第一章 39話 「ストーカー」
「……話を聞くって言った手前、聞かないわけにもいかねえしな……」
「あざっす! 流石、話の分かる男は違うわ~!」
2人が居るのは路地の奥にある小ぢんまりとした喫茶店。
数えるほどしかないテーブル、開くとギィと音のなる木製の扉、客は彼らしかいない。秘密の話をするには絶好の場所というわけだ。
ちなみにソウキは元の姿に戻っている。
「で、ストーカーってのは、もちろんお前がされてるってわけじゃないだろ」
「そりゃね、当然PINPINたんのだぜ」
ナヤギはジトっとした目でソウキを見る。
「……ストーカーってお前じゃねえの?」
「違うわ! 俺はそんないやらしい目をPINPINたんに向けたりはしねぇ!!」
速攻で否定するソウキ。
だが、ナヤギの目には若干の疑惑が残っている。
信用できない男ではないがコイツならやりかねないんじゃね、と感じていた。
「まあ、ストーカーがお前かお前じゃないかは置いておいて、PINPINがストーキングされてるってなんでお前が知ってんの?」
「だから俺じゃねえって!!――――ストーカーについてはPINPINたんから相談されたんだよ!」
遡ること3か月前――――
PINPINの元に差出人不明の手紙と赤い箱のプレゼントが届いた。
プレゼントの中身は花束、手紙の内容は「あなたの歌が大好きです。 あなたのことが大好きです」という当たり障りのないもので、最後に『あなたを愛する者 より』と記されていた。
そんな手紙と赤い箱が2,3日毎に届くようになった。
それだけなら熱狂的なファンからの物で済むだろう。
PINPINもそうだと思っていた。
だが、それは違った。
手紙とプレゼントはだんだんと過激なものへと変化し、1か月後には赤い箱の中には鎖付きの首輪、手紙の内容は「君の全てを手に入れたい。 君は僕の物だ」、差出人の欄には『君のご主人様 より』と記されていた。
これにはPINPINも身の危険を感じたらしく、ソウキに相談をしたわけだ。
「相談する相手を間違えてる気がするけど……なるほどな。 それでお前はストーカーをどうするんだ?」
「ぶっ殺す!」
即答。
「へっ⁉ 気持ちはわかるけど、冷静になれよ!」
ソウキの答えに、ナヤギは驚きを隠せない。
彼がPINPINのことを好きなのは分かるが、それにしても過激すぎるのではないだろうか。
「俺は冷静だぜ。 理由もなしに同志になれるかもしれない奴を殺したりしねえよ」
確かに、ストーカーとソウキはPINPINのことを好きだという一点において同類だ。話を聞くような奴であれば、親衛隊の一員として迎え入れることもできるかもしれない。
だが、それをしないということは相応の理由があるのだろう。
「奴はおそらく犯罪グループの一員だ――――そして、親衛隊を少なくとも2人殺している」
『犯罪グループ』
現在この<Savior Lord>の世界では、現実世界の法が適用されず、システム上でも犯罪行為の制限がされていない。
そのことをいい事に、殺人や強盗、暴行などの犯罪行為に手を染める集団がいる。
それが犯罪ギルドや犯罪グループだ。
ギルドとグループの違いは、ギルドはシステム上で繋がっているのに対して、グループはそうではないことだ。
しかし、第三者からは犯罪ギルドであるか犯罪グループであるかは分からないため、一般的には人数が多く規模の大きいのが犯罪ギルド、人数が少なく規模が小さいのが犯罪グループと呼ばれている。
「俺が色々な組織に潜入して情報を集めた結果、奴が4,5人程度の犯罪グループに所属している可能性があることが分かった。 しかも、そいつらは女性ばかりを狙って暴行を加えた後で金品を強奪する最低野郎どもっていうおまけつきでな」
ソウキの声音が強くなっていく。
「そりゃ、ぶっ殺さねえといけないわけだ。 親衛隊のメンバーがそいつらに殺されたってのは?」
「PINPINにプレゼントが届きだした頃から、段々と連絡が取れない隊員が出てきたのさ。 最初は、こんな世界だしそういうこともあるかと思ってたんだが、そうじゃなかった。 ある日、会員証が親衛隊以外の手に渡っていることに気がついた」
「気がついたって、どうやって? これに発信機でもついての?」
先ほどソウキから手渡された会員証を手に取り、裏表をひっくり返しながら見る。
「そうだったら色々と話が早かったんだけどな……残念ながらそんな大したもんじゃねえよ。 会員証の持ち主が変わった時に、俺に通知される機能をつけてるだけ。 本当は発信機もつけたかったんだが、発信機クソ高えから諦めた」
「ふ~ん、そんな機能もあるんだな」
<Savior Lord>の世界では、武器や防具を始めとした様々な道具を作成することができる。 鍛冶屋などNPCの店で作ってもらったり、専門のスキルを所持していれば自身で作成することも可能だ。ちなみにナヤギのヴァイオレットソードは前者である。
発信機などは、専門の店でチップ型のアイテムで売っており道具作成の際に組み込むことでその機能を発揮する。
「話が脱線したな、続きをはなしてくれ」
「2つの会員証が親衛隊以外の手に渡っていることに気づいたわけだが、墓場に行ったら案の定元々の持ち主は死んでいた。 つまり、俺たちが良く知る現象が起きていたと推測できる」
「……PKによるドロップアイテムか」
殺したプレイヤーのアイテムがランダムにドロップするシステム。
ナヤギが何度となく経験したことだ。
「で、いつごろから連絡が取れなくなったかを調べたら、ライブ後に連絡が取れなくなった隊員がほとんどだった。 明らかに親衛隊を狙った犯行、だとしたら考えられる犯人は一人しかいねえ」
「なるほど……ストーカーの仕業の可能性が高いな」
「どうやって親衛隊の存在を知ったかは分からねえが、PINPINの情報を得るためにアイツらに手をかけたんだろうよ……!」
ソウキの眉間に皺がよる。
彼との付き合いは短いがここまで感情をむき出しにするのは珍しい、とナヤギは感じた。それだけ怒りがこみ上げているのだろう。
「それでどうやってストーカーを退治するんだよ。 居場所も正体も分からないんじゃどうしようもなくないか?」
ナヤギは難点を指摘する。
対してソウキは、ニヤッと口角を上げる。
「大丈夫、作戦がある。 とっておきのやつがな! それは――――」
その日の深夜0時過ぎ――――
プライベートライブが行われたホテルの裏口。
ホテルの正面の大通りにはまだそれなりの人通りがあるものの、裏の路地には全く人がおらず薄暗い。
そんな静けさを少しだけ破るように、裏口の扉がゆっくりと開き中から人が出てきた。
桜色の髪をした童顔の少女。
少女は、大通りではなくその逆人気の全くなさそうな地区の方向へと向かう。
しばらく歩いていると、少女は後ろに人の気配を感じた。
振り返ると、20メートルほど後方の建物の陰に隠れた人影が目に入ってきた。
少女は慌てて足を速める。
「はあ……! はあ……!」
自然、少女は走っていた。
だが、それでも後ろの人物はピッタリとついてきており、振り切れそうにない。
いつの間にか、都市の端にある貧民街へと出ていた。
少女はたまらず、近くにあった寂れた教会へと逃げ込んだ。
しかし、そこは随分前に放置されたであろう廃墟だった。
「――――逃げるなんて酷いな。 僕はお前のご主人様だぞ」
少女の後に続いて、後ろの人物が入ってくる。
そこで初めて両者が正面で相対した。
少女をつけていた人物は、ネズミ顔の男。
こけた頬に、舐めるような視線、下卑た笑みを少女に向けている。
少女の背中に悪寒が走り、不快感でいっぱいだ。
「さあ、こっちにおいで可愛がってあげるよ――――PINPIN」
男が右手を差し出す。
「……ふふふ」
少女は顔を抑えて笑い出す。
「ふふふ……くくくっ、あっはははははは!!」
「……っ!?」
少女の豹変ぶりに男は困惑を顔に浮かべ、一歩身を引いた。
「ははは! 俺をどう可愛がってくれるのか教えてくれますか、ご主人様ぁ!」
手を離し上げた顔は美少女ではなく、にやけた少年のものとなっていた。




