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第七話 大書庫/記憶装置・ストレージ

 朝。


 悠真は中央都市へ向かった。


 通信塔が増えている。


 昨夜まで遠くの丘に一つしかなかった塔が、今ではいくつも並んでいる。


 ランタンが点滅する。


 別の塔が応答する。


 都市同士のやり取りが、夜になっても続いている。


「……忙しくなったな」


 悠真は街の中へ入った。


 そこで気づく。


 以前より、書記が増えている。


 しかも、紙を運ぶ量が異常に多い。


「何を運んでるんだ?」


「記録です」


 書記が答える。


「どれくらい?」


「分かりません」


「分からない?」


「多すぎますので」


 悠真は紙の束を見る。


 かなりの量だ。


 計算結果。


 通信内容。


 命令書。


 作業記録。


 食料の記録。


 冷却用の水の量。


 修理履歴。


 あらゆる情報が紙になっている。


 そして、その先に巨大な建物があった。


「ここは?」


「書庫です」


「……大きくない?」


「記録が増えましたので」


 中へ入る。


 棚が並んでいる。


 棚。


 棚。


 さらに棚。


 奥が見えない。


 書記たちが紙を分類している。


「計算結果はこちら」


「通信記録はこの棚」


「命令書は日付順」


「修理記録は設備ごと」


 それぞれ決められた場所へ保存している。


 悠真は奥まで歩いた。


「……これ、昨日までの記録?」


「はい」


「全部?」


「全部です」


 悠真は絶句した。


「紙で?」


「はい」


 当然のような返事だった。


 午後。


 新しい問題が起きた。


 算術士が一枚の紙を持って、書庫へ走ってきた。


「三日前の計算結果を確認したい」


 書記が尋ねる。


「どの計算ですか?」


「第二都市の計算」


「日付は?」


「三日前」


「担当は?」


「分かりません」


 書記が少し困る。


 棚を探す。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 やがて、別の書記が言った。


「これでは?」


「違う」


「こちら?」


「それだ」


 ようやく記録が見つかる。


 算術士は紙を見る。


「これです」


 悠真はその様子を見ていた。


「記録が増えすぎて、探す方が大変になってる」


 書記が頷く。


「はい」


「じゃあ、分類をもっと細かくしたら?」


「すでに細かくしています」


「……」


 悠真は巨大な書庫を見渡した。


「じゃあ、検索する仕組みが必要になるな」


 書記は首を傾げる。


 その日の神託が総督へ届いた。


『記録を失うな』


 総督は神託を読む。


 そしてすぐに命令を出した。


「書庫を拡張」


「記録担当を増員」


「分類を細分化」


「重要記録は二部作成」


 命令が各部署へ伝わる。


 書庫がさらに広がる。


 同じ記録を別の場所にも保管する。


 記録が失われても、もう一つ残るようにする。


 悠真はその様子を見ていた。


「バックアップまで始まったか」


 もちろん、誰もその言葉を知らない。


 夜。


 悠真は書庫の外に立っていた。


 建物の中には、何千、何万という記録が保管されている。


 外では通信塔が光っている。


 都市では計算が続いている。


 そして、その結果がまた紙になる。


 紙が書庫へ運ばれる。


 記録が増える。


 また保存される。


「計算するだけなら、ここまで必要なかった」


 悠真は書庫を見る。


「でも、計算した結果を残すなら……」


 記憶が必要になる。


 しかも、規模が大きくなればなるほど、必要な記憶も増える。


 そのとき。


 書庫のさらに奥から声がした。


「場所が足りません!」


 悠真が振り向く。


 書記が走ってくる。


「新しい記録を置く場所がありません!」


「……」


 悠真は巨大な書庫を見る。


「また増えるのか」


 翌朝。


 書庫の隣に、さらに巨大な建物が出現していた。


 その入口には、新しい札が掛かっている。


「第二書庫」


 悠真はしばらく眺めていた。


「記憶容量も増えてきたな……」


 そして遠くでは、ランタンが光っている。


 計算所が動いている。


 都市が動いている。


 そのすべての結果が、紙として積み重なっていく。


 悠真はその光景を見ながら、ふと思った。


「このままいったら……」


 書庫の先を見る。


「紙だけで世界が埋まるんじゃないか?」


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