表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/57

第一章 30話 「質問」

 

「勇敢なる少年よ、こちらに!」


 ナヤギの前にいる人々が横に避けたことで、壇上までの道ができた。

 その道をゆっくりと進む。


「さあ、皆さん! 彼に盛大な拍手を!」


 にこやかな笑顔を浮かべた年配の男性と彼のお仲間から、歓迎の拍手がナヤギに送られる。観客からもパラパラと拍手が鳴り響く。

 まるで英雄の凱旋。

 だが、道を歩く本人の顔は晴れ晴れとしているとは言い難く、眉間には皺が寄っている。


 瞳に闇を宿したナヤギは、壇上の前、年配の男性の真正面で歩を止めた。


「君の勇気に感謝と敬意を。 さっそくだが、君の名前を教えて欲しい」


 うやうやしく頭を下げる年配の男性。



「――――1つ、質問してもいい?」


「え?」


 ナヤギから放たれた予想外の言葉に、年配の男は顔を上げた。


 ナヤギと目が合う。

 冷たい視線に射貫かれた男は、得体のしれない恐怖を感じて一歩後ずさる。


「えっと……まあ、いいだろう。 なんでも聞くといい」


「どうも。 じゃあ、遠慮なく……」


 その時、一瞬で周囲の温度が下がったように年配の男は感じた。



「人狼とお前たちがやろうとしていることの何が違うんだ? ただの人殺しだろう――――」



 ナヤギの発した言葉に男は目を丸くした。

 男の仲間や観客たちも驚き、彼に視線が集まる。


 少し間、男は呆けていたが、すぐに顔を引き締めた。


「違う! 人狼は悪で、我々が正義だ! 奴らは利己的に人を殺しているが、我々は人々を守るために、人狼どもに裁きを与えるという使命がある!」


 年配の男は声を荒げて、ナヤギに反論する。


「つまり人狼が人を殺しているから、こっちも人狼を殺してもいいってこと? 人狼も1人の人間なのに? 自分たちと同じように、この仮想世界に捕らわれているのに?」


 顔を赤くした男に対して、ナヤギは無表情。

 だが、その瞳には真っ黒な怒りの炎が灯っていた。


 ナヤギの追撃に、男は額に汗を浮かべる。


「そっ、そうだ! 人狼(奴ら)は人の痛みや苦しみを考えていないに決まっている! だから、我々が教えてやらなくてはならないのだ!」


 狼狽えながらも男は、何とか自分たちの正当性を主張する。



「――――じゃあ、お前は人狼の気持ちを、苦しみを、考えたことがあるの? 人狼にも何か事情があるかもしれないとは考えた?」



「そっ、それは……」


 年配の男は目を伏せ、言葉が止まった。

 異様な空間。

 誰一人として声を発さない。息が詰まるような重い空気がその場を支配する。


 その空気を破ったのはナヤギだった。


「そこが少し気になったんで。 演説の邪魔をしてすみませんでした」


 そう言い放つと、彼は男に背を向けた。

 自然と彼の前の人込みが割れる。そこを通ってナヤギはその場を離れていった。





 数時間後、ナヤギは都市を出てエキシポに向かっていた。


「……はあ~、やっちまったな……」


 途中にある廃村の中を歩きながら、ため息をつく。


 先ほどの自分の行動を後悔していた。

 目立つ行動は避けているのに、余計なこと言って注目の的になってしまった。


 あの演説も勧誘のためのものであるし、適当に観衆の心を動かせそうなことを話していただけなのだろう。だから、本来なら人狼たちの悪口を言われたところで、スルーするべきだ。

 なのに、つい感情的になり自分を抑えきれなかった。


 心がないから、人の苦しみや悲しみを理解していないから、人殺しができる――――そんなわけないだろう。

 そんなことは誰よりも知っている。

 死にたくない、その思いが強かったから人を殺すしかなかった。

 殺した人たちも、自分と同じことを思ったに決まっている。それでも、生きるため他人の命を奪わなくてはならない。それが、どれだけつらいことか。

 顔も知らない大勢から命を狙われ、仲間だと思っていた人達からは裏切られた。

 常人の何倍も何十倍も苦しみや悲しみを味わった。


 だからこそ、あの年配の男性の言葉に怒りが噴き出し冷静さを失った。


「まあ、過ぎたことを言っても仕方ないか……それよりも――――」


 やってしまったことを後悔してもどうにもならない。

 今はやるべきことがある。



「――――そろそろ出て来いよ。 隠れているのは分かってる」



 今の問題を解決する方が先決だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ