第34話:歪む報道
第34話:歪む報道
1. 「観光客のトラブル」というテレビの画面には、またしても血生臭いニュースが映し出されていた。
『――昨日深夜、新宿歌舞伎町の路地裏で、外国人観光客とみられる男性二人が刃物で刺し違え、死亡する事件が発生しました。警察の調べによると、急激なインバウンド増加に伴う飲食店の整列待ちのトラブル、あるいは酒に酔った勢いでの口論が原因とみられており……』
ここ数日、こうした「外国人同士の凄惨な喧嘩や殺人事件」の報道が、毎日のようにメディアを賑わせている。コメンテーターたちは「日本の治安悪化」や「インバウンドのマナー問題」として不満げに議論を交わしていた。
しかし、画面を見つめる湊の目は、報道の違和感を正確に捉えていた。
「……刺し違えて死亡、か。テレビの映像、路地裏のコンクリートが信じられないくらい深く抉れてる。人間の包丁でできる傷じゃない」
2. 水面下の前哨戦
「ああ。整列待ちの喧嘩なわけがあるか」
凪はリモコンを押してテレビの音量を下げた。
「世界中から集まったデーモンと、それに引き寄せられたエンジェル……。あいつら、俺たちを見つける前に、街のあちこちで鉢合わせして小競り合いを始めてやがるんだ」
世界中から日本へ流入した、数千のデーモンと数万のエンジェル。彼らは互いの存在を感知した瞬間、クローに対するものとはまた違う、強烈な敵対本能によって火花を散らしているのだ。
「デーモンにとって、エンジェルは自分たちの支配する『家畜の檻(人間社会)』を荒らす目障りな掃除屋だ。そしてエンジェルにとっては、デーモンもまた世界のバグの一部。……俺たちが引き金になったが、奴ら自身の間でも、すでに戦争は始まっている」
「だけど兄貴、これだけ派手に殺し合ってて、なんで警察はただの『酔っ払いの喧嘩』で片付けてるんだ?」
湊の問いに、凪は冷酷に唇を歪めた。
3. もみ消される怪異
「それがデーモンの『マスコミ対策』だよ」
凪はゴースト・スマホの画面をタップし、ネット上の削除された民間人の目撃証言をいくつか拾い上げた。
「奴らは国家権力そのものだ。警察のトップも、メディアの幹部も、すべてデーモンの手の内にある。超人的な殺し合いが起きても、それを『よくある外国人の治安トラブル』として処理し、一般人の記憶から書き換えることなど、奴らにとっては朝飯前だ。……正体を隠し通すための、完璧な情報統制(もみ消し)さ」
結衣は窓の外をそっと覗き込んだ。
一見すれば、いつも通りの東京の夜景。しかしその暗がりの至る所で、人間の皮を被った化け物たちが、互いの喉笛を噛み千切り合っている。そしてその事実は、国家という巨大な力によって綺麗に消し去られている。
「デーモンとエンジェルの衝突がこれだけ頻発しているということは、奴らの密度が臨界点に達しつつある証拠だ」
凪は立ち上がり、コートを羽織った。
「いよいよ、大決戦が近い。東京が完全に血の海に沈む前に、俺たちは仲間と合流し、この包囲網を食い破るぞ」
「……ああ!」
湊は力強く頷いた。
すぐ近くまで迫っている未曾有の嵐の気配を感じながら、三人は決戦の地へと向かうための準備を進めた。




