表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/11

第九話 全体をつなぐ/バス・割り込み・冗長化

 朝。


 悠真は中央都市を歩いていた。


 以前とは、人の流れが違う。


 算術士が計算所へ向かう。


 書記が記録を運ぶ。


 検索係が書庫へ入る。


 伝令が走る。


 通信士が塔へ向かう。


 食堂では大量の食事が作られている。


 冷却用の水路では水が流れている。


 修理担当が設備を点検している。


 すべてが動いている。


 しかし。


「……なんか、忙しすぎないか?」


 悠真は立ち止まった。


 人が増えた。


 都市も増えた。


 仕事も増えた。


 そして今度は、仕事同士の調整が必要になっている。


 計算所で問題が起きた。


「この記録がありません!」


 算術士が叫ぶ。


「記録管理所へ!」


 書記が走る。


「ありません!」


「第二書庫を確認してください!」


 検索係が走る。


 その間にも別の計算が進んでいる。


 通信士がやってくる。


「第三都市から緊急連絡です!」


「今は記録を探しています!」


「しかし、総督から至急の命令です!」


 人が交差する。


 悠真は少し離れた場所から、その様子を眺めていた。


「……情報が増えると、今度は順番の問題が出るのか」


 何でも同時にはできない。


 急ぎの仕事。


 普通の仕事。


 後回しでいい仕事。


 それを判断しなければならない。


 その日の神託が総督に届いた。


『重要な処理を優先せよ』


 総督は神託を読む。


 すぐに新しい命令が出された。


「緊急案件を赤札」


「通常案件を白札」


「記録依頼は青札」


「修理依頼は黄札」


 色の違う札が使われるようになった。


 赤札を持つ伝令が走る。


 通信士も赤札を優先する。


 算術士も赤札の計算を先に処理する。


 書記も赤札の記録を先に整理する。


 仕事の優先順位が統一された。


 悠真はその様子を見ていた。


「割り込み処理みたいだな」


 突然重要な仕事が入れば、それを先に処理する。


 終われば元の仕事へ戻る。


 人間が、それを実行している。


 午後。


 さらに問題が起きた。


 第二都市の通信塔が使えなくなった。


 通信士が報告する。


「塔の設備が故障しています!」


 総督へ報告が届く。


 しかし、総督は慌てなかった。


「第三都市を経由せよ」


 別の通信塔へ指示が出る。


 情報が別の経路を通って送られる。


 第三都市。


 第四都市。


 そして第二都市。


「届きました!」


 通信士が叫ぶ。


 悠真は驚いた。


「別の道を使った?」


「はい」


「一つが壊れても、別の道があるんだ」


 通信士は当然のように頷いた。


「そのようにしています」


 悠真は通信網を見る。


 一つの都市。


 一つの通信塔。


 そんな単純な構造ではない。


 複数の都市が複数の経路でつながっている。


「冗長化……」


 悠真は呟いた。


 さらに夕方。


 計算所の一人が体調を崩した。


「今日は無理です」


「分かりました」


 すぐに別の算術士が席につく。


 計算が止まらない。


 書記が一人休めば、別の書記が代わる。


 通信士が休めば、交代要員が入る。


 門番も交代する。


 食堂も交代する。


 冷却担当も交代する。


 修理担当も交代する。


 悠真はそれを見ていた。


「人そのものが交換できる部品になってる……」


 誰か一人がいなくなっても、全体は止まらない。


 同じ役割を持つ人間を複数用意しているからだ。


 夜。


 悠真は丘へ登った。


 眼下には、無数の灯りがある。


 計算所。


 書庫。


 通信塔。


 食堂。


 冷却水路。


 修理施設。


 そして、それらをまとめる総督府。


 一つ一つを見ると、ただの人間の仕事だ。


 しかし全体を見ると違う。


 命令が届く。


 処理される。


 記録される。


 運ばれる。


 必要なら別の経路を通る。


 誰かが止まっても別の人間が代わる。


 情報が蓄積される。


 必要なときに取り出される。


 悠真はしばらく黙っていた。


「……」


 そして、ようやく一つの言葉が浮かんだ。


「これ、もうコンピュータそのものじゃないか」


 だが、まだ足りない。


 悠真には分かっていた。


 これだけ巨大になれば、最後に必要になるものがある。


 全体の状態を把握する仕組み。


 そして、それを判断する仕組み。


 悠真は中央都市を見る。


 総督府の灯りだけが、少し遅くまで消えなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ