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第五話 総督/CPU・並列処理

 朝。


 悠真が目を覚ます。


 窓の外を見る。


「……」


 昨日まで村だった場所が、さらに広がっていた。


 建物が途切れない。


 道も増えている。


 遠くには、別の集落まで見える。


 だが、そこにも計算所がある。


 書庫がある。


 食堂がある。


 冷却用の水路もある。


「村が増えた……」


 悠真は歩き出した。


 新しくできた計算所では、算術士たちが並んでいた。


 一人ではない。


 十人。


 百人。


 それ以上。


 同じ種類の計算を、それぞれ分担している。


 悠真は足を止めた。


「一人で全部やらないんだ」


 算術士が答える。


「はい。分担しています」


「同じ計算も?」


「はい」


「同時に?」


「はい」


 悠真は並んだ算術士を見る。


 一人ずつ順番に処理するのではない。


 複数の算術士が、それぞれ別の計算を同時に進めている。


「……並列処理か」


 算術士は何のことか分からない。


 ただ、自分に割り当てられた計算を続けている。


 その日の昼。


 悠真は中央の建物へ向かった。


 中では、村長が大量の書類に囲まれていた。


「村長」


「はい」


「まだ村長なんですか?」


「そう呼ばれています」


 悠真は窓の外を見る。


 村がある。


 その向こうにも村。


 さらに遠くには、もう都市と呼んだ方がよさそうな場所まである。


「もう村長じゃないですよね」


「私も、そう思います」


 そのとき。


 村長の前に神託が現れた。


『全体をまとめよ』


 村長は神託を読む。


 しばらく外を見る。


 自分が管理している範囲は、もはや一つの村ではない。


 複数の都市。


 大量の計算所。


 書庫。


 食堂。


 冷却設備。


 修理施設。


 それぞれが動いている。


 村長は神託を置いた。


 翌日。


 中央の広場に人が集まっていた。


 悠真も少し離れた場所から見ている。


 一人の管理者が前に出る。


「これまで、この方を村長と呼んできました」


 村長が立っている。


「しかし、現在の管理範囲は一つの村を越えています」


 周囲から頷きが起こる。


「複数の都市を束ねる役職として、今後は――」


 一拍。


「総督とします」


 村長は頭を下げた。


「承知しました」


 悠真は少し笑った。


「出世したな」


 総督となった男は、すぐに机へ戻った。


 役職が変わっても、仕事は減らない。


 神託が届く。


『第二都市の計算量を増やせ』


 総督は命令書を書く。


「算術士を増員」


「第二都市へ」


 伝令が命令書を受け取る。


「はい!」


 別の命令が出る。


「書記を増員」


「承知しました!」


 さらに別の命令。


「食堂を拡張」


「はい!」


 命令が、それぞれの担当へ分かれていく。


 第二都市では算術士が増える。


 書記が記録する。


 食堂が食事を用意する。


 冷却担当が水を増やす。


 修理担当が設備を確認する。


 そして計算が始まる。


 悠真は都市の外から、その様子を眺めていた。


 一つの場所ですべてを処理するのではない。


 仕事を分けている。


 人も分けている。


 都市も分けている。


 それでも、全体として一つの処理になっている。


「……」


 悠真は遠くの都市を見る。


「一台のコンピュータじゃなくて……」


 さらに別の都市を見る。


「何台ものコンピュータを、一緒に動かしてる感じか」


 まだ通信手段は、人が走って伝えることしかない。


 伝令が都市間を往復している。


 悠真はその姿を見送った。


「でも、これだけ離れると大変だな」


 都市が増えれば増えるほど、情報を運ぶ距離も伸びる。


 仕事は増えた。


 処理する人間も増えた。


 しかし、それだけでは足りない。


 情報を届ける仕組みが必要になる。


 夕方。


 悠真は丘に登った。


 複数の都市が見える。


 それぞれに計算所があり、人々が働いている。


 総督府では神託を受け、それを命令へ変えている。


 伝令が走る。


 算術士が計算する。


 書記が記録する。


 食堂が人を支える。


 冷却担当が水を流す。


 修理担当が設備を維持する。


 最初は一つの門だった。


 今は、いくつもの都市が一つの仕組みとして動いている。


「……すごいな」


 悠真は静かに呟いた。


 その夜、悠真は眠った。


 翌朝。


 目を覚ます。


「……?」


 都市と都市の間に、昨日までなかった細い塔がいくつも立っていた。


 一本。


 二本。


 三本。


 遠くには、さらに多くの塔が並んでいる。


 悠真は窓からそれを眺めた。


 塔の上には、人が立っていた。


 手には何かを持っている。


「……今度は、あれか」


 悠真は丘へ向かった。


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