第68話:『食欲不振の皇帝陛下の前で御前試合が始まりましたが、宮廷料理長のフルコースは無視され、私のお出汁が一瞬で胃袋をハッキングしました』
皆様、いつも本当にありがとうございます!
プライドの塊である宮廷料理長ジャン・ジャックに御前試合を申し込んだ前話、たくさんの「ざまぁ確定演出キタw」という応援をいただき大感激です!
本日はついに決戦の時。
疲れと食欲不振で限界を迎えている皇帝陛下の前に、料理長が自信満々に出したのは、ギトギトの高級食材フルコース。
対する我がサテライトキッチンが用意したのは、前世の現場ノウハウから逆算した、今の陛下の胃に一番優しい「黄金おろし生姜うどん」。
帝国のトップを胃袋からハッキングする、至高のざまぁ無双をどうぞ!
ローム帝国の玉座の間。
そこには、重苦しい空気の中に、疲れ切った顔で頬杖をつく皇帝ルシウス陛下の姿があった。近年、国務のストレスで深刻な食欲不振に陥っているという噂は、どうやら本当らしい。
「さあ、陛下! 我が宮廷料理界の至高の結晶、特製『黄金飛竜のレバーソテー・白銀トリュフ添え』にございます! 最高のスタミナ食材、これをお召し上がりになれば、一瞬で体力がみなぎるはず!」
御前試合の先陣を切ったジャン・ジャック料理長が、銀の皿の蓋を大仰に開けた。
途端に、厨房中に濃厚な脂と強烈なトリュフの香りが広がる。料理人たちは「これぞ至高の宮廷料理!」と誇らしげに胸を張った。
しかし、ルシウス陛下はその皿を一瞥すると、深くため息をついて眉をひそめた。
「……ジャン・ジャックよ。余は今、胃が燃えるように熱く、何も受け付けんと言っているのだ。このような油ぎった肉の塊など、見ただけで吐き気がする。……下げよ」
「な、何と……!? そんな、そんなバカな……っ!」
ジャン・ジャックがガタガタと震え、絶望に顔を白くする。
「だから言ったじゃない。バイタル(体調)の計算を怠った料理なんて、ただの押し付けだって」
私の横で、シン君がクスクスと冷淡に笑う。
「次は我が主の番だな。中世の料理人ども、本物の『職人の段取り』を目に焼き付けるが良い」
魔王バラドが腕を組んで不敵に笑う中、私は一歩前に出た。
「陛下。サテライトキッチン特製、『黄金おろし生姜うどん』にございます。お熱い内にどうぞ」
私が差し出したのは、透き通った黄金色のお出汁に、綺麗に切りそろえられた純白の麺。そして、中央にこんもりと盛られた、すりおろしたての生姜と、契約農家から届いた新鮮な青ネギだけの、極めてシンプルな一杯だった。
「ふん! そんな具も入っていない安物の麺類など、陛下が一口でも――」
ジャン・ジャックが勝ち誇ったように叫ぼうとした、その時。
「……ほう」
ルシウス陛下が、ふわりと漂った『お出汁の香り』に、ハッとしたように目をみはった。
鰹と昆布、そしてネオサヌキの技術が融合したその香りは、疲れた脳の神経を優しく解きほぐすように、玉座の間を満たしていく。
陛下はおずおずと木箸を取り、お出汁を一口、口に含んだ。
「――っ!? なんという……優しく、五臓六腑にしみじみと染み渡る味わいだ……! 胃が、胃の奥がじんわりと温かくなって、消えていた『飢え』がみるみる湧き上がってくる……!」
次の瞬間、ルシウス陛下は飢えた獣のように、猛烈な勢いでうどんを啜り始めた。
「ズズッ! ズズズズッ!」という、宮廷ではあり得ない上品な快音が響き渡る。
「美味い……! このモチモチとした麺のコシ、そしてこの『生姜』の爽やかな辛みが、胃の不快感を一瞬で消し去っていく……! 箸が止まらん、このような美味、余は生まれて初めて食べたぞ!」
みるみる内に丼は空になり、陛下はお出汁の一滴まで綺麗に飲み干してしまった。
「ひ、陛下が……スープまで完食された……!?」
ジャン・ジャックが腰を抜かして床にへたり込み、コック帽がズレ落ちる。
「ジャン・ジャック料理長」
私はテボを片手に、静かに彼を見下ろした。
「食欲がない人に必要なのは、高級な食材じゃありません。弱った胃を温め、消化を助ける生姜と、食欲をそそる純粋なお出汁の段取り(オペレーション)です」
「うむ! 素晴らしい見識だ、聖女れいな殿!」
ルシウス陛下が、先ほどまでの疲れが嘘のように元気な笑顔で立ち上がった。
「余の胃袋は完全に、この『うどん』とやらにハッキングされた! 本日をもって、我がローム帝国の筆頭宮廷料理長(最高食膳大使)の地位を、貴殿に授ける!」
「ええええええっ!? 宮廷料理長になっちゃった!?」
唖然とする私の横で、セシリア王女が「ふふ、さすがはれいな様。お出汁の力で、お隣の帝国まで完全に胃袋から制圧してしまいましたわね!」と、誇らしげに胸を張るのだった。
第68話をお読みいただきありがとうございました!
食欲不振の皇帝陛下、レイナ店長の「おろし生姜うどん」に脳と胃袋を完全にハッキングされて大歓喜です(笑)。
高級食材にあぐらをかいていたジャン・ジャック料理長、ぐうの音も出ない完全な自滅ざまぁでしたね!
第69話!
すっかり健康と元気を取り戻した皇帝陛下。
すると今度は、彼が「この感動的なうどんを、帝国全土の民にも味合わせたい! 帝国フランチャイズ計画をスタートする!」と言い出して、サテライトキッチンは国家予算を使った超巨大プロジェクトに巻き込まれていき――!?
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