第二章 3話(下)
――――――――あれ? 俺は、ギルドに入ったらコイツ等を全員殺さなきゃいけないんだよな?
ナヤギの心の中にふとそんな思いが横切った。
――――なんで、今更そんな考えそんな考えが出てくるんだ?
今までに百を超える命を奪ってきた。
ここにいるたった6人をPKするのに何を躊躇う必要がある。複数人をPKするのは久しぶりだが、そんなことは特に問題はない。
いつものことだ。ただの日常。
最初、自分の手を赤く染めた時に決めたはずだ。
絶対に、この世界から生きて脱出する、人狼として生きることを。
何十、何百、何千の命を犠牲にしようとも生き残ってやると。
そうだったはずだ――――
なのに、現にナヤギの心には迷いが生じている。
殺意という狂気の内から突如として顔を出した一欠片の良心。
「――――おい。 怖い顔になってんけど、大丈夫か?」
急に黙ったナヤギを心配してノブが声をかける。
ナヤギはその声で現実に戻される。
「あ……ああ、悪い、悪い。 ちょっと急に考え事がな」
「ほんとに大丈夫か? それで『そんなこというなら――――』なんだって?」
「あ………、そんなこというなら――――ずっとソロでいてやるわ、ってことだよ」
結局、ギルドに入れてくれという一言をいうのを躊躇ってしまった。
ナヤギはこの1年弱の間、日常的にPKを行ってきた。
だが、彼の中からPK――――殺人に対する躊躇が消えたわけではない。
ナヤギが、PKした者たちのほとんどは会話もしたこともない他人ばかり。
殺す前に少し問答した者はいるが、知り合いと呼べるのはトラたち「虚空の季節」のメンバーくらいだ。
しかも、あの時は人狼であることがバレて彼らに殺されかけたことで、怒り反撃したに過ぎない。
つまり、正体もバレてない知り合いをPKするのは初めてになるということだ。
「はは、そんな寂しいこというなよ」
ノブが軽く笑う。
「ノブ! レン! やったな!!」
「あー、うるさいなあお前は。 嬉しいのは分かるけどもう少し声のボリューム落とせよ」
2人の元に、ヒデとミツが来る。
「2人とも、お疲れさん」
「やりましたね」
「何の話してんの?」
その後に続いてカツ、ラン、ヤスも集まってくる。
全員集合。
ナヤギと1週間、寝食を共にした者たち。
たった1週間だが、共に過ごせばある程度彼らの性格、人間性が見えてくる。
彼らは、おそらく良い人たちだ。
無論、この1週間でナヤギが感じたものでしかなく、彼らの本質かは分からないが。
ヒデは、調子に乗りすぎるところもあるが、このギルドのムードメーカーであり仲間が落ち込んでいる時は、寄り添い元気づける優しい面もある。
ミツは、お調子者のヒデを毛嫌いしているところもあるが、ヒデのことをよくサポートしており、仲間たちの弱点を理解してそれを補っている。
ノブは、ギルドマスターとしてメンバーを引っ張っていく力を持っているだけでなく、仲間たちの意見をよく聞きそれをうまくまとめている。かつ、努力家で仲間を死なせないように深夜まで一人で作戦を練っている時も多い。
カツ、ラン、ヤスもそれぞれ良い面があり、お互いを支えあっていることが分かる。
ギルドの雰囲気はだいぶ良く、「虚空の季節」のように明確なパワーバランスがあるようには見えない。
「オークロードを倒したことだし、次はどうするかなーって話をしてたとこ」
ヤスの問いに、ノブが答える。
「イベントボス倒したんだし、次は中ボス行こうぜ! ちょうど第九ボス部屋が近いんだしよ!」
「コイツと同じ意見ってのは癪だけど、次の目的が中ボス討伐なのは賛成」
「中ボス討伐は悪くないと思うが、もう少し金が稼げそうなクエストとかを優先した方が良くないか。 武器や防具の新調もしたいし、将来的にギルドハウスを買いとかヒデ言ってただろ」
「どちらかと言えば、僕はカツの意見側ですかね。 最近、金が出ていくばっかですから」
「俺は、どっちでもいい。 とりあえずゆっくり休む期間が欲しいわ」
次の目的をどうするかで、議論が白熱する。
ヒデとミツは中ボス討伐、カツとランは金を優先、ノブとヤスはどちらでもないといった感じだ。
「まあまあ、みんな落ち着けって、今日は打ち上げが最優先事項だろ。 そのときにどうするか決めようぜ」
ノブが皆を宥めてとりあえずこの場を収める。
「そういえば、レンはこれからどうするんですか?」
ランからの問い。
「えっ………、とりあえずもう少しソロでやっていこうかなって思ってる」
「えっ! てっきりギルドに入ってくれるもんだと思ってたぞ」
「僕もヒデと交代で加入してくれるものだと」
「おい! ミツ、流石に怒るぞ。 レン、入ってくれよ~」
彼らはいつの間にか、ナヤギのことをすでにギルドの一員だと思っていたようだ。
「っていう感じなんだが、どう? うちに入る気はない?」
ノブからの正式な加入の誘い。
正直なことを言えば、これだけ歓迎されるのは嬉しい。
しかし、ナヤギは人狼であり、素直に喜ぶことは出来ない。
当然だ。彼の目的は、このギルドの抹殺。
だが――――、
「そうだ………どうしようかな」
ナヤギは悩む。
なぜなら、すでにその目的もブレ始めているからだ。
芽吹いた良心は、徐々に彼の心を浸食し、殺意を緩めていた。
彼らへの情を持っていることは、すでにナヤギ自身分かっている。
頭の隅に彼らを殺したくないという思いが出来ている。
その思いとは裏腹に、彼らをPKして切札の有効性を確かめておくことは自身の生存率を高めることだとも十分理解していた。
ナヤギは悩んだ末に――――
「すまん。 せっかくの誘いは嬉しいけど、入るのはやめとくわ」
彼らを殺すことを諦めた。
情を持ったまま彼らをPKしたくなかったし、迷いを持ったままPKをすれば、逆にこちらが殺される危険性も上がる。
彼らは基本的に良い人ではあるが、自分や仲間を殺そうとした相手を許してくれるほど甘い人たちでもないだろう。
もちろん、人狼であることを隠したまま彼らと行動を共にするという道もあるが、それは「虚空の季節」の一件で懲りている。
「え~、まじかよ。 そんなこと言わずにさ~」
ヒデたちから惜しむ声が上がる。
「残念だけど、仕方ないな」
ノブも残念そうに肩を落とす。
「悪いな」
「いいさ、この世界での生き方は人それぞれだ。 まあ、また気が変わったら教え――――――――ー
「え?」
音もなくノブの首が落ちた。




