表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロー!! 暗黒の一族…  作者: masahiro taxi


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/50

第25話:名もなき杯

第25話:名もなき杯

1. 山麓の誘い

「湊、お前……いける口か?」

夕食後の片付けを終えた頃、凪が唐突にそう切り出した。

「ああ、まあ……少々なら。付き合いますよ」

「なら明日、午後から少し付き合え。結衣も一緒にだ」

翌日、午前中をのんびりと過ごした三人は、午後になってから高尾山口駅の近くにある、歴史を感じさせる古びた茶屋へと足を運んだ。

観光客の喧騒から少し離れた店内の座敷。三人はお茶、そして凪と湊は地元の銘酒を注文した。

「……ふぅ。外で飲む酒は、また格別だな」

凪はぐい呑みを干すと、いつもの冷徹な表情を少しだけ緩めた。

2. 偽りの根城

酒が回るにつれ、凪の口が少しずつ軽くなっていく。それは、これまで彼が一人で抱えてきた秘密の一部だった。

「湊……お前、あの俺の家をどう思っている? なかなか立派だろう」

「ええ。隠れ家にするには勿体ないくらいですよ」

「あの家の名義はな……お前に渡したスマートフォンの時と同じだ。金で名義を売った、ある男のものなんだよ」

凪は窓の外の遠い山並みを見つめた。

「そして『凪』というのも、俺の本当の名前じゃない。……もう、今の自分にはこっちの方が馴染んでいるがな。本名は、あのスマホを壊した時に一緒に捨てたよ」

結衣が心配そうに凪を見つめる。凪は自嘲気味に笑い、話を続けた。

「名義を売った男が今どこで何をしているのか、俺は知らない。海外に高跳びしたと風の噂で聞いた程度だ。……どうだ、湊。利用できるものは何でも利用し、他人の人生を隠れ蓑にする俺のことを、冷たい奴だと思ったか?」

3. 兄貴の照れ隠し

凪の問いかけには、どこか試すような、あるいは拒絶を恐れるような危うさがあった。

湊は手元の盃を置き、真っ直ぐに凪の目を見て笑った。

「何言ってるんですか、兄貴」

「……兄貴?」

「今更ですよ。今まで俺や結衣にしてくれたことで、あんたが冷たい人間だなんて思うわけないじゃないですか。……名義がどうとか、そんなの関係ありません。あんたがいなきゃ、俺たちは今頃生きてない」

湊の屈託のない、けれど確信に満ちた言葉。

凪は一瞬、虚を突かれたように目を丸くした。それから決まり悪そうに視線を逸らし、耳まで少し赤く染めて残りの酒を一気に飲み干した。

「……ふん。酔っ払いの戯言だ。もうその話は終わりだ」

照れ隠しに話を打ち切った凪だったが、その口元には、月明かりの下では見せなかった柔らかな笑みが浮かんでいた。

高尾の夕暮れ。

偽りの名前と、偽りの家。けれど、そこで酌み交わす言葉と絆だけは、何よりも本物だった。

「さあ、帰るぞ。夜道で転んでぎっくり腰にでもなったら、明日の仕事が台無しだからな」

「それは兄貴の方でしょ!」

笑い声を響かせながら、三人は橙色に染まる山道を、自分たちの「家」へと戻っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ