第26話:黒い包囲網
第26話:黒い包囲網
1. 満たされた食卓
国道16号沿い、八王子の街外れにある広い駐車場を備えたファミリーレストラン。
ここは三人にとって、凪の上に引っ越してから三度目の利用になる、お気に入りの「補給地点」だった。
「ここのピザ、生地がモチモチしてて美味しいね」
結衣が楽しそうに言い、湊はハンバーグを口に運びながら頷いた。サラダバーにドリンクバー、そして食後のパフェまで完食し、束の間の平和を存分に味わっていた。
「……たまにはこういう、ジャンクな贅沢も悪くないな」
凪もコーヒーを啜りながら、珍しく穏やかな顔をしていた。しかし、その安らぎは長くは続かなかった。
2. 静かなる侵食
凪の手が、コーヒーカップを置いたまま止まった。
彼の視線は、窓の外、広大な駐車場の一角に固定されている。
「……湊。あそこを見ろ」
凪の声のトーンが、一瞬で「仕事」の時の低さに戻った。湊が視線を追うと、街灯の下に二台の黒塗りのセダンが停まっていた。高級車だが、不自然なほどに汚れがなく、窓は真っ黒なスモークで覆われている。
「ただの客じゃないのか?」
「……いや。見ろ、増えている」
凪の言葉通り、国道から次々と、同じモデルの黒塗りの車が滑り込んできた。
四台、八台、十台。
それらは示し合わせたように、一般の客の車を避けるようにして、レストランの出入り口を遠巻きに囲む位置に整然と並んでいく。
3. 二十台の威圧
「凪くん……?」
結衣が怯えたように凪の袖を掴んだ。
店内の喧騒――子供の笑い声や食器が触れ合う音――とは裏腹に、外の駐車場は不気味なほどの静寂に包まれていた。
最終的に、その数は二十台に達した。
広い駐車場の半分を埋め尽くさんばかりの黒い軍団。ヘッドライトは消されているが、その重圧感は殺気となってガラス越しに伝わってきた。
「……間違いねえ。狙いは俺たちだ」
湊が身構える。
「二十台……。一車に二人乗っているとしても四十人。デーモンの息がかかった特殊部隊か、あるいは……」
凪は冷静に店内の避難経路を確認しながら、腰をわずかに浮かせた。
「いいか、湊。結衣を守れ。……芝居はもう終わりだ。ここからは『クロー』のやり方で行くぞ」
楽しい食事の終わりを告げるように、外の黒塗りの車から、同じ黒いスーツに身を包んだ男たちが一斉に降り始めた。
夜の16号沿い。明るい看板の下で、最悪の包囲戦が幕を開けようとしていた。




