第ニ章 2話 「切り札の準備」
ナヤギが黒仮面と対峙する少し前へと時間は遡る――――
「うおおおお、とりゃあああああ!!!」
「ヒデ、むやみに飛び込むな! 一旦、距離を取れ! ヤスはバフを頼む!」
「よし、任せろ!」
木々が生い茂る森の中、ポツンと置かれた木製の玉座の前――――
男7人のパーティーが1体のモンスターと対峙していた。
薄汚れたような緑色の表皮、4メートルはあろう人型の巨躯、右手には周りの木など簡単になぎ倒せそうなほど大きなこん棒、頭にはちょこんと小さな王冠が乗っている。
『オークロード』
ガカリ地方終盤にある大森林を支配する魔物であり、イベントボスの一体だ。
「カツ、ヒデ、レン! 四人で取り囲んで一斉に仕掛けるぞ! ラン、ヤス、ミツは援護を頼む」
「了解、ノブ!」
ノブと呼ばれたツンツンと尖った赤髪男が指示を出す。
その指示に従いアタッカーの4人はオークロードの四方へと移動する。残りの3人はそれぞれ援護がしやすいアタッカーの後方に構える。
標的たちが散開したため、オークロードは体を左右に回しながらこちらの様子をうかがっている。
アタッカーの4人はジリジリとオークロードとの距離を詰め、プレッシャーを与えていく。
プレイヤーとモンスター両者ともに緊張が徐々に体を覆う。
先にしびれを切らしたのはオークロードの方だった。
「ウオオオオオォォォォォォ!!!」
雄叫びを上げながら正面にいる浅黒い肌の少年、ヒデに向かってこん棒を振り上げながら突進してくる。
「よりによって俺かよ!」
「今だ!」
勘弁してくれという悲鳴を上げるヒデをよそに、ノブは他の5人に合図出す。
ヒデの後方に待機していた細身長身の青年、ミツがヒデに防御バフをかける。
ヒデは自身の持つ手盾でオークロードの一撃を受ける。
こん棒と金属製の手盾がぶつかる轟音が、周囲の空気を揺らす。
衝撃を完全には受けとめることが出来ず、ヒデは3メートルほど後方へと滑っていく。
「はあ! アブねえ!」
「『アブねえ!』じゃないよ。 お前がやられたら後方にいる僕もやられるだろ」
少し嫌味たらしくミツはヒデに言い放つ。
一撃の勢いが殺されたことでオークロードの突進が止まった。
左右から短い茶髪の少年、カツと黒髪の少年、レンが仕掛ける。
オークロードは彼らの接近に気づき、横一線にこん棒を振るう。
2人は体を低くすることで回避。
そのまま、オークロードの両足をそれぞれ切り裂いた。
「ウガァ!!」
悲鳴と共にオークロードは膝から崩れる。
だが、上体はなんとか保ったままであり、2人に向かって滅茶苦茶にこん棒を振り回す。
2人は攻撃範囲内から退避する。
「あと少しだ! 最後もってけノブ!」
カツがノブに向かって叫ぶ。
「ああ! 決めてやる!」
オークロードに向かってノブは、一直線に走り出す。
丸眼鏡の青年、ヤスは攻撃バフをノブにかける。
ノブの身体が赤いオーラに包まれると同時に、彼はオークロードの頭を切断しようと飛んだ。
その時、オークロードがノブの方に振り向いた。
彼らの視線が交差する。
オークロードはノブを叩き落そうとこん棒を振り下ろす。
「――――やらせない」
薄紫色の長髪の少年、ランが薙刀でオークロードの上腕を切り落とす。
こん棒は緑色の腕とともにあらぬ方向へと飛んでいった。
「ナイスだ、ラン!」
がら空きになったオークロードの頭に、ノブは必殺技を使って刀を振り下ろす。
斜め一閃、オークロードの頭蓋へと刀が食い込む。
「うおおおおおおお!!!!」
「ヴオオオオオオォォォォォォォ!!!」
ノブの叫びとオークロードの悲鳴が重なる。
――――ズパッ!!
刀の勢いは止まることなく、オークロードの頭部を断ち切った。
鼻から上の切断された部位は、地面に触れる前に光の粒となり弾け飛ぶ。
残された体も地面へと崩れ落ちた後、頭部に続き消えていった。
「よっ……、しゃあああぁぁっ!!!」
「やった! ボス討伐したぞ!!」
「うしっ!」」
7人の歓喜の声が上がる。
お互いにハイタッチをしたり肩を組んだりして喜びを共有しあう。
そんな中で、ノブがレンへと近づく。
「やったな! サンキュー、助かったぜ」
レンに向かってノブは手の平を差し出す。
「こちらこそ楽しかった。 ありがとな」
レン――――ナヤギはそのハイタッチに応じた。
そう、ナヤギはこの者たちを殺すためにギルドに潜入していた。




