第二章 1話 「ゲーム開始10か月」
ゲーム開始から10か月が経った――――
第1エリア『ガカリ地方』の支配者である四天王の1柱が攻略連合によって討伐され、プレイヤー達は第2エリア『ヤハテ地方』まで歩を進めていた。
四天王が倒されたことで、ガカリ地方の王都、攻略都市の主要都市内に転移魔法陣が現れた。
各主要都市を移動できるこの魔法陣の出現により、プレイヤーや情報、アイテム等の流れが活発になっている。
各地のイベントクエストやアイテムの情報が出回るようになったことで、中堅以上のプレイヤーの強化は進み、モンスターを倒すこと以外で生活しているプレイヤー達にとっては、行動範囲が広くなったことでより利益を見込めるようになった。
ナヤギら人狼の元にも人狼討伐派や攻略連合の動向がいち早く伝わるようになり、それに合わせて行動がしやすくなった。だが逆に、人狼の情報もすぐに拡散されることになり、迂闊な動きは出来なくなったとも言える。
このように、魔法陣の存在はプレイヤー達に大きな変化をもたらした。
ガカリ地方内でプレイヤーたちが活動的になっている一方、ヤハテ地方でも攻略は進んでいた。すでに第14ボスまでの討伐が済んでいる。
しかし、その裏側では8000人を超えるプレイヤーが死亡している。
人狼はまだ1人しか死亡していない。
ナヤギは、といえば相変わらず目立った動きはせず静かに過ごしていた。
ガカリ地方内を定期的に移動しながら、正体がバレないように注意深く行動している。
PKに関しても、「虚空の季節」壊滅以前のように深夜に一人で行動しているプレイヤーを狙うようなスタイルに戻っていた。
コロンやソウキとも連絡を取り合っており、再会はまだだが二人とも元気そうである。
現在のナヤギのレベルは45。
攻略組の主力メンバー達のレベルが50後半であることを考えると、中堅プレイヤー上位の立ち位置。徐々に攻略組とのレベル差が開き始めていた。
とはいえ、ナヤギよりもレベル高いプレイヤーたちの多くはヤハテ地方へと進出しており、さほど問題はない。
ナヤギのレベルが上がると共に彼が所持するスキルもレベルが上がっていた。
彼が最初に手にした人狼専用スキルの一つである「PK経験値up」はLv.4になっており、その効果はPKをした際の獲得経験値は同レベルのモンスターを倒した時の50倍。
1回のPKで大幅な経験値を獲得できるようになった。
もう一つの「人喰飢餓」はLv.3に。
効果はPKポイントが3以下の時、獲得できるポイントが3倍。PKポイントが切れる前日にPKをしなくても獲得できるポイントが増えるため、ある程度の余裕を持つことが出来るようになった。
人狼専用スキル「捕食態勢」や「ナイフ投げ」「忍び足」の通常スキル、彼の愛剣ヴァイオレットソードのスキルも徐々に強化されていた。
彼のスキルの多くが強化されている中で、1度も使用されていないスキルがある。
この世界が彼しか所持していない限定スキル「嘘つき狼の切り札」だ。
発動条件も効果も分かってはいるが、1度も使用していないのは心元ない。いざという時に「そのスキルの修得は不可です」なんてことじゃ話にならないし、この強力なスキルを1度も使用しないのは少し忍びないとナヤギは感じていた。
「――――よし! 使わないと分からないこともあるしな。 切り札を切ってみるか!」
ナヤギのこの決断が彼に新たな出会いもたらし、死地へと誘うことになる。
数日後、ナヤギはこれまでない窮地へと追い込まれていた。
ナヤギの首に刃が振り下ろされる。
「くっ!!」
ヴァイオレットソードで何とかその凶刃が首に食い込むのを防ごうとする。
轟音、剣同士がぶつかる凄まじい音がナヤギの鼓膜を揺らす。
直後、彼の横腹に鋭い痛みが走る。
蹴られた、と認識した時にはすでに吹っ飛んでいた。
「がっ……!!」
近くの木に叩きつけられた。
肺から空気が押し出され、全身から悲鳴が上がる。
だが、痛がっている暇など微塵もない。
ナヤギはナイフを数本取り出し投擲する。
直感、これをしなければ死だと彼の第六感がそう警告していた。
ナイフは、ナヤギと相対する黒い影に向かってまっすぐに飛んでいく。
影は手にした刀でいとも簡単に全てのナイフを弾くと、ナヤギとの距離を一気に詰める。
ナヤギは、ナイフを弾いたことでできた僅かな時間を利用して立ちあがる。
ナヤギの顔面を狙った突きが繰り出される。
間一髪のところで突きを躱すが、頬には赤い線が刻まれ鮮血を模した赤い光が噴き出す。
「はあああああ!!」
ナヤギは、下から斜め一閃に影を切り裂く。
しかし、影がひらりと後ろに跳んだことでナヤギの渾身の一撃は空に斬るに終わった。
ナヤギはすぐにヴァイオレットソードを構え直して影を睨む。
漆黒の仮面から覗く宝石のような紫紺の瞳と視線がぶつかった。




