第二章 4話 「漆黒の殺意」
………え?」
ナヤギの口から零れた間抜けな声。
一瞬、彼は自身の正気を疑った。
突如、目の前の話相手の頭がゆっくりと離れていく。ノブの首が落ちていくことで、徐々に残された胴体の向こう側が見えるようになる。
ナヤギの瞳に移ったのは剣を携えた影。
黒衣を纏い、片目しか穴がない漆黒の仮面を付けた人物。
ナヤギの体がビクッと震える。
今までに感じたことがない寒気が全身を走った。
コイツはヤバい――――!!
ナヤギの第六感が警告を出す。
コイツから距離を取れ!! 反射的に後ろに飛ぶ。
ノブの体が光の粒となり弾け、視界から影を一瞬見失う。
影は一歩前へと踏み込みつつ、横一線に剣を振るう。
切っ先がナヤギの首をかすめる。
「――――っ!!」
凄まじいスピード。
少しでも反応が遅れていれば、ノブと同じ運命を辿っていただろう。
だが、まだその運命はナヤギを逃がさない。
影は剣の勢いのまま一回転。再度、ナヤギの首を断ち切ろうと剣を振る。
再び迫る凶刃に対し、ナヤギは腰の剣を引抜き防ごうとする――――が、
間に合わない――――!!
ナヤギは分かった。
影の刃の方が一手早く自身の命に届くと。
「――――これ以上、仲間は殺らせない!」
ナヤギと影の間に振り下ろされる薙刀。
影の一撃は、ランの薙刀に弾かれた。
少しだけ影の姿勢が崩れる。
「よくもノブを!!」
カツが影の心臓を貫こうと刀を突きだす。
影は剣を放り投げつつ体をわずかにひねり、ギリギリで避ける。
そのまま後方へと地面を強く蹴ると、二転三転とバク転。最後に空中で剣を取り着地した。
カツ、ラン、ヤスとナヤギは、影が仕掛けてくる前にそれぞれの武器を構える。
「ヒデ! ミツ! 早く武器を構えろ! 死ぬぞ!」
呆けている2人に、カツが焦った口調で声をかける。
影との距離は10m以上離れているが、少しでも気を緩めれば一瞬で殺される。
2人は慌てて、自身の武器を手に取り影へと構えた。
そこでようやく全員の思考が追い付く。
ノブはコイツに殺された。そして、次は自分たちの番かもしれないと。
影もこちらに向けゆっくりと剣を構える。
圧倒的な威圧感。
ナヤギは冷や汗が止まらない。それはカツたち5人も同じだった。
間違いなくナヤギがこれまで会った中で、1番の強者。
まず身体能力が段違いだ。かなりVRMMOをやりこんできた猛者なのだろう。
次に、誰も影の接近に気づけなかった。スキルか技術によるものかは分からないが、他にも厄介な何かを持っている可能性がある。
そして、良く見れば携えた剣はほぼ初期の剣である鉄の剣。
なのに、ノブの首を易々と断ち切ることが出来た。ノブは決して弱いわけではない。彼のレベルは30後半40に差し掛かろうと言うところであり、現状で言えばまずまずの防御力を持っている。
なのに、能力の低い剣で殺られた。それも一撃で。
つまり、それは影のレベルがノブよりも遥かに高いに他ならない。
少なくとも50を超えていると見て間違いないだろう。
「来るぞ!!」
カツが叫ぶ。
影は地面を強く蹴り、低い姿勢のままこちらに突っ込んでくる。
まるで一本の黒い矢。
「うおおおお!!」
ヒデが影に向かって手槌を振り下ろす。
対して影は剣で、ヒデの手首を切り上げた。手から離れた手槌は地面へ激突。
影はそのままヒデの心臓を貫いた。
「あ……。 皆、すまねえ……後、頼むわ――――」
影が剣を引き抜くとヒデは地面に崩れ落ちた。
「おい、ヒデ! クソォォォォ!!」
「ミツ! 飛び出すな!」
カツの静止も聞かずに、ミツは怒り任せに杖で影へと殴り掛かる。
ミツの渾身の一撃。
しかし、杖が振り下ろされる前に両腕を切断された。
返す刃で、影はミツの肩から脇腹へと一刀両断。
「ぐはっ!!」
短い悲鳴が、ミツの口から漏れた。
「やりやがったな!!」
カツとナヤギが影へと切りかかる。
影は2人の刃が自分へと届く前に一旦距離を取った。
2本の刃は空振りに終わる。
ヒデとミツが光の粒となり天へと昇っていった。
「ヒデとミツまで……! 皆、奴を殺す気で行くぞ! それくらいじゃないとこっちがやられる」
カツの言葉に3人が頷く。
ヤスが3人にバフをかける。ナヤギとカツが影に向かって同時に仕掛ける。
後からランが飛び出した。
ナヤギとカツの攻撃が避けられた場合、ランが影を仕留める作戦。
影もこちらに向かって突っ込んでくる。
「3人の仇だ!!」
「はあああああ!!」
影の両側から2人が切りかかる。
どちらかが防がれたとしても片方が一撃を入れられるはずだ。
影は大きく跳躍して2つの凶刃から逃れる。
だが、これはこれで作戦通り。
ランが空中の敵に向かって薙刀を突き出す。
「仕留めた――――え?」
ランは困惑を口にする。
空中で身動きなど取れないはずだ。
なのに、影は空中を一度蹴って姿勢を直し、薙刀を剣で防いだ。
限定スキル「2段ジャンプ」
空中を1度蹴って跳びあがることの出来るこの世界で30人しか使用することが出来ないスキル。
薙刀に剣を滑らせながら、影はランへと落ちていく。
「え? ちょっと待――――――――」」
影はランの首を跳ねた。
着地すると、影はヤスに向かって一直線。
カツとナヤギも追いかけるが、速度が違い過ぎる。
「やられてたまるか!」
ヤスは杖で影からの攻撃を防ごうと構える。
だが、無駄な事だった。
「ぎげっ!!」
一閃、ヤスは杖ごと上半身と下半身を切り離された。
あっという間に5人が殺された。
「よくも! よくも! よくも皆を!! ぶっ殺す!!」
「お、おい! カツ、待て!!」
カツが影へと突っ込んでいく。
仲間が殺された怒りと自身が殺されるかもしれない恐怖で、錯乱している。
「うわああああああ!!!」
切りかかってくるカツに対して、影は静かに剣を振るう。
カツの頬の刃が食い込むと、まるでスイカのように頭部は真っ二つにされた。
切り離された頭部は、地面に着く前に光の粒に。
残された体も弾けてすぐに天へと昇っていった。
影はゆっくりとナヤギの方を向く。
「お前で最後だ」と言わんばかり。
これで1対1だ。




