第10話 『ささやかな仕返し』
ヘルハウンドを出すスキルの男を倒したあと……シュンとネカは宿屋に戻って昼食を食べていた。
「どうした、ネカ?」
「…………、へ?」
声に気付いて、ネカがシュンを見る。彼が言う。
「さっきからぼーっとしてたぞ? スパゲティーも食べてないみたいだし」
「え……あ……」
宿屋の食堂で、ネカはスパゲティー、シュンはかつ丼を注文したのだが……ネカは手を止めがちであまり食が進んでいなかった。心ここにあらずといった様子で、中空を見つめていたのである。
「もしかして、さっきの奴のこと、気にしてるのか?」
「えっと、その、あの……」
ネカは小さくうなずいた。
「あの人、前にもいろんな人をヘルハウンドのエサにしてきたって……」
「……なるほどな」
いま二人は食堂にいて、昼食を食べている。シュンは合点がいった。
「エサにしたってことと、いま俺達の前にある昼食がかさなっちまった感じか。それで食欲が湧かないと」
「……それもですが……あの人、いろんな人を殺してきたのだと思ってしまって……」
「…………」
シュンは励ますように言う。
「ネカに倒れられたら俺が困るから、なるべくなら食べてほしいけどよ。どうしても食べられないってんなら、俺によこしてくれてもいーぜ。腹減ってるし」
「……シュンさんは、平気なんですか?」
「慣れちまった。ずっと冒険者なんてやってるとな、あーいう輩はちょくちょく見かけっから。ネカは見たことなかったのか?」
「……元いたパーティーの方達が、似ていました……殺人はしてませんけど……」
「あー、なる」
もしかしたら、先の遺跡の男を見て、元パーティーメンバーのあの三人を思い出したのかもしれない。
「だから元気なかったのか?」
「…………」
ネカは直接は答えなかった。代わりに、手にしていたフォークを再び動かし始める。
「……大丈夫です。食べます。わたしも慣れないといけませんから」
「…………。俺がいるからな。無理すんなよ」
「はい。ありがとうございます」
ぱくりと、ネカがスパゲティーを口にした。
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昼食を食べ終えたあと、二人は腹ごなしに街のなかを散策していた。
「どっかの店でも寄ってくか? 懸賞金もたんまり入ったことだし」
その懸賞金はもちろん二人で山分けしてある。結構な額があった。
「なんか買おうか? ネカ、装飾品とか好きか?」
「そんな、悪いですよ。自分のものは自分で買いますから……」
「いやいや気にすん」
そのとき、二人の背後から声がかけられた。
「グズエルフじゃねーか? こんなとこで何してんだ?」
二人が振り返ると、ネカの元パーティーメンバーの三人がいた。
ネカがうろたえる。
「み、みなさん……?」
「ったく、こちとら踏んだり蹴ったりだったぜ。よく覚えてねーけど気が付いたら病院にいるし、入院費で有り金はフッ飛んじまうし、入院してる間酒も飲めねーしで最悪だったぜ」
男の言葉に、仲間の男女もうんうんとうなずいている。
「そんでこれから早速クエストで荒稼ぎしようと思ってたんだが。まさかテメーがまだこの街にいやがるとはな? とっくの昔に故郷に帰ったのかと思ってたぜ」
「それは、その……」
「テメーみてーなグズエルフなんか、とっとと冒険者をやめてママのおっぱいでも吸いに帰りな。ギャハハ!」
男の笑い声に、他二人も高笑いを上げる。
「ま、俺達のクエストの邪魔さえしなけりゃ、テメーがどーなろーが野垂れ死のーが関係ねーがな。俺達の邪魔したらブッ殺すからな。おらどけよ」
ネカが慌てて道を譲り、シュンも彼女のそばに寄る。
開いた道を、三人は偉そうな態度で歩いていく。
その後ろ姿を見送ってから、シュンがネカの背中に手を添えた。
「行くか、ネカ」
「……はい……」
二人は三人とは逆方向に歩き始める。
「気にするな、ネカ。お前がめちゃくちゃ強いことも、お前の良いところも、俺はちゃんと知ってるから」
「シュンさん……」
「それに、あいつらには俺からささやかな仕返しをしといたから」
「へ……?」
そのとき二人の背後で、さっきの三人の悲鳴が聞こえてきた。
「キャーッ⁉ 何⁉ 何なの⁉ 背中の服の中を何か這ってるゥ⁉」
「ギエッ⁉ お、俺の服の中にもいやがる⁉ 何なんだこりゃ⁉」
「ウゲーッ⁉ こ、こいつぁ芋虫だ⁉ いつの間に服の中に入り込みやがった⁉」
振り返り、びっくりして目を丸くしているネカに、シュンがウィンクした。
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