第一章 32話 「人狼との出会い」
「ちょ……タンマ! タンマだって! 俺も人狼!」
「は?」
坊主頭の言葉に、ナヤギは足を止める。
とりあえず凶刃が自分に届くのを防いだことで、坊主頭はホッとする。
だが、「はいそうですか、人狼ね」と信じるほど、ナヤギは馬鹿ではないし、お人よしでもない。警戒しつつ、疑いの目を坊主頭に向ける。
「ふー危ねえ、危ねえ。 いきなり襲い掛かってくるのは勘弁して。 もう少し人の話は聞くようにした方がいいぜ」
「……少しは話を聞く気になった。 人狼であることを証明してもらってからな――――人狼が最初のPKで修得するスキルは?」
剣の握りを緩めないまま、坊主頭に質問をする。
人狼しか知らない、人狼であれば答えられる質問。もし、間違った答えが返ってきたら、その瞬間に首を跳ね飛ばすつもりだ。
「えーっと……なんだっけなぁ――――ちょっ、冗談! 冗談だから、PK経験値upだろ!」
ナヤギの目が鋭く尖ったことで、坊主頭は慌てて答える。
「ピエロからもらったPKポイントはいくつだ?」
「10ポイント、これで人狼だって分かったっしょ。 まだ疑うなら、いくらでも答えてやるよ」
「……分かった、信じてやる。 だけど、一つ答えてくれ。 なんで、人狼討伐派に潜入していたんだ?」
質問に即答したことから、まず人狼であることは間違いないだろう。
だが、人から命を狙われている身としては、堂々とし過ぎている。人狼であることがバレたならばその時点で終わりだ。
なのに、人狼討伐派に潜入するほど大胆に行動している。
そのことが、ナヤギは引っかかっていた。
「――――コイツのこと? だって本当に、俺に友人殺されているし」
坊主頭は、自分の顔を指差す。
その答えと行動に、ナヤギは怪訝な顔をする。
意味が分からない。彼は本気でそう感じた。
「ああ、ゴメン、ゴメン。 ふつう分かんねえよな。 ……まあ、お前になら見せてもいいかな――――『羊皮を被りし狼』・解除――――」
坊主頭の輪郭がブレて次の瞬間には別人になっていた。
青髪で前髪を軽く上げているナヤギと同じくらいの歳の少年。
「……は?」
再びナヤギの口から間抜けな声が漏れた。
「――――いやー、やっと自分以外の人狼に会えたわ。 あ、これ飲む?」
「俺も人狼に会うのはお前が初めてだよ。 じゃあ、もらおうかな」
丸テーブルの上に、元坊主頭――――青髪はお茶の入ったグラスを2つ置く。
2人がいるのは、廃村にある比較的に崩れていない木造家屋の中。
立ち話もなんだということで、場所を移した。
2人は座れそうな椅子を引きづってきて、丸テーブルの前に座る。
「……一応聞くけど、毒とか入れてないよな」
「入れてないわ!――――ほら、飲んでも大丈夫」
青髪は、お茶を一気に飲んでグラスを空にする。
特に彼に異常はなさそうであり、毒などは入っていなさそうだ。
「疑って悪かったよ……それで、さっきの姿が変わったのは何なのか教えてくれよ」
「まあ、気になるよな。 今更、隠すことでもないし教えてやるよ」
そう言い、青髪は説明を始めた。
坊主頭から青髪へと姿が変わったのは、やはりスキルによるものだった。
スキル『羊皮を被りし狼』
人狼専用スキルであり、ナヤギの持つ『嘘つき狼の切札』と同じ「限定1名」のスキル。
その効果は、一般プレイヤーの姿に一定時間なるというものだ。
ただし、無制限に誰にでもなれるわけではない。
スキルを使用できるのは1日1回だけで途中で解除すれば、その日はもう元の姿で過ごすしかない。
姿を変えられる対象は、PKしたプレイヤーもしくは体の一部に触れたことのあるプレイヤー。後者は一度しか姿を変えることができず、再度そのプレイヤーになる場合にはまた接触が必要になる。
制限時間は、PKしたプレイヤーになる場合は24時間、接触したプレイヤーになる場合は3時間。後者はスキルレベルが上がるごとに、変化する時間が長くなっているらしい。
「――――っていう感じだけど、オッケー?」
「……一応、理解はした。 つまり、さっきの姿はお前がPKしたプレイヤーってことか」
「そういうこと!」
坊主頭は、青髪がPKしたプレイヤーであり、その姿に成り変わっていたわけである。
おそらくは、坊主頭の友人をPKした時に一緒にPKしたか、一度取り逃がし人狼討伐派に入ったあとにPKしたのだろう。
「だけど、結局はなんで危険をおかしてまで人狼討伐派に居たんだよ?」
青髪に向かって、ナヤギは疑問を投げかける。
先ほどは姿が変わったことに衝撃を受けて有耶無耶になってしまったが、冷静に考えると不思議だ。
人狼討伐派に潜入する理由が見つからない。坊主頭が人狼討伐派に入った後に、PKしたとしてもわざわざ成り代わる必要はない。
「……特に大した理由じゃないんだけどな。 とりあえず、フレンド登録しようぜ? まだお互いのプレイヤー名も知らないし」
「確かに、フレンド登録はしておくか」
青髪からフレンド申請が届いた。
すぐさまメニュー画面を開き、ナヤギは承認ボタンを押す。
――――ソウキさんが、フレンドに登録されました。 ソウキさんは人狼です。 ソウキさんに対して、偽のステータス画面を表示しますか?――――
いつものフレンド登録とは違うメッセージが頭に響く。
人狼同士でフレンド登録した時は、相手が人狼であることが分かるらしい。疑っていたわけではないが、これで青髪――――ソウキが人狼であることが確実になった。
人狼であるソウキに、ナヤギは偽のステータス画面を表示する必要もないと考え「いいえ」のボタンを押す。
ソウキもメニュー画面を操作している。
偽のステータス画面にするかどうかを決めているのだろう。おそらく本来のステータス画面が見えるようにしてくるはずだ、とナヤギは思っていた。
――――ソウキさんは、あなたに対して偽のステータス画面を表示しています――――
ナヤギは小ぶりのナイフを手にする。
そのままソウキの顔面に刃先を向けた。
「――――どういうことだ?」
室内にナヤギの低い声が響いた。




