第一章 35話 「親衛隊」
ライブ終了後、ナヤギは1人で会場の外に残っていた。
ソウキがどこかに連れて行ってくれるらしいのだが、何やら準備があるらしく「少し待ってくれ」と言いどこかに行ってしまった。
なので、ナヤギは広場に隣接する建物にもたれかかりながら、‘新聞’を読んでいる。
この世界における「新聞」とは、情報屋であるプレイヤーたちが発行している情報誌のことだ。
値段は1日の食費とほぼ同等と少し割高ではあるが、最近の事件やイベントクエストの情報などが載っている。おそらくほとんどのプレイヤーが目を通しているだろう。
「今回のはハズレだな……」
今回の新聞には、ナヤギにとって役立ちそうな情報は載っていなかった。
多人数で行うイベントクエストの攻略方法や、エリアボスのボス部屋の場所がようやく見つかったなどの攻略組の動向ばかりで、彼にとってメリットになりそうな記事はなさそうである。
唯一、興味を持ったのが「墓標連合」が‘攻略連合’の一席に座ったとういう記事。
『攻略連合』
攻略組の中でも力を持ったギルドらが、攻略の会議および<Savior Lord>内の秩序の維持を目的に設立した組織。
SOGや赤ずきんをはじめとした大規模ギルドなどが属している。
今回、その末席に墓標連合が加わったというわけだ。
かつてナヤギは、墓標連合のギルドマスター直々にスカウトされた。
もう2ヶ月以上の前のことだ。おそらく向こうは忘れているであろうが、気を付けておくことに越したことはないだろう。
攻略連合に目をつけられるなどたまったものではない。
読み終わった新聞をアイテムストレージに戻す。
広場を眺めてみると、さっきの熱狂が嘘のように人がいなくなっていた。まばらな人通りに、奥の方では数人の男たちが会場の撤去作業をしていた。
「――――おい、そこのお前」
突如、誰かに声をかけられた。
声の方を向くとそこに居たのは、頬のこけたネズミ顔の男。ナヤギを見下ろす目はぎらついており、友好的とはとても言えそうにない。
ナヤギは警戒心を抱く。
「……なに?」
男の目を見据え、ナヤギは相手の行動に対応できるようにする。
いざとなれば逃走、最悪の場合は戦闘になるかもしれない。ナヤギは右手にナイフを隠し持つ。
「お前は‘親衛隊’か?」
男の問いに、ナヤギは怪訝な顔をする。
「……なんだそれ? 親衛隊……?」
「チッ! 違ったか……どこに居る親衛隊……!」
ナヤギに背を向けると、男は離れていった。
「なんだったんだアイツ……」
男が去り、ナヤギは右手に隠したナイフをしまう。
嫌な感じの奴だった。
しかし、親衛隊とは何なのだろうか。
「まあ、いいか……それより、遅いな」
ソウキがどこかに行ってから、もう30分は過ぎている。
一体、何をしているのか。
「――――遅くなって悪いな」
「待ちくたびれたわ。 なにして――――誰……?」
振り向いた先に居たのは、ナヤギの思っていた人物ではなかった。
ソウキと同じような青髪ではあるが、彼よりも身長が高く、なんというか爽やかイケメンという言葉がぴったり当てはまる青年。
ソウキも常人よりは顔は整っているが、彼自身の雰囲気や態度がその良さを打ち消している。
「俺だよ。 俺、俺」
「いや、オレオレ詐欺かよ! ……ああ、分かったそういうこと。 羊の面か」
ナヤギは瞬時に理解した。
この青年は「ソウキ」であると。
ソウキの持つリミット1スキル『羊皮を被りし狼』。
そのスキルを使用した姿なのだろう。
「そゆこと、理解が早くて助かるわ~。 人気の無いとこがなかなかなくてさ、時間かかっちまったわ。 ゴメン、ゴメン」
「いいけどよ……スキルを使ったってことは、今から行くのは訳アリの場所なのか?」
ソウキが姿を変えたということは、正体がバレやすい場所もしくは人狼であることがバレた時に危険な場所なのだろうか。
「訳アリというほどでもないけど、秘密の場所ではあるな。 いっつもこの姿で行ってるし、この姿じゃないと入れない場所なんだよ」
ソウキの言葉にナヤギは首をかしげる。
「まあ危ない場所ではないから大丈夫。 とりあえず付いて来いよ」
まだ訝しげなナヤギだが、ソウキを信用してついて行くことにした。
「――――しばらく歩いているけど、まだ着かないのか?」
二人が居るのは、大通りから一本離れた路地。
かれこれ2,30分は歩いている。
「そう焦んなって。 もうすぐだ」
ソウキの足取りは軽そうだ。
この先にあるものがよほど楽しみなのだろう。
「そうだ、お前さ――――親衛隊って知ってるか?」
「――――っ!?」
前を歩いていたソウキが、急にこちらに振り返る。
何かただならぬ様子だ。
ナヤギはただの雑談のつもりだったのだが、この様子だとソウキは何かを知っているのだろう。
「親衛隊って言ったのか……? どこでそれを知ったんだ」
「いや……さっき話しかけてきた男がそんなことを口走っていたから……」
ソウキは指を顎につけ、何やら考えている。
だが、すぐさま顔を上げた。
「……世の中には知らねえ方がいいことっていっぱいあるんだぜ、相棒」
「誰が相棒だ」
元のソウキに戻った。
「ほら、着いたぜ」
話しているうちに、目的地に着いたようだ。
「ここって……」
目の前には頑丈そうな扉。
エキシポの中で最も高級なホテルの裏口だ。
ソウキは重そうな扉を押して中へと入っていく。
ナヤギも彼の後に続いてホテルの中へ。
そこはホテルの倉庫のようで、木箱などが丁寧に積まれていた。
薄暗い部屋の中央にスーツを着た初老の男性が立っている。おそらくNPC。
「申し訳ございませんが、ここは関係者――――」
「はい」
初老の男性にソウキはカードのようなものを見せる。
「失礼しました。 ご案内させていただきます」
初老の男性は2人に深々と頭下げた後で、奥のほうへと向かう。
2人は彼についていく。
「こちらでございます」
案内されたのは、小規模なパーティー会場のような場所だった。
小規模とはいえ高級ホテル、天井からは数億しそうなシャンデリアが吊り下げられ、部屋の端には見たこともないような観葉植物が置かれている。
そんなパーティー会場には20人ほどが居て、そのほとんどが男性。
1人の男がこちらに気づいた。
「隊長だ!! 隊長が来られたぞー!!」
「何! 隊長だと!」
「ほんとか!」
「隊長! 隊長ー!」
男が叫ぶと、連鎖的にその興奮が広がった。
2人――――というよりソウキの元に続々と人が集まってくる。
続々と集まってくる人々にナヤギは驚嘆を露わにする。
「えっ? えっ? どゆうこと?」
状況が全然理解できていない。
「みんな久しぶり! お前ら「PINPIN」への愛は衰えていねえだろうな! 早速、法被を羽織れ!」
ソウキの合図とともに、ナヤギを除くその場に居る全員がピンク色の法被を羽織る。
その光景は異様ともいえるものだった。
ソウキがナヤギの方へと振り向く。
「ここは「PINPIN」のプライベートライブ会場! そして、俺たちが親衛隊だ!!」
――――いや、お前何者だよ!!




