第一章 34話 「ライブ」
――――翌日
2人は第2攻略拠点都市である「エキシポ」に来ていた。
その目的は、エキシポの中央広場で行われるとあるアイドルのライブ。
『Savior Lord』では、金――――ゲーム内通貨「レント」を稼ぐことが出来ればそれなりに暮らすことが出来る。金さえ積めばセキュリティが万全の宿に泊まることが出来るし、最初の街である「王都」でもそれなりの装備を揃えることができる。
だから、通常プレイではほぼいないであろうモンスターを狩ることなく、他で金を稼ぐプレイヤーもそれなりにいる。
安全圏内でも死ぬ可能性は0ではない。だが、フィールドに出るよりは圧倒的に生存率は高い。ならば、何かしらの特技で金を稼ぎ、安全圏内に引きこもろうという考えは不思議ではない。
そんな職業の中で人数が多いのは、料理人や鍛冶師。これらの職には専用のスキルがあり、それらを修得すれば最低限の仕事はすることが出来る。
他には、情報屋や伝達屋などがいる。このデスゲームおいて、転移アイテムの使用できないことやフィールド内での通信が出来ないことに着目した職業だ。
また、漫画家や小説家、歌手なども存在する。この世界は嗜好品が少ないため、これらの職に就いている人物はかなり人気者だ。
これから、2人が会いに行くアイドルもその一人というわけである。
「――――何度も言ってるけど、別に俺はアイドルとか興味ないんだけど……」
あまり乗り気ではないナヤギ。
現実でも好きなバンドばかりを聴いていて、アイドルの曲はたまに有名なものを聴くくらいだった。17年の人生でアイドルに興味を持ったことはない。
「そんなこと言うなって、あの『PINPIN』の生歌が聴けるんだぜ! 1度は行くべきだって!」
乗り気ではないナヤギと対照的に、ソウキは興奮気味だ。
「ここ仮想世界だから生歌ではなくね……? 仮想世界なら別に珍しくもないし……」
「――――そんなことはどうでもいいんだよ!」
「お、おう……!?」
ソウキの熱気が強すぎる。
おそらくは相当熱狂的なファンなのだろう。
VR、特にフルダイブの技術が確立されてから、仮想世界でのライブや舞台が爆発的に行われるようになった。
当然と言えば当然のことではある。
なぜなら、現実で行うよりもメリットがかなり大きいからだ。
主催者側からすれば、会場の設置をすることなく派手な演出が簡単に行える。コストの削減しつつ、収益は大幅に上げることが出来るわけだ。
客からすれば、チケットが格安で確実に手に入れることができ、会場まで移動する必要がなくなる。つまり、時間と金をかけずに手ごろにライブや舞台を楽しめるようになったわけだ。
今では、現実で行われるライブや舞台はかつてに比べてかなり少なくなっている。
「とりあえず、行こうぜ。 行けば興味持つかもしんねえだろ」
「持たないと思うけどなぁ……」
軽くない足取りで、ソウキについていった。
その3時間後――――
『みんなーありがとー!! 声援のおかげでいつも以上の力が出せたよー!! 応援してくれるみんなが大好きだよー!!』
「「「うおおおおおおおおお!! PIN! PIN!」」」
「いい歌声だったよー!! PINちゃぁぁぁぁん!!」←ソウキ
「いええええぇぇぇぇい!! PIN!! PIN!!」←ナヤギ
ナヤギも、熱烈なファンたちに溶け込んでいた。
最初、彼女が姿を現した時は千人ほどの観客が一斉に湧き、人気があるんだなくらいしか思わなかった。
しかし、一曲目が終わった辺りから周りの熱気に巻き込まれていき、彼女の歌に高揚感を持ち始めていた。
終盤に差し掛かった今では、すっかり彼女の1ファンだ。
『次が最後の曲だよー! この世界で生きるみんなのために、みんなでこの世界を出られるように願って作った歌です。 聞いてください!』
その歌は、今までの彼女の歌とは違いとても静かで優しい音色だった。
だが、同時にとても強い意思を感じ、聴くだけで活力が湧いてくるようだ。
ナヤギは体が高揚しているのと同時に、哀愁を感じていた。
『みんなでこの世界を出る』――――彼女の願いは、決して叶わない。
そして、叶わなくしているのは他ならない自分。
人狼が生きるためには他者の命を奪わなくてはならない。自分が生きる以上、これからもこの世界で朽ちていく人々が存在する。
例え、人狼が全員死んでプレイヤー全員が解放されたとしても、それは‘みんな’ではない。
心の奥がチクッと痛んだ。
『さいごまで聴いてくれてありがとー!!』
いつの間にか、歌い終わっていたようだ。
「「「アンコール‼ アンコール‼」」」
アンコールを求める声が周りから飛ぶ。
まあ、今更考えても仕方ないか――――
ナヤギは、自分の中に出来たモヤっとしたものを断ち切り、気持ちを切り替える。
アンコールを求める声の中に混じる。
『みんなの声に答えてもう一曲行くよー!!』
ナヤギは最後までライブを楽しんだ。
『みんな今日はありがとねー!! また来てくれたら嬉しいなー!!』
ライブは無事終了した。
彼女が舞台の裏へと消えていくと、徐々に観客も帰っていく。
「な、楽しかっただろ」
ソウキが、感想を聞いてきた。
「ああ、楽しかった。 予想以上だった」
「だろ、やっぱり連れてきて正解だった。 死んだような目をしてたからな。 今のお前は生き生きとしてるぜ」
ソウキはにかっと笑った。
そこでナヤギは気づいた。
そうか、そういうことか――――
生きることしか頭になく、心が死んでいたことに。
仲間に裏切られ、絶望し、いつしか生きることだけに囚われていた。
ソウキはそのことを教えてくれようとしたのだろう。
「……その、ありがとな」
「気にすんなって――――確かに俺たちが生きていく道は辛いけどさ、ここで、この世界で人生終わらせる気はないだろ。 だから、出来るだけ楽しく生きようぜ。 人生楽しく生きた方が得って言うしな」
「ああ! そうだな」
しっかりとした口調で、ナヤギは同調する。
「――――っというわけで次の楽しみに行こうぜ」




