第二話 算術士・書記・伝令/演算・記憶・通信
翌朝。
悠真が目を覚ますと、昨日現れた小さな建物の前に、人が集まっていた。
昨日まで門しかなかった場所だ。
今では、門の近くに建物がある。
中から紙をめくる音が聞こえる。
「何をしてるんだ?」
悠真が覗く。
そこには、一人の男が座っていた。
机の上には大量の石と木片が並べられている。
男は神託を受け取ると、石を並べ替え始めた。
『三と五を合わせよ』
「承知しました」
三つの石。
五つの石。
それを一つにまとめる。
男は数える。
「八」
結果を紙に書く。
その紙が別の場所へ運ばれていく。
悠真は男を見た。
「計算してるの?」
「はい」
「仕事は計算?」
「はい」
「名前は?」
「算術士です」
悠真は頷いた。
「門番とは違うんだな」
「はい」
門番は命令された通りに門を動かす。
算術士は、命令された計算を行う。
役割が違う。
その日の神託は次々に届いた。
『七と四を加えよ』
「十一」
『十から三を引け』
「七」
『五を二倍せよ』
「十」
算術士はひたすら計算する。
そして結果を紙に書く。
悠真はその様子を眺めていた。
「門番がスイッチなら、こっちは計算する部分か」
悠真は少し考える。
「加算器とか……演算装置みたいなものかな」
算術士は黙々と作業を続けている。
本人は、自分が何の部品なのか知らない。
昼頃。
別の建物から人が出てきた。
両手いっぱいに紙を抱えている。
「今度は何だ?」
悠真が見る。
その人物は紙を一枚ずつ確認し、決められた場所へ並べていく。
「これは第一の記録」
「これは第二」
「こちらは昨日のもの」
紙を分類する。
日付を書く。
番号を書く。
そして、大量の紙を棚へ収める。
悠真が尋ねる。
「何をしてるんです?」
「記録しています」
「全部?」
「はい」
「計算は?」
「しません」
「じゃあ、何のために?」
男は少し考えて答えた。
「忘れないためです」
悠真は棚を見る。
すでに大量の記録が並んでいる。
「……記憶か」
男は首を傾げる。
「記憶?」
「いや、こっちの話」
悠真は書記を眺めた。
計算する者がいる。
そして、その結果を残す者がいる。
「計算する場所と、覚えておく場所が別なんだ」
また一つ、対応するものが見えてきた。
さらに午後。
今度は別の人間が走ってきた。
「第二の門へ!」
書類を持っている。
門番に渡す。
「神託です」
門番が受け取る。
その紙を読む。
そして門を開ける。
男は次の場所へ走っていった。
悠真はその背中を見る。
「今度は運ぶ仕事か」
伝令だった。
その日の夕方。
悠真は門の近くに立っていた。
門番。
算術士。
書記。
伝令。
昨日までは門番しかいなかった。
今は四つの役割がある。
神託を受ける。
命令を処理する。
計算する。
結果を記録する。
必要な場所へ運ぶ。
悠真は少し離れた場所から、その流れを眺めた。
「……」
それぞれは、自分の仕事しかしていない。
門番は門を扱う。
算術士は計算する。
書記は記録する。
伝令は運ぶ。
でも。
全部つなげると、一つの仕事ができる。
「なんだか……」
悠真は考える。
「コンピュータの中身みたいになってきたな」
その瞬間。
悠真の目の前に神託が現れた。
悠真宛ではない。
少し離れた場所にいる算術士の前だった。
『さらに計算せよ』
算術士が頭を下げる。
「承知しました」
悠真は神託を見て、それから周囲を見る。
門番が動く。
伝令が走る。
書記が記録する。
算術士が計算する。
それぞれが、自分の役割を続けている。
悠真は小さく呟いた。
「……まだ始まったばかりだな」
そして翌朝。
昨日まで何もなかった場所に、また新しい建物が増えていた。




