第一章 22話 「メンバー」
昼間はフィールドに出てレベル上げ、夜は1日の打ち上げを兼ねて酒場で飲む。
ギルド『虚空の季節』に入ってから、これが最近のナヤギの日常になっていた。
「今日も一日お疲れ! 乾杯!」
トラの音頭を合図に、ギルドメンバーたちは木製のジョッキを掲げる。
ジョッキ同士がぶつかることで、中の黄色い液体が飛沫を上げた。
液体の正体は酒。
現実のビールを模した炭酸の酒である。
この世界で未成年が飲酒をすることは違法ではない。現実の飲酒と違い、体に悪影響を与えることが無いためだ。
だからと言って推奨はされていないが。
今、ナヤギたちがいるのは、小さめの体育館ほどの大きさの石造りの建物。
石でできた広めの長机が規則正しく並べられ、机の両側には木製の丸椅子が置かれている。
席の8割ほどが埋まっており、その1つに彼らが座っている。
最近ギルドでよく来る大衆酒場だ。
リーズナブルな価格の上、量が多い。そのため、シンエトリに滞在しているプレイヤーの多くが利用している。
今夜も、1日の労をねぎらって飲みに来たわけだ。
「先輩、今日もありがとうございます! 先輩のおかげで、またレベルが上がりましたよ!」
ニヤけた顔のトラが、ナヤギに感謝の言葉を述べる。
それに対して、まんざらでもなさそうな表情のナヤギ。
「ナヤギ強すぎ! ウチ惚れちゃいそ~。 今夜、私の部屋来ない?」
ピンク髪のギャルが、ナヤギに好意的な目を向ける。
初対面の時とは大違い。
ギャルのプレイヤー名は「ミフユ」。
ギルドの紅一点で、‘ヒーラー’をしている。
ナヤギも最初はあまり良い印象を持っていなかったが、明るい性格でギルドを盛り上げてくれることやサポートがしっかりしてくれることから、今では頼れる仲間だ。
「浮気かよ! こんなにカッコイイ彼氏がいるのに!」
ちなみにトラとは付き合っており、男女の関係でもある。
「え~、別にいいじゃん。 細かい男は嫌われるよ」
「良くねえし! 細かくもねえよ!」
「ねえ? ナヤギはいいよね?」
二人がナヤギの方を向く。
二人の表情は対照的。ミフユは笑顔で期待している目に対して、トラは殺気だった目をしている。返答を間違えれば、そのまま殴りかかってきそうだ。
困ったナヤギは、とりあえず愛想笑いを浮かべた。
「トラも、ミフユも、それぐらいにしとけよ。 ナヤギさんが困っているだろ」
ナヤギの向かいに座っている短い黒髪に狐目の男が二人に静止の声をかける。
ギルドのメンバーの1人で、プレイヤー名は「ナツキ」。
歳はトラと一緒で、ナヤギよりも身長が高い。180㎝台らしい。
武器は、片手斧と円盾。主に前衛で、モンスターの囮などをこなしてくれている。
「先輩、すんません……。 でも、ミフユに手を出したら許さないすから。 お前も分かったな」
「はいはい。 分かりました~」
ナツキの声に従い、二人はおとなしく椅子に座り食事に戻る。
「ありがとうな、ナツキ」
「いえ、ナヤギさんのためだったらなんてことはないです」
ナヤギからの感謝の言葉を受け、ナツキは僅かに嬉しそうな顔をする。
ナヤギの強さに憧れ、ギルドで一番慕っているのは彼だ。
ナヤギとは良く行動をともにしている。
「なんかしらけちまったな……おい! アキヒコ!!」
トラが、ナヤギたちから少し離れた場所に座っている眼鏡をかけた少年を呼ぶ。
眼鏡の少年は急に呼ばれたことに驚き、体をビクッと震わせた。
最後のギルドメンバーである「アキヒコ」だ。
短くも長くもない灰色の髪に、黒縁の眼鏡をかけており、背も小さく手足も細い。内気な性格で、トラによくパシられたりしている。トラとは、中学校の同級生らしい。
武器は長槍だがあまり使うことがなく、遠距離から煙玉を投げたりして敵の目つぶしをしたり、状況に応じて他のメンバーの援護などを担当している。だが、正直なところあまり役に立っておらず、悪く言えば足手まとい。
「……えっと、何かな……?」
おどおどしながらアキヒコは、要件を聞き返す。
「面白い一発ギャグやれ」
トラの無茶ぶりに、アキヒコはさらにうろたえた様子を見せる。
「そんな急に言われても……」
「いいからやれよ。 普段、全然役に立ってねえんだから。 こういう時のためのお前だろ」
高圧的な態度のトラ。
それに対して、アキヒコは縮こまる。
フユミはニヤニヤと愉快そうな顔で二人のやり取りを見ており、ナツキは我関せずと食事を続けている。
「さっさと――――「トラ、あまりアキヒコをいじめるなよ」
トラの言葉を遮り、助け舟を出したのはナヤギ。
トラはこちらに振り向く。
「いじめてないっすよ。 仲間として助け合うのは当然ですよね。 今の空気をアキヒコに変えてもらおうとお願いしているだけですよ」
邪魔をするな。
トラは笑顔を浮かべてはいるが、目はそう訴えている。
「そうか。 じゃあ、俺も仲間としてお願いしようかな。 空気を変えなくてもいい」
ナヤギも一歩も引かない。
二人の視線が交差する。ほんの数舜、場が冷たくなる。
先に重い空気を破ったのはトラ。
「ふー、仕方ないっすね。 先輩のお願いを無下にするわけにはいかないですから。 でも先輩、あまり俺の楽しみを邪魔しないでくださいよ」
「まあ、考えてはおく」
残念そうに肩を落としたトラは、ジョッキを掴んで酒を飲む。
「すみません、また……」
うつむくアキヒコは、申し訳なさそう。
アキヒコの根暗な性格と役立たなさからギルド内での彼の立場は低い。
他のメンバーから、冷ややかな対応をされることも多く、そのたびにナヤギに助けられている。
ナヤギもたまにいら立ちを覚えることもあるが、仲間としてより良い関係を築いていく必要があると考え彼を守っている。
「いいよ。 けど、戦闘では役に立てるように頑張ってくれな」
そう言い、ナヤギも食事に戻った。
「先輩、先輩」
「なに?」
しばらく無言で食事をしていたが、トラが話しかけてきた。
「実は、武器買い換えようと思ってるんすよ。 何かいいやつ知ってませんか?」
「ん~、ぱっとは思いつかないわ。 普段、武器をあまり見ないからな」
買い換える武器の相談。
そろそろ金が溜まったのだろう。
「そうか、先輩はその剣があれば買い換える必要ないですもんね。 先輩の腕もなかなかですけど、やっぱりその剣強すぎっすよ!」
トラは、ナヤギの腰の剣を指さす。
「そうだろ! だいぶレアな武器だからな」
トラたちに見せつけるようにナヤギは腰の剣をゆっくりと引き抜く。
白い刀身がキラリと光った。
『ヴァイオレットソード・珠玉』
3か月前に倒した亜水晶のヴァイオレットタイガーからドロップした素材で作成した武器。
日本刀の様に弧状に反ってはいるが両刃の白い刀身と赤い柄、そして柄頭に埋め込まれた真っ赤な水晶玉が特徴の剣である。
武器自体の攻撃上昇率が高く、3つのスキルを有している。
1つ目のスキルが「火傷効果」。
攻撃した対象を一定の確率で火傷状態にするスキル。Lv.1でだいたい十回切れば火傷にさせることができる。
2つ目のスキルが「火傷追撃」
火傷状態の敵を攻撃した際に与えるダメージが増加するスキル。1つ目のスキルと相性がよく、Lv.1で与えるダメージが約1.2倍になる。
3つ目のスキルが「炎属性付与効果up・強」
炎属性を付与した際に、その効果、威力が大幅に上がるスキル。Lv.1で上昇率は約1.5倍だ。このスキルを使用するためにナヤギは、炎属性付与魔法を修得した。
ゲーム終盤でも問題なく使用できそうな性能だ。
「いいっすね。 俺にその武器くださいよ!」
「いやだね。 あげるわけないだろ」
こちらに手の平を差し出してくるトラ。
ナヤギは、後輩の要望を一瞬で切り捨てる。
「え~、先輩のケチ~」
不満そうにトラは口を尖らせる。
そんなトラを無視してナヤギは、鞘に剣を戻す。
この剣は、人においそれと渡せるものではない。
性能の面もあるが、ナヤギにとって特別な意味を持つ物であるからだ。
コロンとの思い出の品であるとともに、共に死線を乗り越えた証。それにただの彼の思いで
あるが、この剣を持っていれば彼女と再び会える気がする。
「まあ、武器のことはいいっすよ。 それより、もうすぐ先輩のレベルに追いつきそうですよ」
「ああ、そうだな。 それがどうした?」
ナヤギの今のレベルは「34」。
だが、偽のステータス上では10ほど低い「23」に設定してある。
目立つのを避けるため低くしており、人狼であること隠すためギルドメンバーにも本来のレベルを教えていない。
トラが言っているのは後者のレベルの話だ。トラたちも最近レベル「20」に到達した。
「だから、そろそろ行きませんか?」
「何に?」
ナヤギは適当に聞き返す。
「決まっているじゃないすか! “ボス討伐”にですよ!!」




