囲を突き放すような、あの不遜で鋭い光だ。

「……ねえ、湊?」

不安げに自分を見上げる結衣に向かって、湊は不敵に口角を上げた。

「結衣、スリルは好きか? 世の中の金持ちが数千万のスポーツカーを乗り回して手に入れる程度の刺激なら、俺が今から、タダで見せてやるよ」

「え……? 何言ってるの?」

「いいから来いよ。最高の場所に連れてってやる」

2. 鈍重な箱、研ぎ澄まされる感覚

二人は大学を後にし、最寄りの駅からJRの山手線に乗り込んだ。

夕方のラッシュが始まる前の車内は、中途半端に混み合っている。吊り革を掴む湊は無口だった。ガタンゴトンと揺れる車両、無機質な車内放送、スマホの画面を見つめる乗客たち。

湊にとって、この「電車」という乗り物は、重力に縛られた人間たちの象徴のように思えた。決められたレールの上を、鈍重な鉄の塊に揺られて運ばれるだけの時間。

(……遅すぎる)

湊の身体は、すでに内側から沸き立つエネルギーを制御しきれなくなっていた。隣に立つ結衣の肩が触れるたび、彼女を抱えてこの窮屈な箱を突き破り、夜空へ飛び出したいという衝動が指先まで駆け抜ける。

田町駅で電車を降り、二人は芝浦の静かな街並みを歩き出した。潮の香りが強くなり、前方に巨大なレインボーブリッジのシルエットが見えてくる。

3. 垂直のステップ

橋のたもと、街灯の光も届かない人影の途絶えた場所で、湊は足を止めた。

「湊……? ここ、立ち入り禁止だよ?」

「関係ない。俺がルールだ」

湊は結衣の華奢な体を「お姫様抱っこ」で軽々と抱え上げた。

「おい、舌噛むなよ。……少しだけ、浮くぞ」

結衣が悲鳴を上げる間もなかった。

湊が地面を蹴った瞬間、二人の体は爆発的な加速を伴って上昇した。一回の跳躍で10メートル。マンションの3階分に相当する高さを、湊は空中を歩くような小刻みなジャンプで繰り返していく。

橋を支える巨大な主塔、張り巡らされたケーブル。それらを足場にするわけでもなく、湊はただ「空間」を蹴って、重力という概念をあざ笑うかのように高度を上げていく。

結衣はあまりの光景に湊の首に必死にしがみつき、目を閉じることしかできなかった。鼓動が耳の奥で激しく鳴り響く。しかし、不思議と彼に抱えられている腕の中だけは、揺り籠のように安定していた。

4. 黒い安らぎ

数十回の跳躍の後。

二人が着地したのは、海風が吠えるレインボーブリッジの頂上――あの細い欄干の上だった。

「……目、開けていいぞ」

湊の低い声に、結衣は恐る恐るまぶたを持ち上げた。

視界に飛び込んできたのは、地上50メートルから見下ろす東京のパノラマだった。剥き出しの高さ、吹き荒れる夜風。本来なら恐怖で足がすくむはずの場所。結衣の身体は本能的に震え始める。

だが、その震えはすぐに止まった。

「……暖かい?」

結衣は気づいた。自分を包み込んでいるのは、湊の腕だけではなかった。

湊の背中から、夜の闇よりも深い「黒」が溢れ出していた。それは巨大な、そして禍々しくも美しい黒い翼となって、結衣の全身を優しく包み込んでいた。

羽毛の一枚一枚が熱を帯びているかのように温かく、暴力的なまでの海風を完全に遮断している。

「ここは俺にとって、唯一『自分』でいられる場所なんだ」

湊は眼下の夜景を見つめたまま、静かに言った。

翼に包まれた結衣は、死の隣にあるはずのこの場所で、これまでに感じたことのない絶対的な安心感の中にいた。湊の背中から伝わる鼓動が、彼がただの「鼻につく男」ではなく、孤独な「別の何か」であることを伝えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ