第一章 23話 「ボス討伐」
トラがボス討伐の提案をしてから数日後、ナヤギたちは荒野にある薄暗いダンジョンの内部にいた。
荒野の真ん中にぽっかりと空いた竪穴に作られたダンジョン。
内部はアリの巣のように複雑に入り組んでおり、4層構造になっている。下層に行くほど強いモンスターが徘徊している。
現在、ナヤギが居るのはダンジョンの最深部。
目の前には、巨大な赤鉄の扉がそびえ立つ。ごつごつとした自然の土壁に埋め込まれた人工物であり、違和感がすごい。
扉の前には50人弱のプレイヤー。
プレイヤーたちの目的は1つ。
この扉の向こうにいるボスを討伐すること。そう、扉の正体は“第三ボス“のボス部屋の入口。
中ボスをはじめとしたボスたちは、倒された72時間後に再び出現する。
もうすぐで、前回の討伐から72時間が経過する。
今回集まったのは「虚空の季節」を含めた6ギルド、総勢47名。
規模が10名前後の中小ギルドばかりである。
ボス部屋に入れる人数は決まっており、中ボスでは50人、エリアボスは100人、その他のボスはイベントごとに違う。
なので、今回は入室できる限界にほぼ近い。
出現まであと少し、一部のプレイヤーたちに緊張が走る。
一部というのは、ボス戦の経験が少ない者たち。ナヤギもボス戦は初めてだ。例にもれず顔が強張っている。
「虚空の季節」のメンバーも初のボス戦で緊張しているようだ。トラやミフユの口数がいつもより少ない。
対称的に、何度もボス戦に参加しているプレイヤーたちは余裕そうな表情。
赤鉄の扉の前に戦斧を背負った大男がでる。
チョビ髭をはやした厳つい顔に、強固そうな銀の鎧をまとっている。
今回、リーダーを務めるギルド「墓標連合」のギルドマスター。第三ボスを何度も倒している。
リーダーがプレイヤーの側に振り向く。
「時間だ! 今から突入する!!」
空間を震わせるほどの馬鹿でかい声。
その声に多くのプレイヤーの顔が引き締まる。
「各自、作戦通りに動け! 初回以外死者は出ていないが、油断だけはするな!!」
第三ボス戦において最初の攻略以外死者は出てないが、だからと言って油断すれば死に繋がる可能性もある。
赤鉄の扉がゆっくりと両側に開く。
「行くぞ!!」
その声を皮切りに、プレイヤーたちは各々の武器を手にボス部屋になだれ込む。
とても地下とは思えないほど広い空間。
固い岩盤がドーム状に広がっており、高さは100ⅿほど。
その中央に鎮座しているのはとぐろを巻いた巨大なムカデのような形の生き物。
第三ボス「No.3 百殺蟲」。
全長40m以上、大樹の幹の様に太い体に、無数の細い足が生えている。
表皮を黒く固い甲殻に覆われ、蕾のような顔に大きな単眼。
「めちゃくちゃキモイんですけど~!」
ナヤギの隣にいるミフユが悲鳴を上げる。
キモい、ナヤギたちも同じ感想を持った。
ミフユの悲鳴のせいかどうか分からないが、ボスはプレイヤーたちに気づいた。
口を花のように大きく開くと、内側には鋭く尖った無数の歯。
一部のプレイヤーから悲鳴が上がる。
「キシャアアアアア!!」
ボスが奇声を上げながら、こちらに真っすぐ突進してくる。
無数の足からカサカサという音。まるで大量のゴキブリがいるよう。
「来たぞ!」
多くのプレイヤーが両側に散る。
ナヤギもボスの横に回り込むようにして距離を取る。
リーダーを含めた数人が、その場に残る。
大きく口を開けたボスがリーダーたちに突っ込む。
リーダーたちは、己の武器や盾で攻撃を防ぐ。
大きな衝撃音が辺りに響き渡る。
リーダーたちは引きずられたが何とか持ちこたえ、ボスの突進の勢いを消し去った。
「今だ! やれ!!」
リーダーの指示に従い、散っていたプレイヤーの数人がボスの頭上に跳ぶ。
各ギルドの精鋭たち、その中にはナヤギもいた。
彼らの狙いは、ボス弱点である大きな目。
ボスもその狙いに気づいたらしく、体をひねって避けようとする。
だが、他のプレイヤーたちがボスの体を押さえつけ逃さない。
「――――炎属性付与――――」
ナヤギの持つヴァイオレットソードに炎が纏う。
そのまま精鋭たちとともに、大きな目に剣をぶっ刺す。
「ギャシャアアアアアアアア!!」
黒板でも引っ掻いたような甲高い悲鳴。
剣、槍、ハンマーなど様々な武器の攻撃を受け、ボスの目は完全につぶれた。
よほどの激痛なのだろう。
ボスは体を大きくよじらせ、地面をのたうち回る。
ここまでは作戦通り。
視界は奪った。後は総攻撃を仕掛けるだけだ。
「よし! 総攻撃!!」
プレイヤーたちが一斉にボスに攻撃を始める。
ナヤギたちアタッカーは直接ボスに攻撃。
ミフユを含めたヒーラーは、アタッカーに攻撃バフをかけたり、ボスにデバフや状態異常魔法を使用してサポートに徹している。
ボスのHPはみるみる減っていく。
あと1分ほどすれば、削り切ることができるだろう。
ボスもなんとかプレイヤーに攻撃を当てようともがく。
百殺蟲の攻撃方法は大きく分けて2つ。
噛みつきか、尻尾による叩き落とし。他にも締め付けや体当たりなどもあるが、ほとんどしてこない。
視界を奪われた今、狙いを定めることは出来ずにただの悪あがき。
たとえ攻撃が当たったとしてもヒーラーがすぐ回復を行うため、ボスが一矢報いる方法はもうないだろう。
「ギャ!? ギャギャ!」
突如、ボスの動きが止まる。
ボスのHPバーの横に麻痺状態のマークが現れていた。
「やった!」
「よくやった、ミフユ! お前は最高の彼女だ!」
喜ぶミフユと、彼女を褒めるトラ。
どうやら、彼女がかけた麻痺の状態異常魔法が利いたようだ。
「チャンスだ! 一気に畳みかけろ!!」
ほとんどのプレイヤーが必殺技を使い、ボスに攻撃を加える。
HPの減りが早くなり、やがてHPが底をついた。
「キシャアアアアァァァァ……――――」
か細い悲鳴とともにボスは光の粒になりはじけ飛んだ。
それとともにプレイヤーたちから歓声が上がる。
ナヤギも思い切り叫び喜んだ。
「やったすね、先輩!」
トラがナヤギに近づいてくる。
満面の笑み。初のボス討伐に成功したのだ。嬉しくないわけがない。
ミユキ、ナツキ、アキヒコもナヤギの元へと集まって来る。
皆、喜びと達成感に満ち溢れた顔。
「皆、お疲れ様。 とくにミフユはナイスだった」
ナヤギが仲間を労う。
「ナヤギほどじゃないって。 やっぱナヤギ、凄すぎ~!」
「流石ナヤギさん!」
「そうすっよ先輩、大活躍でしたね!」
「かっこよかったです……」
皆から褒められたナヤギは少し照れくさそう。
いつもよりも和やかな雰囲気。
「そうだ! 先輩、“ボーナス”はどうっすか? お前らも一応確認しておけよ」
思い出したようにトラがボーナスの話をする。
ボーナスとは、ボス討伐した後などにもらえる特別報酬。
確定でアイテムを入手することができ、レアアイテムがドロップする確率が高い。
ボス戦では3つのボーナスがある。
1つ目が、「最大ダメージボーナス」
最もボスにダメージを与えたプレイヤーがもらえるボーナス。
2つ目が、「ラストアタックボーナス」
ボスにとどめを刺したプレイヤーに与えられるボーナス。
そして3つ目が、「ラッキーボーナス」
これはボス戦に参加したプレイヤーからランダムに与えられるボーナス。基本的に1人しかもらえないが、稀に2人以上もらえることもある。
3つのボーナスは重複する。
つまり、一人でボスを倒すことができれば全てのボーナスが与えられるわけだ。
ナヤギがメニュー画面を開くと、そこには「『ボーナス』が届いています」の文字。
その文字に触れると、プレゼントボックスが開く演出とともに「『No.3 百殺蟲』の最大ダメージボーナスです。 おめでとうございます」と言う無機質な声が頭の中に響いた。
「俺、最大ダメージボーナスもらえた」
ナヤギがそう言うと、トラたちが瞬時にこちらを向く。
「マジっすか先輩!? どんだけ頑張ったんすか!」
目を見開き驚愕を露わにしている。
それはそうだろう。
ナヤギのレベル「23」よりも高いプレイヤーがいるにも関わらず、ナヤギが最大ダメージボーナスをもらったのだ。驚いても仕方がない。
だが、それは偽のステータス上での話。
本来のレベル「34」ならば、ここにいるプレイヤーの中で1番2番の高さ。
しかも、魔法付与した強力な武器で弱点を突き刺したのだ。
最大ダメージボーナスをもらってもおかしくない。
「あれだろ、たまたま弱点へのダメージが大きかったんだろ」
一応、ごまかしておく。
「もしかして、俺らに隠している技とかあるんじゃないすか~?」
「そ、そんなわけないだろ!」
トラが冗談交じりでニヤニヤとナヤギの顔を覗き込んでくる。
それに対して、ナヤギは内心焦っていた。
たまにトラは冗談だが確信をついてくるときがある。
ナヤギはどう言い訳しようかと、頭をフル回転していたその時。
「やっぱりナヤギさんは俺らとは違いますね」
「いや、全然そんなことないって。 ナツキはどうだった?」
ちょうどよくナツキが、ナヤギを称賛してくれた。
ナヤギはナツキに話を振ることでそれ以上の追及から逃れようとする。
「もらえた? 俺はなかったわ」
なんとか逃れることができた。
トラもボーナスがもらえたかどうかの方が気になるようだ。
「いや、もらえてなかったよ」
「私もなかった~。 ナヤギ、ちょうだい~」
ナツキもミフユもなかったようだ。
まあ、47人も参加したのだ。5人しかいないギルドがもらえること自体が珍しいだろう。
「アイテム次第では上げるわ」
「マジで! ナヤギありがとう~!大好き!」
「まあ、1つもらえただけで十分だろ」――――った……」
トラの声にかぶさる感じでメンバーの耳に小さな声が聞こえた。
その声の主はアキヒコ。
メンバー全員がアキヒコの方を向く。
アキヒコも震えながらこちらを見る。
「――――あった。……ラストアタックボーナスがもらえた」
「「「「マジ……?」」」」
驚いた4人の声が重なった。




