第八話 検索係/アドレス指定・記憶管理
朝。
悠真は大書庫へ向かった。
昨日より、さらに大きくなっている。
新しい棚。
新しい部屋。
新しい書記。
そして、入口には長い列ができていた。
「何を待ってるんだ?」
悠真が尋ねる。
「記録を探してもらっています」
「探してもらう?」
「はい」
列の先を見る。
一人の書記が机に座っていた。
「必要な記録は?」
「第二都市、三日前、午後の計算結果です」
「担当者は?」
「第七計算所」
「分類番号は?」
「分かりません」
書記は少しも慌てない。
手元の帳簿を開く。
日付を確認する。
都市名を確認する。
計算所を確認する。
別の帳簿を見る。
「第七計算所、三日前、午後……」
しばらくして。
「あった」
書記が立ち上がる。
別の棚へ向かう。
記録を取り出す。
「これです」
「ありがとうございます」
記録を受け取った算術士が去っていく。
悠真は書記を見る。
「今の人は?」
「検索係です」
「書記とは違うの?」
「記録を書く者と、記録を探す者は分けています」
「なるほど」
記録が増えすぎた。
だから、今度は記録を探す専門の人間まで必要になった。
昼。
総督府から神託が届いた。
『過去の記録を利用せよ』
総督は神託を読む。
そして命令を出す。
「各都市、過去の計算結果を整理」
「重要記録には番号を付ける」
「検索係を配置」
「記録の所在を記録する帳簿を作成」
伝令が走る。
通信士がランタンを操作する。
各都市へ命令が伝わっていく。
書記たちが新しい帳簿を作り始める。
悠真はその様子を眺めていた。
「記憶が増えると、今度は場所を指定しないと使えないか」
書庫には大量の情報がある。
しかし、ただ積んであるだけでは意味がない。
どこにあるのか。
何の情報なのか。
いつのものなのか。
誰の計算なのか。
それを示す必要がある。
「番号を付けて、場所を管理する……」
悠真は棚を見た。
「アドレスみたいなものか」
午後。
新しい仕組みが始まった。
書記が記録を書く。
番号を付ける。
検索係が帳簿に記録する。
別の書記が保管する。
必要になれば、検索係が帳簿を調べる。
棚へ行く。
記録を取り出す。
そして依頼した人間へ渡す。
すべて人力。
だが、記録を探す速度は以前より速くなった。
悠真は書庫の奥へ進んだ。
そこには、さらに厳重に管理された棚があった。
「ここは?」
「重要記録です」
「普通の記録と違う?」
「はい」
「なくしたら困る?」
「非常に困ります」
同じ記録が二部ある。
一部は中央。
もう一部は別都市。
「……コピーしてるのか」
「はい」
「バックアップだな」
書記はまた首を傾げた。
「ばっく……?」
「いや、こっちの話」
夕方。
悠真は丘に登った。
都市には通信塔が並んでいる。
計算所では算術士が働いている。
書庫では書記が記録を整理している。
検索係が帳簿を調べている。
伝令が走る。
総督が全体をまとめる。
食堂が人を支える。
冷却用の水が流れる。
修理担当が設備を維持する。
どこにも自動化された機械はない。
それでも、情報は蓄積され、必要なときに取り出されている。
悠真は書庫を見下ろした。
「人間が記憶装置になってるな」
紙を作る人。
書く人。
分類する人。
探す人。
運ぶ人。
保管する人。
それぞれが一つの機能を担当している。
その夜。
書庫の入口に、新しい札が掛かった。
『記録管理所』
悠真はそれを見上げた。
「記憶にも管理者が必要になったか」
そして翌朝。
さらに遠くの都市から、伝令がやってきた。
「総督へ報告があります!」
「何?」
「計算結果が、各都市から大量に届いています!」
悠真はその言葉を聞いて、書庫を見る。
記録はまだ増え続けている。
「……次は、これをどう処理するんだ?」
悠真は巨大な書庫を見上げた。
世界は、また一段階大きくなろうとしていた。




