第8話:『偏食エルフは「野菜しか食べない」と言い張るが、お出汁の香りには勝てなかった模様』
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ドワーフたちが作った最高級温泉旅館で、のんびり朝食……。
と思っていたれいなですが、湯上がりの平和な空気の中、森の奥から鋭い視線が突き刺さります。
「汚らわしい人間の料理など、口にするはずがないだろう」
そう言い放つ誇り高きエルフを、れいなの「お出汁」はどう攻略するのか?
異世界の食の常識が、また一つ塗り替えられます!
「……そこまでだ、人間。私の森で、不浄な火を焚くのはやめてもらおうか」
凛とした、けれど氷のように冷たい声が響いた。
ドワーフたちが作ったばかりの露天風呂から上がったばかりの私は、お玉を握ったまま固まった。
森の境界線から現れたのは、透き通るような銀髪と、尖った耳。
木の葉を編み込んだような軽装の鎧を纏い、こちらに鋭い弓矢を向けているのは、絶世の美女エルフだった。
「待ってくれ、リーシャ! 彼女は私の恩人だ!」
アルベルトさんが慌てて前に出るが、リーシャと呼ばれたエルフは眉根を寄せたまま矢を収めない。
「アルベルト……呪いに蝕まれたかと思えば、今度は人間に飼われているのか? 鼻をつく獣の肉の臭い、煮えたぎる不純物……。我らエルフは、清らかな水と木の実しか口にしない。そのような汚らわしい料理、見ているだけで吐き気がする」
「汚らわしい、か……」
私は、彼女の言葉を反芻した。
確かに、彼女の目にはそう映るのかもしれない。けれど、今私が作っているのは――。
「……じゃあ、これならどうかしら?」
私は、肉を一切使わず、昨日ドワーフと一緒に採った『深山キノコ』と、湧き水で一晩戻した『乾燥昆布(に似た海草)』だけで取った、透き通った精進出汁を小皿に汲んだ。
「キノコと、水だけ。あなたの愛する森の恵みだけで作った『お出汁』よ」
「……無駄だ。人間の作るものに、森の真理など宿るはずが――」
鼻先にお皿を差し出された瞬間、リーシャの言葉が止まった。
肉の重たさは一切ない。けれど、森の奥深く、幾重にも重なった落葉の下で静かに眠る生命の根源を凝縮したような、あまりにも清廉で深い香り。
「っ……、……毒見だ。毒見をしてやる」
彼女は震える手でお皿を受け取ると、儀式でも行うかのように、慎重にその琥珀色の液体を口に含んだ。
瞬間。
リーシャの大きな瞳に、大粒の涙が溜まった。
「な、……なんなの、これ……。キノコと水だけのはずなのに、なぜ、こんなに……っ、身体が……心が、洗われるような……っ」
彼女が守ってきた「誇り」という名の壁が、音を立てて崩れていくのが分かった。
エルフの感性は、人間よりも鋭い。だからこそ、素材の旨味を極限まで引き出した私のお出汁は、彼女の魂に直接響いてしまったのだ。
「……これ、あと、どれくらいあるの?」
「えっ? あ、まだお鍋にたっぷりあるけど……」
「……全部だ。全部、私が検分してやる。……あと、その丸い……温泉卵、だったか? それも、一つだけなら試してやってもいいぞ」
数分前までの冷徹な狩人はどこへやら。
私の横で、必死にスープを啜り、温泉卵の濃厚な旨味に「ふにゃあ……」と頬を緩ませるエルフの姿があった。
「れいな殿……やはり貴女の料理は、剣よりも鋭いな」
アルベルトさんが苦笑いする横で、シルバーも「また新しい居候が増えたな」とでも言いたげに、尻尾でリーシャの足をペシペシと叩いていた。
最果ての地の温泉旅館。
どうやら今度は、森の守護者が「お出汁の虜」になってしまったらしい。
第8話をお読みいただきありがとうございました!
誇り高いエルフさんも、お出汁の魔法にかかればただの食いしん坊さんでしたね。
これで「建設担当」「護衛担当(騎士)」「索敵担当」と、村の主要メンバーが揃ってきました!
ですが、王都の方では、れいなを追い出したことを後悔し始めた「ある人物」が動き出しているようで……?




