第一章 19話 「決着」
二人とも完全に油断していた。
弱点にナイフを刺したまま地面に倒れ伏し、HPもレッドゾーン。
もう立ち上がることなど出来ないだろうと高をくくっていた。
ヴァイオレットタイガーは最後の力を振り絞り立ち上がった。
「危ない!!」
「……えっ」
ナヤギが、コロンに向かって警告を発する。
だが、すでに遅い。
怒り狂ったヴァイオレットタイガーは、彼女へ飛び掛かった。
「ガルラアアアアアアアア!!!!!!!」
隙だらけの背中に鋭く尖った爪が振り下ろされる。
雄たけびを聞いて、やっと事態に気づいたコロンが後ろへと振りむく。
その時には、すでに凶刃が彼女の背中を斜め一閃に切り裂いていた。
「――――っ!」
短い悲鳴が上がり、彼女はそのまま地面へと倒れていく。
手に持っていた回復薬の瓶が空中を舞う。
倒れた彼女のすぐそばに落ち、割れて光の粒になった。
彼女のHPがみるみる減っていく。
「――――あああああああ!!」
たまらずナヤギは叫んだ。
止まれ!止まれ!止まってくれ――――!!
自分の何を犠牲にしてもいい。
どうか、どうか、彼女を助けてくれ。それだけを切に願った。
そんなナヤギを嘲笑うかのようにヴァイオレットタイガーは、喉を鳴らす。
彼女のHPがレッドゾーンに到達する。
「止まれええぇぇぇ!!」
ナヤギの願いが届いたのかは分からない。
コロンのHPは絶命寸前で止まった。
「良かった……」
安堵が口から零れ、その場で泣き崩れたい衝動に襲われる。
その安堵もつかの間。
彼女に向かってヴァイオレットタイガーがゆっくりと歩を進める。
彼女にとどめを刺す気だ。
「待て! 待ちやがれ! こっちにこい!」
阻止しようとナヤギは声を上げる。
自分の方に注意を向けようと色々と叫ぶが、ヴァイオレットタイガーは完全に無視。
口を大きく開き白い牙を見せつけてくる。
こいつを殺したら次はお前だ、とでも言わんばかり。
ナヤギは飛び掛かろうとするが、まだスタミナが戻っていない。
無様に地面へと倒れる。
「クソッ!!」
とうとうヴァイオレットタイガーはコロンの前に。
彼女は気を失っているようでピクリとも動かない。
「やめろ……! やめてくれ……!」
か細く残った命の糸を断ち切ろうと、ヴァイオレットタイガーは腕を大きく振りかぶる。
狙いは細い首。
「やめろおおぉぉぉぉ!!」
彼女の細い首が切り裂かれる寸前、ナヤギはヴァイオレットタイガーに何かを投げた。
その手にあったのは小ぶりのナイフ。さっき拾ったものだ。
当たるかどうかなんて分からない。
彼女に教えてもらってコツは掴んだが、その腕前は素人。
当たっても奴のHPを削り切れないかもしれない。
だが、彼女が殺されるのを黙って見ているわけにいくはずがなかった。
――――奇跡は起こった。
投擲されたナイフは、ヴァイオレットタイガーに向かってまっすぐに飛び、残った目に刺さった。
「ギャアアアアアアアア!!」
断末魔の叫び。
激痛でヴァイオレットタイガーは、体を逸らす。
奴の残ったHPが消し飛んだ。
ヴァイオレットタイガーはその叫びとともに光の粒となり天へと昇っていった。
「――――くっくう」
仇敵が消えていく様を見ながら、ナヤギは声にならない喜びを感じていた。
本当に危なかった。
二人のうち、どちらかもしくは二人とも死んでいてもおかしくなかった。
それでも、二人とも生き残った。
その喜びは何にも代えがたいものだ。
光の粒が完全に消えた後、すぐにナヤギはコロンに駆けよった。
「コロン!大丈夫!?」
倒れたままの彼女を抱き寄せる。
彼女の目がうっすらと開いた。
「……助けられちゃったね。 ありがとう」
コロンは優しく笑った。
その笑顔を見て、ナヤギの目から涙が溢れ出す。
彼女が無事でよかった。
大切な人を自分の手で守れたことが嬉しかった。
コロンを抱きしめたまま、ナヤギはしばらく泣いていた。
――○スキル≪ナイフ投げ Lv.1≫を修得しました――
――○スキル≪クリスタルブレイカー Lv.1≫を修得しました――




