第2話:『伝説の魔獣は、お座りしてスープを待つ』
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第1話のラスト、絶体絶命のピンチ……かと思いきや?
ここからは、食いしん坊な魔獣と、それに振り回される(?)れいなのドタバタな日常が始まります。
「伝説の魔獣を、お座りさせる」
そんな無茶苦茶なことが、れいなの『出汁』なら可能なんです。
今話では、もう一人の重要な仲間も登場します。
モフモフ成分と、美味しそうなスープの香りをお楽しみください!
「クゥゥゥン……」
……え?
今、この世界を滅ぼすと言われる伝説の魔獣が、鼻を鳴らした?
目の前にいる銀色の巨体。山のように大きなフェンリルは、私の持つ錆びた鍋を、金色の瞳をキラキラと輝かせながら見つめていた。
鋭い牙の間からは、だらだらと滝のような涎が垂れている。
(……この子、もしかして、ものすごくお腹が空いてるの?)
さっきまでの死の恐怖が、少しだけ「呆れ」に変わる。
よく見れば、その美しい銀色の毛並みは魔素に汚染されて泥だらけで、体は驚くほど痩せ細っていた。
「……毒じゃないわよ。食べる?」
私は震える手で、鍋に残った『プリズム・クラムの黄金スープ』を差し出した。
フェンリルは大きな鼻をヒクヒクさせると、恐る恐る、しかし我慢しきれないといった様子でスープを口にした。
ペロリ、と巨大な舌が動いた次の瞬間。
「――っ!?」
フェンリルの体が、ビクンと大きく跳ねた。
金色の瞳が限界まで見開かれ、全身の毛が逆立つ。
(あ、やっぱり熱かったかな!? それとも口に合わなかった!?)
焦る私を余所に、フェンリルは狂ったように残りのスープを飲み干した。
「ふんぬぅぅ……!」という、魔獣とは思えない悶絶したような声が漏れる。
それもそのはず。私の浄化魔法を通したこのスープは、ただ美味しいだけじゃない。
汚染された魔力を洗い流し、枯渇した生命力を一気に充填する、究極の「癒やし飯」なのだ。
みるみるうちに、フェンリルの毛並みが泥を弾き、月の光を反射する純銀の輝きを取り戻していく。
「ガ、ガゥッ!(おかわり!)」
空になった鍋を鼻先でグイグイと押してくる魔獣。
その勢いに押されそうになりながらも、私は料理人としてのスイッチが入った。
「ダメ! お行儀が悪いわよ!」
思わず、前世で飼っていた大型犬に接するように叱り飛ばしてしまった。
はっと我に返って冷や汗が出る。相手は伝説の魔獣。一噛みで私の首なんて――。
しかし。
「ビクッ!」と巨体を震わせたフェンリルは、あろうことか、その場に巨大なお尻をドスンとついた。
「…………」
前足を揃え、背筋を伸ばし、尻尾をパタパタと振りながら私を見つめてくる。
それは、どこからどう見ても、完璧な『お座り』のポーズだった。
「……よろしい。待てる子には、もっと美味しいものを作ってあげる」
私がそう言って微笑むと、フェンリルは嬉しそうに「ワフッ!」と短く鳴いた。
伝説の魔獣を「出汁」で手懐けてしまった瞬間だった。
「よし。でも、ここで料理を続けるのは雨風が辛いわね……。どこか、いい場所ない?」
私の問いかけに、フェンリルは「任せろ」と言うように自分の背中を差し出してきた。
モフモフの銀毛に埋もれるようにして背に乗せられ、私たちは霧の向こうへと駆け出す。
フェンリルに案内されたのは、大きな岩壁に守られた清潔な洞窟だった。
「ここならキッチンに最適ね! ありがとう……ええと、名前がないと不便ね。シルバー、でいい?」
「グルルッ!」(いいぞ!)
新しい名前が気に入ったのか、シルバーは上機嫌で喉を鳴らす。
私はさっそく、二杯目のスープを作るために火を起こし始めた。
けれど、平穏な時間は長くは続かない。
「……う、……あぁ……」
洞窟の入り口から、掠れた声が聞こえた。
シルバーが即座に牙を剥き、唸り声を上げる。
そこには、ボロボロに欠けた鎧を纏い、全身から黒い呪いの霧を吐き出しながら、這うようにして現れた一人の男がいた。
「た、助け……て……」
ガラン、と長剣を落とし、男はその場に崩れ落ちた。
それが、私と『呪われ騎士』の、最悪で最高の出会いだった。
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伝説の魔獣、チョロ……いえ、とても素直で良い子(?)でしたね。
そして現れたボロボロの騎士。
彼は一体何者なのか? れいなのスープは、人間にかけられた呪いも解くことができるのか?




