第14話:掌(てのひら)の凶器
第14話:掌の凶器
1. 復讐の引き金
廃墟に漂う埃が、銃口から放たれる殺気で震えていた。自衛官の男は、アサルトライフルのストックを肩に深く沈め、冷徹な瞳で湊を射抜いた。
「逃げようとするな。動けば撃つ」
男の声には、任務以上の私怨が混じっていた。
「俺は、あの埠頭で殺された男の同僚だ。……国のためだけじゃない。お前を撃つ理由は、個人的な『敵討ち』としても十分にあるんだよ」
「……待ってくれ、あれは俺がやったんじゃない! あの白い化け物たちが――」
湊の弁明が届く前に、男の人さし指が動いた。
2. 弾雨と黒い盾
激しい銃声が廃墟の静寂を粉々に砕いた。マズルフラッシュが暗い室内を明滅させる。
「結衣、伏せろ!」
湊は叫び、結衣を背後に庇うように抱きしめた。同時に、背中から溢れ出した漆黒の翼を最大まで広げ、二人を包み込む。
カン、カン、という硬質な音が翼に響く。
鉛の弾丸が超硬度の羽毛に弾かれ、火花を散らす。だが、連射される衝撃は確実に湊の体力を削り、防ぎきれなかった跳弾が湊の肩や脇腹を浅く切り裂いた。
「くっ……!」
熱い痛みが走る。それでも湊は、腕の中の結衣に傷ひとつ負わせまいと、歯を食いしばって盾になり続けた。
やがて、弾倉が空になったのか、あるいは反動を抑えるためか。乱射が一瞬だけ止まった。湊と結衣は、コンクリートの床に深く膝をつき、肩で息をする。
「……ハァ、ハァ……。湊、血が……」
「大丈夫だ、結衣。……今だ!」
3. 暴走する殺意
再装填のわずかな隙。湊は地面を強く蹴った。
(殺すんじゃない。意識を刈り取るだけでいい……!)
湊の狙いは、男の腹部への鋭いパンチだった。相手を無力化し、その場を離脱するための、彼なりの「加減」をした一撃。
しかし、湊の身体は、すでに彼自身の理性を置き去りにしていた。
加速した湊の腕は、音速を超えようとする衝撃波を伴い、指先は無意識のうちに鋭い「手刀」の形に収束していた。
ズブッ、という、嫌な感触が右手に伝わった。
「……あ?」
自衛官の男が、呆然と声を漏らした。
湊が目を向けると、自分の右腕が、男の腹部を背中まで貫通していた。防弾ベストを紙細工のように引き裂き、生温かい鮮血が湊の袖を赤く染めていく。
「な……違う、俺は、こんな……!」
湊は慌てて腕を引き抜いた。男の身体が、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
床に広がる赤。湊は自分の掌を見つめた。
そこにあるのは、ただの大学生の手ではなかった。意志に関わらず、触れるものすべてを破壊し、命を刈り取る「怪物の鉤爪」だった。
「……湊……?」
結衣の怯えた声が、静まり返ったボーリング場に響く。
湊は返事ができなかった。
自分が守ろうとした日常が、今、自分のこの手によって、取り返しのつかない地獄へと塗り替えられたことを理解したからだ。




