第3話 『ビー玉』
夕方、ネカとシュンは街に戻ってきた。
「取れたアイテムは明日店に売りに行くとして、腹減ったからメシでも食うか」
「はい」
「どこにする? そこら辺の料理屋かファストフード店か宿屋の食堂か、食料品店で買って宿屋で食うってのでもいいけど?」
「シュンさんが食べたいものでいいですよ。わたしはついていきますから」
「んじゃ宿屋にすっか。食ったあとすぐに部屋に行けるし」
「……あ……」
「ん? どうした?」
「い、いえ、なんでもないです」
なにかを思い出したらしいネカだったが、シュンの問いには慌てて首を横に振った。
彼女がなんでもないと答えたので、シュンはそれ以上聞かないことにした。
「んじゃ宿屋に行くか」
「はい」
二人は茜色に染まった道を歩いて、一軒の宿屋に到着する。ネカの顔は緊張したように強ばっていた。
「どうしたネカ? 体調でも悪いのか?」
「い、いえ、歩いて少し疲れただけですから……」
「そうか?」
シュンがネカの額に自分の額をつける。
「~~~~っ⁉」
「うーん、熱はないみたいだな。俺の気にしすぎか?」
ばばっとネカはシュンから少し距離を取った。
「わわ、わたしなら大丈夫ですからっ、早く食堂に行きましょうっ」
「その前にチェックインしないとだけどな」
「じゃあしましょう早くっ」
「そうだな」
二人はチェックインを済ませて食堂へと向かう。食堂は宿泊客で混み合っていた。
「ネカはなに食べる?」
「シュンさんと同じものでいいですよ」
「んじゃ日替わり定食二つだな」
シュンがカウンターで注文している間、ネカは食堂内をきょろきょろと見回していた。
「すぐに出来るからそこで待ってな」
宿屋のおかみさんが言う。注文の料理がきて、カウンターにそれが置かれると、シュンとネカはそれを受け取って食堂内を見回した。
「空いてる席はどこかなーっと」
「あ、あそこの隅の席、空いてますよっ」
「お、ほんとだ。じゃ、あそこで」
二人はそこに向かう。ネカが端の席、シュンがその隣に座る。
「んじゃ、いっただっきまーすっ」
「い、いただきます……」
「うーん、うまいっ。一仕事したあとだからなおさらだぜ」
シュンがうまそうに食べるなか、ネカは絶えず食堂内、とりわけ入口のほうをちらちらと見ていた。
「どうかしたのかネカ?」
「い、いえ、なんでも……」
そのとき入口のほうから騒がしい声がした。
「ウェーイ、今日も飲みまくるぜー!」
「あの役立たずがいなくなったおかげでクエストも捗ったしなァ!」
「ほんとあのゴミエルフいなくなって良かったわァ、ついでにどっかで死んでくれてたらもっと良いのにィ!」
ギャハハハハ! 三人の冒険者の高笑いが食堂内に響いた。
他の客達はうるさそうな顔をしたり、不愉快そうな顔をしたり、しかめっ面をしていた。
そんななか、その三人の冒険者を見たネカがとっさに身を縮こまらせて、シュンの身体に隠れるようにした。
シュンが小声で聞く。
「どうしたネカ?」
「わ、わたしが元いたパーティーの人達なんです、あの人達。見つかったら、また怒らせてしまうかもって……」
「ふーん……」
……さっきからの様子はこれか。
シュンが三人のほうを見やる。三人は早速酒を飲んでバカみたいに騒いでいた。宿屋のおかみさんが注意していたが、聞く耳は持っていなかった。
「…………」
シュンはポケットから一つの小さなビー玉を取り出した。
「シュンさん?」
「ちょーっとだけムカついたから」
「……?」
シュンがビー玉を床に放って、ころころとビー玉が転がっていく。ビー玉は三人のいるテーブルの足にぶつかると、反動で少し跳ね返ったあと停止した。
「ギャッハッハッ! 酒をもっと寄越せェッ!」
三人のうち一人が酔って立ち上がりながらカウンターのほうに叫び声を上げる。その弾みで足元にあったビー玉を踏みつけて、バランスを崩したあと盛大に転んだ。
ドンガラガッシャーン! 男は頭を打ち、残りの二人もひっくり返ったテーブルに額や顎をぶつけて、三人仲良くその場に倒れて目をグルグル回していた。
夕食を食べ終わったシュンがネカに言う。
「さ、部屋に行くか」
「へ……あ、はい」
ざわざわとざわめく食堂をあとにして、二人は自分達の部屋に向かっていった。
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