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幕末最前戦の戦士たち  作者: コトハ
はじまりは夢の中で
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25/54

睦月と雪六

生理痛がひどいなんて久し振りだ。


いつもなら、痛み止を先に飲んでやり過ごすから。


「睦月?具合悪いのか?」


部活を休むと久美ちゃんに言って、門を出た所で、充が追いかけてきた。


「大丈夫だよ。あんた部活は?」


「行くけど………」


「バイバイ」


手を振って歩き出す。


いつもの登下校道を一人で歩く。


今日は、人も少なくて住宅街の路地も静かだ。


後ろから自転車の来る気配がして、端に避けるた。


バサリ、スカートが捲れて太ももに冷たい風が当たる。


「ち!変なもんはくなよ。見せてんだろ?」


自転車の男が追い越しながら、暴言を吐いた。


そのまま角を曲がって行った。


スカート捲られた?


下に短いスパッツはいてたから、下着は見られなかったけど。


足を止めて、学校の方へ戻る。


何で………何で………


足が上手く前に出ない。


早くここを離れなきゃ。


何で………こんな目に合うの………


前から、学校の生徒が二人歩いてきた。


その後ろから自転車の男子もやって来る。


安心して、また家の方角に回れ右した。


自転車の曲がった角を通り過ぎて、遠回りになるけれど、人通りの多い道を選んだ。


この事は誰にも言ってない。



「………福田さん?」


馬越さんが障子を開けて入って来た。


「………巡察もう終わったんですか?」


貧血で壁にもたれて座っていたら、いつの間にか爆睡してたらしい。


「何度も呼んだのですが、出てこないから………もう、日も暮れますよ」


どれだけ寝てたのか、外からオレンジの光が障子を照らしていた。


「上手くごまかせたと思ったのですが、困ったことになりました」


馬越さんは外に視線を移して


「福田の妹を見に行こうって、来てるのですがどうします?」


「………は?」


「原田さんがしゃべって、組の皆さんが見物に来てますよ」


あ………今目の前が暗くなった………






門の前で原田さんを筆頭に、永倉さん、藤堂さん、斎藤さん、それから……坊主頭の隊士さんに囲まれた。



「な!そっくりだろ?双子の妹のお雪だ」


原田さんは得意げに紹介してくれた。


取りあえずここは挨拶しとこう。


「兄がお世話になってます………」



藤堂さんが手を挙げて


「なってる!なってる!あいつ妹いるなんて、一言も言わなかったな~まぁ、あと二、三年すりゃましになりそうだなぁ」


「藤堂さんは、年上がすきですかい?」


つるつる頭の隊士が優しそうな笑顔で顎に手を当てた。


「松原さん、俺は十八以上しか興味ねえ。こいつまだ十六だろ?」



だから最初に会ったとき、姉ちゃんいるかって聞いてきたのか……



もう一人、黙ってこの状況を眺めている斎藤さんと目があった。


一緒に皆でご飯食べたことあったけど、話したことはない。



「斎藤!何か言うことないのか!」


永倉さんが楽しそうに声を掛けると


「近藤局長のご親戚だと聞いているが、何故、このような所にいる?兄共々、国に居られぬ訳でもあるのか?」


……何か取り調べ受けてるみたいで斎藤さん……怖い



「はい。この人、井上の許嫁なのです」


いきなり馬越さんがそっちに話を振った。


「本当か?!馬越!」


「はい。藤堂さん」


「近藤さん付きの井上か?あいつ女に興味ねぇって顔してが、こんな許嫁がいたのか」


「はい。永倉さん」


「井上君なら、育ちも良さそうだし、局長も安心だろう」


松原さんが頷いた。


「はい。そうみたいです」


馬越さんは淡々と答えていく。



「しかし、誠衛館に居たとき、こいつらの話なんか聞いたことなかったよな?福田からも、親戚だなんて聞いたことないぞ?いつ、江戸から出てきて、井上の許嫁になったよ?」


原田さんは茶色の目で訝しげにこっちを見ている。


「…………そ、それは……」


「………なーんて、脱藩した俺達に比べたら、お前の理由なんて、かわいいもんだろな」


原田さんは頭を掻いて


「先、帰るわ」


と門を出て行った。


「井上の許嫁とは驚いたけどな~」


「すみに置けませんな~井上君も」



皆後に続いて帰って行った。


「は~どきどきした。急に来るんだもん」


馬越さんは思案顔で


「やっぱりまずかったかなぁ………井上さんの許嫁って話し」


今更何を?!


「本当に井上さんにそういう人が出来たとき、厄介でしょう?局長のご親戚を破談にしたのかって」


ああ、なるほど!


「……でも、井上さんお嫁さんは貰えないって言ってました」


自分に何かあったらかわいそうだって


その話を馬越さんにすると


「どこまで真面目な井上さんですか……」


「うん。ちゃんと考えてるんだよね。凄いよね。お珠ちゃんと仲良くなれたらいいなぁなんて、只のお節介だった」


馬越さんはちらりと公事宿の方を見て


「それに、そんなきれい事ばかり言ってると、欲しいもの、一つも手に入らないのに…………死ぬときたくさん後悔しそうだな……」


ぽつり馬越さんは呟いた。


………………?


「意外と、意気地なしってことです」


「意気地なし?なんで?」


その質問には答えず


「では、お珠さんによろしく。怒った顔、可愛らしいですよね。福田さん、どさくさに紛れて手を出さないで下さいよ」


「何で私が…………」


反論しかけて、馬越さんは私が女装していると思ってることに気付いた。


「しませんよ!そんなこと!!」




かわいい笑顔で戻っていく馬越さんを見送って振り返ると


「………意気地なしで悪かったですね」


「わっ!!井上さん………いつからいたんですか?」


「馬越さんが来てからずっと見てました」


ずっと?!やっぱり忍者なのでは


「福田さんの事、男だと思っているのかな?」


「ばれてませんよ!お珠ちゃんに手を出すなって言ってたし!」


「………そうですか………うーん」


眉を寄せて黙る井上さんをの後ろから、お珠ちゃんがのれんをくぐって飛び出してきた。


こっちに気付くと、慌てて裏の屋敷に走っていってしまった。


あれ?今、目が赤くなかった?


「泣いてなかった?お珠ちゃん………」


「………また、あの人だ。お珠さんをからかう人がいるんですよね。ちょっと行ってきます」


井上さんは、公事宿へ入って行った。


私は、裏の屋敷に向かった。


お珠ちゃんはしゃがんでこっちに背を向けて、風呂の火を焚いていた。


からかう人?


「お珠ちゃん、どうかした?」


お珠ちゃんは振り返らずに


「どうもしてへん。お雪ちゃんは具合よくなった?」


「からかわれたの?」


お雪ちゃんは答えず、薪を焚口に放り込んだ。


隣に同じように座って顔を見ると、きっと口を結んだまま、涙が頬を伝っていた。


「お珠ちゃん!?何かあったの」


「…………お雪ちゃん、井上様は?」


「え?ああ、お珠ちゃんをからかう人がいるとかって、公事宿に入って行ったけど…………」


ひっくとお珠ちゃんの目が見開いて、頬が赤くなった。


「大丈夫?何かされたの?」


お珠ちゃんは袖で涙をぬぐって


「井上様…………大変やわ!」


急に立ち上がって、お珠ちゃんは顔の前で手を合わせた。


「お雪ちゃん堪忍な!うち、井上様のこと勝手に持ち出してしまってん……あんまりしつこいから、あの人が好きや言うてしもうて…………」


「…………へ?」


何のことだかよく分からないけれど


「でも、お珠ちゃん井上さんの事好きでしょう?」


お珠ちゃんは目玉が飛び出しそうなほど目を見開いて、


「そんなことない!うちは人様のもの欲しがったりしまへん!」


「そうなの?私は二人がお似合いだと思ったんだけど………」


いきなり左の頬を叩かれて痛みが走った。


「…………お雪ちゃん、井上様の気持ち知ってて言うてんの?」


「お珠ちゃん…………何すんの?!」


「お雪ちゃんひどいお人やわ!」


「何で、いきなり叩くの!!」


訳が分からず、お返しにお珠ちゃんの頬をひっぱたく。


「痛っ!井上様がおるのに、さっきも馬越様お部屋に入れたやろ?!井上様ため息ついて見てはったで!この浮気者!」


お珠ちゃんの平手打ちを交わして手首をつかむ。


「はぁ?!馬越さんは友達です!そういうお珠ちゃんこそ!井上さん見てたんでしょう?好きなんでしょう?」


以外にお珠ちゃんの力が強くて、逆に手首を反られて痛い。


「お雪ちゃんは井上様好きとちゃうん?許嫁なのに!!」


「好きなわけないじゃん!痛い手首が折れるって!」


そこへ、井上さんが


「喧嘩ですか?」


と現れた。


きょとんとした井上さんの顔を見ていたら、いっそう腹が立ってきた。


「もう私、井上さんの許嫁やめます!」


お珠ちゃんの手を振りほどく。


「え?」


ほっぺた叩かれて、じんじんするし。


「お珠ちゃんの彼氏の役でもやってあげて下さい!お珠ちゃん困ってるんでしょう?で、宿の仕事何を手伝ったらいいですか?」


質問に答えず、途惑う二人を残して、公事宿に向かった。






今が何時なのか全然分からないけれど、宿の厨に入ったら、板前さんが二人で夕食の準備にとりかかっていたから六時位だと思う。


「手伝うことありませんか?」


三十歳くらいの板前さんが、メモを渡した。


「これ作事小屋まで、荷物取りに行ってくれるか?一人じゃ心許ないやろからお珠ちゃんと二人で」


「作事小屋?………お珠ちゃん忙しそうなので私行ってきます。場所はどこですか?」


「大宮上がって、二条城の堀の前の道を右に行って、二つ通りを過ぎた所や」


大宮上がる?って何?!


もう一人の白髪交じりの板前さんが


「なんやったら、井上様と行ってきいや。もうすぐ日も暮れる。何かと物騒やからな………」


「一人で大丈夫です!地図書いてもらえますか?」





いらいらが治まらない。


地図を片手に風呂敷包みを胸に抱いて二条城の方へ歩く。


堀の前のT字路まで来ると、右から籠がお供を三人連れてやって来た。ひな人形の飾りにあるみたいな立派な籠。


後ろから歩いてきた女の人が、慌てて道の端に隠れるようによって顔をそむけた。


あ!じろじろ見ちゃいけないのかな?


ひれ伏してははーってやんないといけないとか?


とにかくいるのに気付かれない様に、ちょっと戻って近くの軒下にぴったりくっついてやり過ごした。


籠が行ったのを確認して、堀の前の道に出る。


左に籠が遠ざかって行く。


ふいに風が吹いて、籠から紙が数枚舞った。


そのうちの二枚が、足元まで飛んできた。


慌てて拾うと、籠のお供が受け取りに来た。


「娘。あちらへ」


紙を受け取らずに、不愛想に言って籠の方に歩いて行く。


籠の前までついていくと、お供が地面に膝をついた。


籠のロールカーテン?が上がって、中からひな人形のお内裏様が覗いた。


「娘!無礼であろう」


お供に叱られて、ああ!ひれ伏せってことかと気付いた。


「よい。良き日和じゃ。少し歩くとしよう」


全身お内裏様が籠から降りてきた。


すごい!こういうの平安時代の人だよね?


神社の神主さんみたい!


「珍しいか?公家が」


「はい!お内裏様みたいです」


「そうかそうか………」


お供がいらっとした口調で


「娘、早うお渡しいたせ」


「あ!どうぞ……」


拾った紙を手渡す。


お内裏様は、紙と一緒に手を握って


「この辺りの町娘ではなかろう。旅の者か?武家の娘か?」


「公事宿で働いてます………あ!私、お使いの途中でした。じゃあ、失礼します!」


「それはそれは。公事宿の娘か。我らはそこの神泉苑に……」


「宮様!先を急ぎますゆえ。籠にお戻りを!」


お供に促されて、お内裏様はしぶしぶ籠に戻った。


作事小屋の方に歩いて行くと、後ろからお供が追いかけてきた。


「これをぬしにと。この事は決して口外致すな。娘とみると誰彼かまわず声を掛けられる」


手のひらサイズのちりめんの生地で作られたうさぎのぬいぐるみだった。


「かわいい………いい香りがする。ありがとうございます!」


お供は何も言わずに籠へ戻って行った。




作事小屋はすぐにみつかった。


お役人というよりは、時代劇で見る職人さんのような人が出てきた。


「公事宿の昌吉やろ?何や今度は?」


風呂敷を持って、奥に引っ込んで代わりに大きなまな板を持ってきた。


「これ持って帰ってくれるか?そうや、お志乃は良くなったか?」


「…………お志乃?怪我した方ですか?薩摩藩に浪士に襲われたって……」


「かわいそうにな。最近は減ってきたんやけど、幕府に味方する者は容赦なく襲うっちゅう、頭のおかしい輩がおってな…………薩摩藩も迷惑してんとちゃうか?」


「その人捕まっても放免になったって聞きました」


「…………会津も幕府も薩摩とごたごたしたくはないからな。宮中も攘夷派だらけで将軍様も御苦労させてるしな………」


まな板を、さっき持ってきた風呂敷に包む。


「宮中って天皇のいる所ですか?」


「そうや。天子様や。将軍様が攘夷祈願に上洛されてるやろ?近々行幸も決まる。うちは大忙しや」


攘夷祈願?行幸?


分からないことがたくさんだ………


「で、あんたは新しい人か?」


「はい。お志乃さんのかわりで三日だけお世話になってます」




すっかり暗くなった帰り道を、まな板を抱えて堀を覗きながら歩いた。


分からないことがたくさん。


でも、よく考えたら現実でも、政治が何やってるかなんて全然知らない。


総理大臣の名前はかろうじてフルネームで言えるけれど、ニュースだってあんまり見ない。


ましてや幕末の事なんて…………


「井上さんに聞いてみよう……」


あ!井上さんに許嫁やめるって言っちゃったんだった。


…………局長命令なのに困ってるよね?


只でさえ迷惑かけてるのに、私は困らせてどうするんだ。


井上さんだって好きで許嫁してるわけじゃないのに。


「謝ろう…………とにかく謝ろう……」


それだけじゃない。


お珠ちゃんと喧嘩したんだった!


いや、喧嘩というか、私が許嫁のくせに、二人がお似合いとか言ったから怒られたんだよ………


「私が全部悪いんじゃないか、これって……」


…………帰りたくない


重い脚を引きずって、大宮通へ曲がった。


うつむいてのろのろ歩いていると、視界に草履が見えた。


左に避けると、相手も左へ動く。


顔をあげると、笠を被った羽織袴の侍が立っていた。


「先ほどの籠の公家とは親しい中か?」


びっくりして、一歩下がる。


「籠の?……お内裏様の事?」


「…………お内裏様?……ああ、そうだ」


「紙を落とされたので拾ってあげただけです」


傘の下の顔は良く見えないけれど、こっちをうかがっている様子は分かる。


答えて、お内裏様のお供から他言無用と言われていたことを思い出した。


「何か話をしたか?」


暗くなった通りの向こうに人が見えるけれど、ここからは二十メートルは離れていた。


「何も……」


何だか怖い。


大声を出したら誰か気付いてくれるよね?


「…………伽羅の香りがするが…………」


「きゃら?」


もしかしてうさぎのぬいぐるみの香りかな?


でも、他言無用って言われてるから


「私、急いでますので!」


侍が何か言ったような気がしたけど、公事宿まで全速力で駆けて行った。




預かったまな板を板前さんに渡していると、お珠ちゃんと鉢合わせた。


「お雪ちゃん、それ二階の手前のお部屋に頼みます」


徳利を三本頼まれた。


「は……はい!」


喧嘩なんてなかったみたいに、お珠ちゃんはてきぱき働いて、私は指示通りに動いた。


そして、昨日と同じ部屋に布団をひいて二人で横になる。


「明日は暇やから、朝の支度が済んだら、井上様と出てきてええよ。うちも、昼間暇もらったから」


ずっと言おうと思ってたことを口にした。


「さっきはごめんね。私が悪かった」


お珠ちゃんは黙ったままだ。


「怒られて当然だった……ごめん」


「…………それ、うちやなくて井上様に言わなあかんやろ?許嫁辞めるとか、嫌いやとか、傷付きはりましたえ……」


お珠ちゃんは寝返りうって向こうを向いた。


「…………傷付く事はないと思うけど、困ってたでしょう?井上さんと私は全然恋愛感情なんてないから……これは本当だよ。局長の命令で、許嫁になっただけだから、井上さんは頑張ってくれてたのに……」


お珠ちゃんは何も言わなかった。


そのまま私も眠ってしまった。






































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