第4話:『王太子が絶叫する「このスープ、錆びた釘の味しかしないぞ!」……はい、それが浄化を失った本来の味です』
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「無能はいらない」と、れいなを追い出した王太子エドワード。
彼はまだ気づいていませんでした。
王宮の豪華な食卓を支えていたのは、シェフの腕でも高級な食材でもなく、れいなが無意識に放っていた「浄化の魔法」だったということに……。
今日から始まるのは、王都の「地獄の食卓」と、れいなの「最高のランチタイム」の分かれ道。
エドワード王子、そのスープの味はどうですか?
「錆びた釘」の味がする晩餐、どうぞごゆっくりお楽しみください!
「――ガシャァァン!!」
王宮の静謐を切り裂いたのは、陶器が砕け散る無惨な音だった。
「なんだこれは! 毒か!? 私を暗殺する気か!」
王太子エドワードは、口に含んだばかりのスープをぶちまけ、顔を真っ赤にして叫んだ。
給仕の侍女たちは恐怖に震え、その場に平伏する。
「も、申し訳ございません! ですが、レシピはこれまで通り、最高級の赤身肉と香味野菜を煮込み……」
「嘘をつけ! スープが……あぁ、口の中が、まるで『錆びた釘』を舐めているような味がする! 鉄臭くて、苦くて、反吐が出る!」
エドワードが吐き捨てたのは、かつて彼自身が「これこそ王者に相応しい」と絶賛していた黄金のコンソメスープだった。
彼らは知らなかったのだ。
この国が享受していた「美食」の正体が、調理技術の賜物などではなかったことを。
聖女れいなが、厨房の片隅で出汁を取りながら、無意識のうちに国中の食材にかけ続けていた『究極の浄化魔力』――。
魔素を含んだ肉の生臭さを消し、野菜のえぐみを旨味へと変えていた彼女がいなくなった今、王宮に届く食材は、本来の「呪われた味」へと戻っていた。
血の滴るような鉄の味。大地に淀む苦味。
それは、彼女を無能と罵り、最果ての地に捨てた彼らが、自らの手で引き寄せた結果に他ならない。
「ええい、口直しだ! 酒を持ってこい、酒を!」
エドワードが震える手で流し込んだ最高級のワインも、今やただの「酸っぱい泥水」でしかなかった。
◇◇◇
一方その頃。
最果ての地にある、通称『出汁聖女のキッチン(洞窟)』。
「シルバー、火が強すぎるわ! アルベルトさんも、そんなに薪を積み上げないで!」
「ワフッ!」
「申し訳ない、れいな殿。火の番というものは、これほどまでに奥が深いものだとは……」
洞窟内には、昨夜のシリアスな空気はどこへやら、活気あふれる声が響いていた。
呪いが解けて一晩ぐっすり眠ったアルベルトは、驚くほど生真面目な性格だった。彼は私の護衛を自称しつつ、今は全力で「火の番」と「洞窟の掃除」をこなしてくれている。
「……よし、お出汁が取れたわ」
今日作るのは、干しキノコの戻し汁と、シルバーが朝露の森で捕まえてきた『サンダー・ラビット』の骨で取った白濁スープ。
「二人とも、お昼よ。今日はこのスープに、自生のハーブを練り込んだ団子を入れた『特製だんご汁』よ」
「ガウッ!」
「頂こう。……あぁ、この香りを嗅ぐだけで、体が内側から熱くなるようだ」
器に盛られた熱々のスープ。
団子を口に運んだアルベルトが、またもや震える。
「……信じられない。ただの肉の骨から、これほど力強い味が……。王都の最高級フルコースですら、今のこの一杯には遠く及ばない」
「ふふ、当たり前よ。素材の命を丸ごと頂くのが、一番の贅沢なんだから」
私は笑いながら、自分の分を啜る。
うん、美味しい。
魔素の吹き溜まりだなんて言われているけれど、ここの食材はどれも生命力に溢れている。
しっかりとお出汁を取って、命を吹き込んであげれば、世界で一番のご馳走になるのだ。
ふと見ると、アルベルトが真剣な顔で私を見ていた。
「れいな殿。この場所を、ただの避難所にしておくのは勿体ない。……ここに、貴女を守るための『拠点』を作りましょう。私が、かつての仲間や、呪いに苦しむ者たちをここに呼び寄せます」
「えっ……村を作るの?」
「はい。貴女の料理があれば、ここは世界で一番豊かで、最強の聖域になる」
シルバーも賛成だと言わんばかりに、私の膝に大きな頭を預けてきた。
どうやら私の「出汁研究」は、いつの間にか村づくりにまで発展してしまいそうだ。
「……わかったわ。じゃあ、まずはこの辺りで採れる『塩』を探しに行きましょう。料理の基本は、良いお出汁と、良いお塩だもの!」
不毛の地に、美味しい匂いが立ち上る。
かつての聖女は、追放された先で、自分だけの「美味しい国」を作り始めていた。
第4話をお読みいただき、ありがとうございました!
王都のエドワード王子、自業自得とはいえかなり惨めなランチタイムになってしまいましたね。
そして、れいなの村作りがいよいよ本格始動です!
まずは調味料の基本「塩」を求めて、新たな冒険が始まります。




