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第六話 通信士/通信装置・ネットワーク

 朝。


 悠真は丘へ向かった。


 昨日まで何もなかった場所に、細い塔が立っている。


 塔の上には小さな台があり、その上にランタンが置かれていた。


 その横には、一人の男が立っている。


「何をするんだ?」


 悠真が尋ねる。


「通信です」


「通信?」


「はい」


 男はランタンに火を入れた。


 そして、覆いを開閉する。


 光が点滅する。


 短い光。


 長い光。


 短い光。


 男は一定の規則でランタンを操作している。


 少し離れた塔。


 そこでもランタンが光った。


 男が確認する。


「届きました」


「返事が来たの?」


「はい」


 悠真は目を細めた。


「光で情報を送ってるのか」


「はい」


「どうやって文章にする?」


「決められた符号があります」


 男は紙を見せた。


 短い点。


 長い線。


 それぞれを組み合わせて文字にする。


 悠真は紙を見る。


「モールス信号か」


 通信士は首を傾げた。


「モールス……?」


「いや、こっちの話」


 通信はすぐに村全体へ広がった。


 塔が増える。


 都市ごとに通信所ができる。


 通信士が配置される。


 ランタンが夜になると一斉に光り始める。


 短い光。


 長い光。


 また短い光。


 遠くの塔が応答する。


 さらにその先へ情報が送られる。


 悠真は丘の上から眺めていた。


「人が走らなくても届くようになった」


 伝令も必要なくなったわけではない。


 紙そのものを運ぶ必要がある場合もある。


 だが、簡単な情報なら光で送れる。


 それだけで速度が大きく変わる。


 昼。


 総督府に神託が届いた。


『第一都市へ、計算量増加を伝えよ』


 総督が命令書を書く。


「通信所へ」


 伝令が走る。


 通信士が受け取る。


「了解」


 通信士が塔へ向かう。


 ランタンを操作する。


 短い光。


 長い光。


 規則に従って情報を送る。


 第一都市の通信士が受信する。


「第一都市へ到着」


 受け取った内容を紙に書く。


 それを算術士へ渡す。


「計算量増加の命令です」


 算術士が頷く。


「承知しました」


 すぐに作業が増える。


 悠真は一連の流れを見ていた。


「神託が命令になって」


 総督を見る。


「命令が通信になって」


 通信士を見る。


「通信がまた命令になって」


 第一都市を見る。


「そこで処理される」


 悠真は少し考えた。


「……これ、ネットワークだな」


 通信士はランタンを操作し続けている。


 夜。


 通信塔に灯りが並ぶ。


 一つの塔が光る。


 少し離れた塔が応答する。


 さらに遠くの塔が光る。


 情報が都市から都市へ渡っていく。


 すべて人間が操作している。


 人が符号を覚える。


 人がランタンを操作する。


 人が受信する。


 人が紙に書く。


 人が次の担当へ渡す。


 機械はない。


 自動化もされていない。


 それでも、情報は確実に移動していく。


 悠真は通信塔の下に立っていた。


「最初は門だったのに」


 光を見る。


「今は、遠くまで情報を送れる」


 都市の数はさらに増えている。


 しかし、それぞれが孤立しているわけではない。


 光によってつながっている。


「これなら、もっと遠くまで……」


 悠真は遠くを見る。


 まだ暗闇の向こうには、何も見えない。


 だが。


 翌朝。


 さらに遠くの丘に、新しい通信塔が立っていた。


 その塔の先には、まだ見ぬ都市があるらしい。


 悠真は少し驚いた。


「……もう、そこまで広がったのか」


 ランタンが一度だけ光った。


 遠くから返事が返ってくる。


 新しい都市との通信が、始まった。



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