第21話:束の間のジャンク、明日の重圧
第21話:束の間のジャンク、明日の重圧
1. 帰還と安堵
解体所での換金を終え、凪はもう一頭の鹿を軽々と肩に担いで山道を登った。それは自分たちの食いぶち、そして保存食にするための獲物だ。
隠れ家に到着すると、湊は真っ先に扉を開け、中にいた結衣に駆け寄った。
「結衣、悪いな。……怖くなかったか?」
湊の問いに、結衣は少しだけ拍子抜けしたような、穏やかな笑みを浮かべて首を振った。
「ううん、大丈夫。まだ二時間も経ってないわよ? おかえりなさい、二人とも」
その言葉に、湊の肩からふっと力が抜けた。たとえ指名手配犯として世界から追われていても、この数歩四方の空間だけは、自分たちの確かな居場所だった。
2. 凪の買い出し
「明日はもう一つの仕事を教える。……今日よりは稼ぎになるし単純作業だが、かなりの力仕事だ。俺も数回、ぎっくり腰をやってるからな」
凪は鹿を裏の作業場に下ろすと、手際よく手を洗いながらそう告げた。
「野草や川魚は自分で取れるが、調味料や野菜が足りない。……今日は俺が一人で買い出しに行ってくる。二人はここで待っててくれ」
凪はそれだけ言うと、再び山を下りていった。湊は一瞬、彼が一人で街へ降りることに不安を覚えたが、何年もこの生活を続けてきた凪にとって、それは日常の一部なのだろう。クローとしての気配の消し方を、彼は誰よりも熟知している。
3. 深夜の団欒
夕暮れ時、凪はいくつかのレジ袋を提げて戻ってきた。
その日の夕食は、自分たちで仕留めた鹿肉と、凪が摘んできた野草、そして購入したばかりの新鮮な野菜を煮込んだ贅沢なものだった。
「……今日は、普段はあまり買わないんだが、こんなものも買ってきた」
凪が袋から取り出したのは、チョコレートとポテトチップスだった。この緊迫した状況には不釣り合いな、どこにでもある市販のお菓子。
「うわ、懐かしい……」
結衣の目が輝く。三人は食後のデザートとして、焚き火の爆ぜる音を聞きながら、他愛もない話をしながらスナック菓子をつまんだ。
チョコレートの甘さとポテトチップスの塩気が、麻痺しかけていた「普通の感覚」を呼び起こす。
「凪、さっき言ってた腰をやるような仕事って……一体何なんだよ?」
湊がポテトチップスを噛み砕きながら尋ねた。凪は焚き火の炎を見つめたまま、短く一言だけ返した。
「――林業だよ」
それ以上、凪は語らなかった。
林業。木を伐り、運び、山を整える仕事。
それがクローの肉体を持ってしても腰を痛めるほどの過酷な労働であることを予感しながら、三人はそれぞれの眠りについた。
明日の朝、再び始まるであろう「生存のための戦い」に備えて。




