第3話:『呪われ騎士は、味覚を取り戻したい』
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第2話では、伝説の魔獣シルバーがまさかの「お座り」で仲間入り(?)しました。
モフモフな相棒ができて一安心……と思いきや、今度は不穏な影が。
倒れ込んだ謎の騎士。
彼は、魔王の呪いによって「味覚」という生きる喜びを奪われていました。
「そんなの、料理人として放っておけないわ!」
れいなの「お出汁」は、果たして絶望の淵にいる騎士を救い出すことができるのか。
異世界×料理×浄化の真骨頂、ぜひお楽しみください!
「……殺せ。いっそ、ひと思いに……」
倒れ伏した男の口から漏れたのは、絶望に塗りつぶされた掠れ声だった。
剥げかけた銀の鎧、刻まれた無数の傷。そして何より、彼の全身から立ち上るどす黒い霧のような「呪い」が、彼の命を内側から蝕んでいるのが見て取れた。
「グルルッ……」
シルバーが低い唸り声を上げ、牙を剥く。伝説の魔獣にとって、その呪いの臭いは耐え難いものなのだろう。
けれど、私はシルバーの鼻先にそっと手を置いた。
「待って、シルバー。この人……ひどい空腹の匂いがするわ」
私は男のそばに跪いた。
アルベルトと名乗ったその男は、虚ろな瞳で私を見上げ、自嘲気味に笑った。
「無駄だ、娘……。私は魔王の呪いを受け、五感を失った。何を食べても砂を噛むようで……腹は減るのに、心は死んでいく。……こんな世界に、未練などない……」
その言葉を聞いた瞬間、私の中の「料理人」がカチンと音を立てて沸騰した。
「……砂の味? 料理を、食べることをそんな風に言うなんて、私が許さないわ」
私は立ち上がり、すぐさま鍋を火にかけた。
今度は、先ほど獲った『プリズム・クラム』に加えて、天日干しを始めていた『ムーンライト・マッシュルーム』の欠片を投入する。
「シルバー、火を絶やさないで」
「ワフッ!」
魔獣の吐息で火力を上げ、一気に旨味を抽出する。
立ち上がったのは、先ほどよりもさらに濃密で、鼻腔を突き抜けて脳まで届くような、芳醇なキノコの香りと磯の香り。
私はそれを木のお椀に注ぎ、アルベルトの口元に突きつけた。
「いいから、これを飲みなさい。私の『お出汁』をバカにするのは、これを飲み干してからにして!」
「無駄だと言って……っ」
拒絶しようとした彼の唇に、強引に熱いスープを流し込む。
その瞬間。
アルベルトの体が、雷に打たれたように硬直した。
「……あ、……あぁぁ…………っ!?」
彼の瞳に、色が戻る。
スープが喉を通るたび、彼の体を覆っていた黒い霧が、内側から溢れ出す黄金の光によって霧散していく。
それは、現代の科学では説明できない光景だった。
けれど、料理人である私にはわかった。
圧倒的な「旨味」が、彼の死にかけていた神経を無理やり叩き起こし、生への執着を呼び覚ましているのだ。
「味が……する……。温かい……。潮の、香りが……森の、深い味が……っ」
アルベルトの目から、大粒の涙がこぼれ落ち、泥だらけの頬を伝った。
彼は震える手でお椀を掴むと、最後の一滴まで、惜しむように飲み干した。
呪いの霧は完全に消え去り、そこには一人の、ただの飢えた男が座っていた。
「……これほどの『聖域』を、私は知らない。王都のいかなる癒やしの魔法も、私の呪いを解くことはできなかったというのに……」
アルベルトはよろりと立ち上がると、その場に深く膝を突いた。
「救われたのは、命だけではない。……この魂ごと、貴女に救われた。……我が剣、今この時より貴女のために振るいましょう」
「えっ……あ、いや、私、ただの料理好きの追放者なんですけど……」
困惑する私を余所に、シルバーが割り込んでくる。
「俺のメシ使いに何勝手に誓ってんだ」とばかりに、アルベルトを大きな鼻でフンッ!と突き飛ばした。
「ちょ、喧嘩はやめて! スープなら、まだおかわりがあるから!」
最果ての地に、一人と一匹、そして一人の騎士。
私の「最強の村作り」は、どうやらとんでもないメンバーで幕を開けることになったらしい。
第3話をお読みいただき、ありがとうございました!
ついに騎士様が仲間(?)になりました。
呪いすら消し去る「お出汁」のパワー、恐るべしです。
次回からは、この奇妙なメンバーでの拠点作りが始まります。
ですが、王都の方は……何やら不穏な空気が流れているようで?




