第9話 『【魔犬《ヘルハウンド》】』
夜。とある廃屋に一人の男がいた。
「クックックッ、この俺の能力があればどんな奴が相手だろうがブチ殺せるぜ」
床に一本だけ置いたロウソクに照らされながら、男が笑う。ニタリニタリと、下級の悪魔のように。
「狙うのはソロかコンビで弱っちそうな奴だ」
ロウソクの灯が揺れる暗闇の部屋で、男は計画を練っていく。
「街の近くにある遺跡、あそこには冒険者の死体がスケルトンとして復活し、そいつらが持っているアイテムを狙ってくるセコい冒険者が少なからずいる。そいつをブッ殺して、金目の物を奪う。我ながらサイッコーな作戦だぜ。ガッハッハッハッ!」
男の高笑いが暗闇の廃屋に響き渡っていく。
「俺様のスキル、【魔犬】は無敵だぜ!」
○
翌日、シュンとネカは以前訪れた遺跡にまたやってきていた。
「今日もスケルトンのドロップ品狙いですか?」
「それは今日はおまけかな?」
「おまけ?」
「今日は遺跡のなかを回ってみようかなと。もしかしたらまだ未発見のなにかがあるかもしれないし。そのおまけで、なにか落ちてたりスケルトンがいたらアイテムを拾おうかなーって」
「なるほど。了解です」
ネカが素直に返事をする。そして早速前方を指差した。
「あ、あれ、あそこになにかありますよ?」
「お、なんだなんだ?」
二人が小走りでそこまで向かうが、それは平べったい石のようなものだった。
ネカが残念そうな声をこぼす。
「なんだぁ、ただの石かぁ……」
「どっちかっていうと大理石のタイルっぽいけどな。めちゃくちゃ破損してるし汚れてるけど。もしかしたらこの区画は昔、金持ちの家だったのかもしれないな」
「それなら他にもなにかあるかもですか?」
「あるいはただの風呂のタイルかもしれんけどな?」
「そんなぁ……」
がっくりとネカがうなだれて、シュンが苦笑した。
……がっかりしてるところも可愛いなぁ……。シュンがそう思っていると、少し離れた瓦礫のところで、なにかが動く気配がした。
「……っ⁉」
さっ!とシュンが身構える。
「シュンさん、どうしました?」
「あそこでなにかが動いた。気を付けろ」
「……っ⁉」
ネカもそちらを見やる。急いで杖を取り出して、いつでもすぐに魔法を使えるように身構える。
スケルトンなどの魔物が出現したのかと二人が注視していると……その瓦礫の陰から一匹の黒い犬が飛び出してきた。
「わんちゃん?」
「いや違う! あれは犬型の魔物、ヘルハウンドだ!」
シュンがネカの肩に手を触れる。
「撃て!」
「は、はいっ!」
ネカが魔法を撃とうとしたとき……今度は二人の横合いから、突如として複数の魔犬が飛びかかってきた。
「「っ⁉」」
シュンが叫ぶ。
「ネカ!」
「はいっ!」
ネカが横側のヘルハウンド達に魔法の光を放ち、消し飛ばしていく。
しかしそうしている間に、前からのヘルハウンドが迫ってきていた。
「ネカ! こっちもだ!」
「はい!」
前方のヘルハウンドも消し飛ばす。すると、その魔物が現れた瓦礫の陰から一人の男が姿を見せた。
「何だあテメーら? 俺様の可愛いヘルハウンドを消しやがって!」
「テメーが奴らをけしかけたのか?」
シュンの問いに、男は哄笑を上げた。
「ガッハッハッ! その通り! 俺様のスキルは【魔犬】! 凶悪狂暴なヘルハウンドでテメーらをブッ殺して金目の物を奪ってやるぜ!」
「バカだろ、おめー」
「アアッ⁉」
「自分の力をわざわざ説明してくれるなんてな」
「テメー……!」
ブチブチと男が青筋を浮かべていく。
「いいぜ、テメーはブッ殺した後で犬共のエサにしてやる! いままでブッ殺してきた奴らのようにな!」
「いま思い出したが、おめー、指名手配されてた奴だな? 懸賞金が懸けられてたぜ」
「ハッハア! 恐れたか⁉ いまさら命乞いしても遅せーぜ! 行け! ヘルハウンド共!」
男が手をかざし、シュンとネカの前後左右上空からヘルハウンドの群れが出現して、二人に襲いかかっていく。
ヘルハウンドの群れによって見えなくなった二人に、
「殺った!」
男が勝利宣言をしたとき、ヘルハウンド達の隙間から光が差し込んで、彼らを跡形もなく消し飛ばしていった。
「何⁉」
「撃て!」
シュンの指示によって、ネカが魔法を放つ。
光が男を飲み込んでいった。
○
全身に焼けただれたような重傷を負った男が地面に崩れている。気絶しているらしく、白目を剥いて泡を噴いていた。
男に近付き、見下ろしたシュンがネカに言う。
「殺さなかったんだな?」
「…………すみません……」
「いや、謝る必要はない。あとは警察に任せよう。こいつを拘束してくれ」
「……はい……」
ネカが魔法を使って、男の全身が黒い直方体のなかに包まれる。
「まるで棺桶みたいだな?」
「……拘束と封印を兼ねた魔法です。拘束しただけだと、またスキルでヘルハウンドを出されちゃいますから……」
「だな。スキルも使えなくしねーとな。問題はどうやって警察まで運んでいくかだが」
「それもわたしの魔法で……。ここに放っておくのもあれですし、警察に着いたら拘束と封印だけを継続したまま箱を消さないとですし……」
「ネカは優しいな。こんな奴のことも考えるだなんて。俺だけだったら……殺してるな。逆恨みでまた狙われても最悪だし」
「…………シュンさん……」
ネカがシュンを見る。不安げな顔だった。
彼女の不安を見て取って、シュンは苦笑いをした。
「安心しろ。まだ誰も殺したことはねーよ。俺の力じゃ無理だしな」
「…………」
「……まだ、な」
「…………」
最後にそう付け加えた。
その後、二人は街に戻っていき、警察に男を引き渡した。
男の首に懸けられていた懸賞金を二人は受け取って、宿屋に戻ったのだった。
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