第8話 『バタフライエフェクト』
休憩が終わったあとも魔法の練習を続けて、夕方になってシュンが言う。
「よし、今日はこんなとこにしとこうか」
「はい、ありがとうございます」
「まだまだちゃんと真んなかには命中してねーけど、最初のころよりはだいぶマシになってきたな」
「そうですか……?」
「自信持てって。最初のころは当てることすらままならなかったのに、今日の練習で何回かに一回は端のほうに当てられるくらいにはなったんだからさ」
「…………」
「つーわけで帰るか。今日の晩メシはなににしよっかなーっと」
シュンが街に向かって歩き始め、ネカがついていく。彼女は彼の隣に並ぶと、不安そうにおずおずと聞いた。
「あの、シュンさん……?」
「なんだ?」
「あの、わたしが魔法が上手くなっても、一緒にパーティー組んでくれますか?」
「はあ? ネカのほうが強いんだから、ネカがそれを聞いてどーすんだよ? むしろ俺がお願いする側じゃねーの?」
「それは、その……」
もじもじするネカを見て、そこでシュンはぴんと察した。
「あーなるほど、俺がいなくても魔法を使えるようにする練習をするから、それができるようになったら俺が離れていくと思ったわけか」
「ふぇっ、ひょれは……っ」
図星を突かれて、ネカはしどろもどろになった。
そんな彼女の頭に、シュンが手を乗せる。
「安心しろって。べつにネカとパーティーを組んだのを後悔してるとか、パーティーを解消したいからこの練習をさせてるわけじゃない。ただ単に、ネカが一人でもできるようになれば、それだけパーティーの活動範囲が広がるからな。ときには別行動しなくちゃいけないこともあるだろうし、それにネカ自身が強くなるのなら俺もうれしいし」
「シュンさん……」
「そうすりゃいまよりもっと、がっぽがっぽ稼げるからな。ぐへへへへ」
「……あはは……」
シュンは手を持ち上げて、わきわきと動かす。ネカは半ば苦笑していた。
彼女が話題を変える。
「そういえば聞いていなかったですけど、シュンさんの冒険職や得意なことってなんなんですか?」
「聞きたいか?」
「へ? ええ、まあ……」
ネカは少し照れた顔をする。
……まさかシュンさんのことをもっと知りたいから、なんて言えないよね……。
「後悔するぞ。聞かなきゃ良かったって」
「…………」
ネカはごくりと喉を動かした。彼があまりにも真顔で言うので、どんな恐ろしい力を持っているのかと思ったのだ。
「じ、実はすごい強い力を持っている……ということですか? あまりにもすごすぎるから、あえていつもは手加減してるとか?」
「ふ、良い勘してるぜ。嫌いじゃないぜ、そんな奴」
シュンは、百戦錬磨の強者のような雰囲気を漂わせる。ネカはごくりと緊張した顔になる。
シュンが言った。
「そんなに聞きたいなら教えてやるぜ。俺の冒険職はフリーターだ」
「…………へ?」
「フリーなハンターの略な。魔法は使えねえ。使えるスキルもちっちぇー芋虫ちゃんを一匹出すくらいだ。こんなふーにな」
シュンが手のひらに緑色の小さな芋虫を出現させる。アゲハ蝶の幼虫である、なんの変哲もない普通のあの芋虫である。
「どうだ、びっくりしただろ? 恐ろしくなっただろ?」
「…………。あの、その、まさか、後悔するとか聞かなければ良かったとか怖くなったとかっていうのは……」
「あんまりにも弱すぎる力だからに決まってんじゃん」
「…………」
ずこーっ、と、古典的な漫画のようにネカはずっこけそうになった。
シュンが大きく笑う。
「わっはっはっ! ま、そーいうことだから、俺は戦力としては期待しないでくれ。その代わり、ネカのサポートは全力でやらせてもらうからさ」
「はあ……」
「ちなみに、俺のこの力は『バタフライエフェクト』っていうんだ。芋虫だけにな。かっこいーだろ?」
「はあ……」
面白そうに笑うシュンに、ネカは苦笑するしかなかった。
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