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第一章 24話 「打ち上げ」

 

「ボス討伐を祝して乾杯!!」

「「「乾杯!!」」」


 50人近いプレイヤーの声が酒場に響き渡る。


 いつもの大衆酒場。

 席の半分が、今日のボス戦に参加した者たちで埋まっている。

 ボス討伐成功の打ち上げだ。



 今回のボス戦は、死者も出ることなくスムーズに終わった。

 ナヤギとアキヒコがボーナスをもらい、最後のラッキーボーナスは「墓標連合」(ユニオン・マーカー)のメンバーに与えられたようである。

 ちなみに、ボーナスの中身はナヤギもアキヒコも第3ボスからのみドロップするレアアイテムだった。


 『堅牢(けんろう)の指輪』

 第3ボス「百殺蟲(ムサデ)」からドロップするレアアイテム。

 防御力を飛躍的に向上させるアクセサリーであり、稀に受けるダメージを「1」にするスキル『強運』がついている。

 墓標連合をはじめとする多くのギルドが第3ボスの討伐を周回しているのは、このアイテムの入手が目当てというわけだ。


 

「いや~、まさか初回のボス戦で2つも指輪が落ちるとは思わなかったすね!」


 嬉しそうに話すトラの顔は、すでに真っ赤。

 よほど気分がいいのだろう。次から次へとジョッキを空にしている。


「最ダメ取って来るなんて、流石っすね先輩! でも、それよりもラストアタックがアキヒコの方が驚きましたけどね。 よくやった、アキヒコ!」

「ホントホント~、見直した~!」


 トラに同調するミフユの頬はほんのりと赤い。

 ミフユもいつもより酒が進んでいるようだ。

「そんな、たまたまだよ……」

「いや、アキヒコが頑張った結果だ。 これからもこの調子で頑張ってくれよ!」

「ナヤギさんの言う通り、それがお前の真の実力ってことだ」


 メンバー全員から褒められたアキヒコは照れくさそう。

 普段の扱いと逆になり、少し困惑してはいるがまんざらでもなさそうである。


 いつもと違う雰囲気。

 ようやくギルド内の壁が取り除かれたということなのだろう。


「この調子で、全員分の指輪ゲットっすね!」

「あと3つか。 結構時間かかるかもな」

「先輩が居れば、すぐっすよ! これで‘攻略組入り’に一歩近づきますね」


 ――――ん?

 ナヤギのジョッキを持つ手が止まる。

「攻略組入り」という聞きなれない単語が耳に入ってきた。


「……えっと、トラ。 お前、攻略組に入りたいの?」

「あれ、言わなかったすか? トップギルドになるって」


 ギルドに入る前に、確か「いつかトップギルドになる」とは言ってた気がする。


「確かに聞いたような気がするが、攻略組に入るとは聞いてないぞ」

「何言ってるんすか! トップギルドになるってことは攻略組になるってことに決まっているじゃないすか! いつか‘SOG’や赤ずきんに並ぶギルドになってやりますよ!」


 ギルド『剣聖(ソード オブ)の集い』( ギャザリング)

 通称「SOG」、赤ずきんに並ぶトップギルドである。

 300を超えるプレイヤーが属しており、この世界で最大規模のギルド。

 最近のボス攻略は、主にSOGと赤ずきんにより行われている。


「まあ、なれるといいな」


 酒を飲みながらナヤギは他人事のように話す。


 攻略組入りというのは、ナヤギにとってあまり好ましくない。

 なぜなら、攻略組というだけで目立つからだ。

 今回のボス戦でも割と目立ってしまった。人狼である自分が目立つことは避けなければならない。


「なれるといいな、じゃないすよ!! なるんすよ!」

「おっ、おう……、そうだな、頑張るか」


 トラの迫力に、ナヤギはたじろぐ。


 まあ、なった時に考えればいいか……――――

 どうせ攻略組になるとしてもだいぶ先の話だ。

 どうするかはその時に考えればいい。


 トラをあしらいつつナヤギは、酒と料理をたしなむことにした。





「それで、もうすぐせんぴゃいが入って1か月じゃない、ヒック、すか! そろそろ新しいメンバー入れません!?」


 打ち上げが始まって3時間ほどが経ち、トラは完全に出来上がっていた。

 ミフユ、ナツキは他のギルドの人たちと話に行ったきり戻ってこないし、アキヒコは先に宿に帰ってしまった。


「もうその辺にしておけ。 こっちが大変だ……」


 3時間、ずっと一人でトラの話を聞いていたナヤギはうんざりしている。


「先輩!! そういう先輩はじぇんじぇん飲んでないじゃないすか!」

「別に飲んでないわけじゃないぞ。 お前が飲みすぎているだけだ。 それに今日はほどほどにしておきたいしな」


 実は、今日というか今夜0時にPKポイントが「1」になる。

 今夜中には、ポイントの補充をしておきたい。


 だから、酒をなるべく控えているのだ。


「は? なんでですか? せっかくボスに勝ったんすよ! 今日飲まなくていつ飲むんすか!?」 


 めんどくせぇ――――

 ナヤギは心底そう思った。

 あと2時間ほどで日付が変わる。そろそろ今夜のターゲットを探したいところ。



「よう、飲んでるかい?」


 誰かが声をかけてきた。


 声の主の方を振り返ると、そこにはチョビ髭の大男。

 年は30代半ばほどに見える。


「えっと……、墓標連合の『がしゃどくろ』さんでしたっけ?」

「そうだ、墓標連合でギルマスをしている」


 墓標連合のギルドマスター「がしゃどくろ」

 今回のボス討伐のリーダーをしてくれた人物だ。


「今回の功労者たちをねぎらおうと思ってな。 大活躍だったなお前らのギルド」

「いや、そんなことないですよ」

「ガハハ、そんな謙遜するな! ボーナス2つ持っていきやがって!」


 豪快に笑いながら、がしゃどくろはナヤギの肩をバンバンと叩いてくる。

 正直、かなり痛い。


「そうだゃろ、おっさん! 俺のギルドは最強になるからな!!」

「そりゃすごい! こっちも負けてられないな」


 トラとがしゃどくろが酒を酌み交わす。

 どうやら息があったようだ。


 ナヤギも、がしゃどくろに酒をついでもらった。


「お前らチームプレイが良くできているな。 特にお前、ナヤギだっけか。 お前強いな」

「たまたま、今回最ダメもらっただけですから」


 強い強いと繰り返し言われ、ナヤギはうっとうしさを感じていた。

 褒められるのが嬉しくないことは無いが、あまり持ち上げないで欲しい。

 少しでも目立つことは避けたいのに、これでは目立つ一方だ。


 心の中でナヤギは、ため息をつく



「そうだ! ナヤギ、お前うちのギルドに入らないか?」

「へっ!?」


 当然の勧誘にナヤギの口から変な声が漏れる。


「いや、うちのギルドは基本的に堅実な守りの戦法だから、強力なアタッカーが少なくてな。 お前が入ってくれたら、違う戦法も取りやすくなる。 どうだ?」

「おいおい、おっさん! 俺のギルドのエースを勝手に引き抜こうとすんなよ!」


 墓標連合はそこそこ有名なギルドだ。

 普通ならそのギルドマスターから勧誘されるのは名誉なことで、二つ返事で了承するだろう。


 だが、ナヤギの返事はその逆。

 人狼である自分が、知名度のあるギルドに入るのは持ってのほかだ。

 それに――――


「仲間を裏切るわけにはいきませんよ。 俺の居場所はここですから。 せっかくですけど、その誘いは遠慮しておきます」


 そう、「虚空の季節」(リリィ・シーズン)こそがナヤギの居場所だ。

 他のギルドに入ることなど考えられない。


「流石、先輩! 俺は信じてましたよ~!」


 嬉し涙を流すトラ。


「ガハハ、そうか残念! まあ、気が変わったら声をかけてくれ」


 そのまま、しばらく3人で談笑を楽しんだ。


 


 


 さらに3時間後、ナヤギは人気のない路地裏にいた。


 あの後、がしゃどくろが席を離れ、トラは机にうつ伏せ寝だしたのでそのまま彼を置いて店を出てきた。

 そのまま、他の店に入りターゲットを吟味。

 選んだターゲットが店を出たので、つけてきたわけである。


 窓のない土壁に囲まれた路地。

 薄暗く、視界もほとんど利かない。他に人がいる気配もなく絶好のチャンス。


 ターゲットである無精ひげを生やした細身の男の背後に一気に近づき、心臓を貫いた。


「――――がっ!!」


 短い悲鳴が漏れる。

 剣を引き抜くと、男は光の粒になった。


 ちなみに手にした剣はヴァイオレットソードでなく、普通のどこにでも売っている鉄の剣だ。

 正体がバレるのを避けるためでもあるが、それよりもコロンとの思い出の品を人殺しに使いたくないという思いが強い。


 今夜のやることは終わりだ。

 天に上る光の粒を見ながら、一息つこうとしたその時――――



「――――先輩、こんなところで何しているんすか?」



 背後からかけられた声。

 いつも聞いているその声が、死神の囁きにも感じた。


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