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264  作者: Nora_
8/10

08

「冬休みになってからはあっという間だったわね」

「はい」

「まあ、十日も残っていなかったんだから当たり前と言えば当たり前なんだけどね」


 高校二年生の冬休みはこれまでの冬休みの中で一番最高のものとなった。

 自分が決めたルールはもう彼女のいい意味での攻撃を前に意味のないものとなってしまっているものの、素直にならないともったいないからこれでいいと片付けている。


「あんたはもうすぐ三年か」

「さやが同級生か先輩の方がよかったです」


 これでも敬語を使い続けているぐらいだから後輩の方がキャラ的にはいいと思う。


「先輩でも後輩でもあんたが相手の場合は大して変わらないわよ」

「甘えられるからです」

「いやあんたは十分私に甘えているでしょ」


 それはそう。

 はは、こうしてまた呆れたような顔をしてくれることが増えて嬉しいな。


「私としては早く二月一日になってほしいですね」

「頭だけどなんとも中途半端ね、なにがしたいの?」

「え、さ、さやのお誕生日ですよね……?」

「ああっ、なんだそんなことか」


 あのときはなかったことになるのだろうと片付けた私だけど本当にその通りになりそうで怖くなってしまった。

 出会う前は無理でも出会ってからのお誕生日なら祝いたい。


「前にも言ったと思うけど誕生日だからってなにかするわけじゃないからね。豪華な料理が出てきたり、なにか欲しい物を買ってもらえたりはしないから当日がきても変わらないでしょうね」


 さ、冷めている……。

 でも、小さい頃から盛り上がるようなことがなければ私もそういう日に対しては彼女みたいになりそうだ。

「本当にいいの?」と聞かれてもこれが普通だとかなんとか答えて躱そうとするはず。

 じ、実際は全力で甘えて、幸せ全開で過ごすことになるとしてもだ。


「だけど来年は違うのかもしれないわ」

「私がいます」

「うん、あんたがいるから違うと思う」


 私のポケットに手を入れてきてそのままギュッと握られる。


「益々気温が低くなっているのに最近のあんたの手は温かいわね」

「さやがいてくれるからです」

「あれよ、一緒にいるんだから少しぐらいはいい方に働いてくれていないと嫌よ」

「はい」


 そこで会話が止まって静かな時間となった。

 あ、今更だけどここは神社とかではなくて彼女のお家のベランダだからすぐに戻れることは大きい。

 気まずさなんかもなくて彼女の体温に意識を向けていると「もう変わるわよ」と。


「あけおめ」

「あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします」


 変わったとなれば二人でササッと戻った。


「あ、初詣にいく趣味とかはないからそこらへんはよろしく」

「はは、分かりました」

「初日の出もいいか。ということでもう寝る?」

「私はもう少し起きておきます、電気は消していいですからね」

「ん、じゃあおやすみ」


 また寝られなくなっても困るからお布団セットを持ってきてもらっていた。

 出ておくのは冷えるのでお布団には入らせてもらう。


「丹下も呼んでやった方がよかった……かな」

「いまから呼びますか?」

「や、それは危ないでしょ。ま、来年も関わりがあったら呼んでやるか」


 お部屋の中が暗いのもあって彼女はすぐに寝息を立て始めた。

 本当は直接言った方がいいけどいまから突撃するわけにもいかないので先程と似たような内容のメッセージを送った。


「わわっ、電話……」


 ここだと起こしてしまう、かといって廊下でも迷惑になってしまう。

 仕方がないので一人またベランダに戻る羽目になった。

 一回お布団に入った分、よりきつかったけどそれでも無視はできないのだ。


「あけおめことよろー!」

「はは、はい」

「さやさやはいま寝てる?」

「はい、先程寝ました」

「それならよかった、いまならこづえさんを独占できるね」


 物凄く優しい声音だ。


「実を言うとね、私はずっと前々からこづえさんに興味があったんだよ。だけど私、勇気が出なくてね――あ、近くにいるさやさやが怖かったからじゃないよ? ただ私のメンタルが強くなかったというだけでさ」

「それならわざとではないですがハンカチを落としたことは少しだけでも役に立てましたかね?」

「そうだね、あれがきっかけで近づけるようになったからね」


 情けないところやおっちょこちょいなところもときには役に立ったりするのか。


「無駄に考えて無駄に怖がっていた自分がアホだと思ったよ。だっていってみればこづえさんは普通に相手をしてくれたんだからね」

「最初の一歩を踏み出すのはなかなか大変ですよ」

「こづえさんもさやさやに対してそうだった?」

「はは、そうですね。だって最初は『邪魔』から始まったことですから」


 大嫌いから始まるよりはまだ苦戦することもなかったはずだ。

 私らしく存在しているだけで気が付けばこうなっていた。

 たまに馬鹿みたいなことを言ったり、頼んでしまったりして絶対に呆れられてしまっていたけどこれだ。

 最近なんかさやの方が頑張ってくれていて応えるだけでいいのがいいのかどうか考えてしまうときがある。

 恋のことなら私が頑張るだけでいい、なんて強くはないから言えないのが残念だけど。


「え、そうなの?」

「はい。迷惑にならないように壁にくっつくぐらい寄っていたのですがさやからそう言われてしまいまして」

「あ、そこからはむかついたこづえさんがこらー! って?」

「いえ、何故かさやが翌日から来てくれるようになりまして」


 あれは謎だった。

 別に煽るために来たわけでもなくて「あんた窓の外を見てぼうっとするのはお婆ちゃんになってからにしなさいよ」と言ってきただけだった。

 それ以外はあの学校について聞かれただけ。

 そう考えるとさやなりに不安だったのかもしれない。


「ビビッときた相手だったのかな」

「分かりません。でも、先程の話ではないですが私にとって変わるきっかけをくれたのはさやですね」

「そのまま好きになっちゃっているもんね」

「はい」


 昔から同性のことをそういう目で見ていたり、男の子との失敗が積み重なって同性に逃げたというわけでもないのに意外だった。


「これだとこづえさんばかりが大事な情報を吐いちゃっているよね。よし、それなら私も大事な情報を教えます」


 気にしなくていいけど教えてくれるということなら聞いておきたい。


「私もね、つばさって名前で呼んでもらいたいし、こづえさんのことこづえって呼びたいの」


 近づくのに勇気が必要だったのと繋がっているのかもしれない。


「それなら私はつばささんと、つばささんはこづえと呼び捨てにしてくれればいいですよ」

「つばさ……じゃ駄目?」

「いえ、求めるなら呼び捨てにします」

「それなら呼び捨てがいい、さやさやだけはずるいから」


 直接言った場合はさやもいてこのことを出せなかったかもしれないからこの選択も彼女のためになったか。

 支えてもらうだけの一方通行ではなくてこちらも相手のために動けることは凄く嬉しい。

 あとはもっと大きいことをしてあげられたらよかった。


「明日、じゃないか、今日明るくなったらこづえの家に――」


 少し集中しすぎてしまったか。

 窓が開けられたことにも気づかず、そのままスマホを取られてしまった。

 そのまま耳を当てて「うん、朝になったら三人で集合ね」と言ってそのまま切ってしまう。


「起きていたのはこのためだったのね」

「挨拶のメッセージを送ったら電話をかけてきてくれました」

「ふーん、言い訳もしないのね」


 そんなに怖い顔でいても効果はない。

 疲れてしまうだけだし、いままで寝ていたことでこの寒さには対応できないだろうからお部屋の中に戻しておいた。

 一応、追い出されたりすることはなかった。




「おっはよー」

「おぅ、はぅ、よぅ」


 あ、挨拶もまともにできない。

 ただ、頭ならいいけど脇腹とかにも攻撃を仕掛けてくるのが大変だった。


「んーポコポコ攻撃されているねえ、こづえはなにをしちゃったのかな?」

「あんたとこそこそ電話していたからよ」

「あちゃあ……やっぱりそれが原因だったか」

「それ以外にこいつを攻撃する理由なんてないでしょ」


 触れてくれることは何回もあったからこれもその内だと片付けてしまえばいいのだろうか。

 本当は好きな子が攻撃を仕掛けてきているなんて考えたくはないからプラスの方向に考えてしまおう。

 ポジティブの方が人生は楽しくなる。


「でも、やめてあげてほしいな、名前で呼ぶぐらいだからいいでしょ?」

「こづえは私と仲良くしておけばいいの」

「そもそも取れないから許してよー」

「はぁ……しっかり考えて動いてちょうだい」

「はーい!」


 どこかへいくみたいな約束はしていなかったからこれからどうするのか。

 私はもう手袋を買ってちゃんと対策をしてあるからいつもよりも暖かい。

 公園でゆっくり話すのもいいし、さややつばさのお家にいくのでもいい。

 私のお家にはいま両親がいてなんかあんまり話してほしくないからそこだけは避けたかった。


「ぶぇっくしょん!」

「きったないわねえ……」

「うぅ……ここは寒いからさやさやの家にいこう!」

「だったら最初から私の家に来なさいよ」


 はは、それを彼女が言うのは面白い。


「そういえばアレな話だけど――何円貰った?」

「私はまだね」

「私も同じです」

「あ、そっか、さやさやとこづえんは夜から一緒にいるんだもんね、お母さん的には渡しづらいか」

「でも、どうせ五千円よ」


 私は多分、一万円だと思う。

 それを切ることはなくてもたまに小銭付きでくれるから決まっていないのだ。


「それならこの中なら私が一番貰っているということだね」

「いくらなのか早く言いなさいよ」

「三万円です!」


 小学生のときに「俺、五万円だった」とか言っていた男の子を思い出した。

 みんなそこまでではないにしても二万円とかなら結構いたのでお正月からお金持ちだ。

 もっとも、私にとって一万円はかなり大きい数字なので気持ち的には変わらない。


「はあ? あんた貰いすぎでしょ、こんなの不公平だわ」

「ふふ、一回ぐらいはご飯を奢ってあげてもよくてよ?」

「じゃ、今日のお昼に頼むわね、初日からガッツリ食べないとやってられないわ」

「初日からやっていればちゃんと守るよ」


 まだ貰っていないけど初日からお年玉に手をつけるようなことにならなくてよかった。

 やっぱりお小遣いをしっかり貯めておくことが大切なのだ。

 あとは……その、二月一日のためにもっと貯めておかなければならない。


「こづえんにもっと喋ってほしいな」

「あんた恥ずかしいなら名前を呼び捨てとかやめればいいのに」

「うっ、ば、バレた?」

「丸分かりよ」


 そっちのことも含めてまだ一日だからゆっくりやっていけばいい。

 何回か呼んでいる間に慣れるものだからこれから変わっていく。


「真夜中のときにこづえんには言ったけど勇気が必要だったんだよ」

「はあ? あんたその割には私に対しても最初からそんな感じだったじゃない」

「え、さやさやはキャラが変わったって言っていたけど」

「でも、あんたはそれを否定していたでしょ、私も考え直した結果よ。つか、こづえに近づくぐらいで勇気がいるってなに?」


 つばさなら余裕だと考えていたものの、それは装った結果でしかなかったわけだ。


「だ、だってさやさやといるとき以外は静かな子だったから……」

「静かならより話しかけやすいじゃない」

「それでさやさやも?」

「ま、他に友達がいる人間よりも楽だったわね、最初はちょっとアレだったけど……」


 最初の頃は実は怪しんでいたぐらいだった。

 何回も言うけど『邪魔』から始まったから意地悪をされるのかと不安だった。


「こづえ、いまではこうだけど滅茶苦茶警戒していたぐらいだからね」

「え、あんまり想像できないや」

「一ヵ月ぐらい経過した頃には警戒も解いてこづえの方から来てくれるようになった、のに……」

「いまではいかなくなっちゃっているね?」

「そうよ、あんたの中でなにが変わったのよ」


 それは彼女からあの子のことを教えてもらったから。


「さやには気になる子だってあの子のことを教えてもらったんです」

「あの子……? ああっ、この前の子か――じゃないっ、さやさやなにやってんのさ!」

「き、気になるなんて言ってないでしょ……ただ、昔から一緒にいる子だって教えただけで」

「一番仲がいいって言っていました」


 今更だけどそれでいくのをやめるのは……あの頃から好きだったからなのかな。

 うん、そうでもなければ仲がいい子がいてもいくはずだ。


「や、実際そうなんだからそのまま言っただけよ――え、なに? やっぱりなにか変な勘違いをしていたの?」

「はい、それでお家に上がらせてもらうこともやめようとしたのに……そういうときにばかりさやが優しくて駄目でした」

「それは最近のことよね? なにその無駄な勘違いからの無駄な行動……」


 どうせできもしないのにやってやると動こうとしたことは本当に無駄だからそう切り捨てられてもなにも言えない。


「よかった。これだけ一緒にいて、それっぽいことも言うのに他の子が好きとかじゃなくてね」

「待ちなさいよ、それだと私がこづえのことを好きでいるみたいじゃない」

「え、そう? こづえさんどうこうは関係なくて好きな子がいなくてよかったと言っているだけだけど」


 彼女とこれだけのことをしているのだからいいのかな? なんて考えるのはもうやめる。

 私はさやとそういう関係になりたい、だからつばさの言う通りだ。


「私、くっっっそ恥ずかしい存在よね……」

「ああ! さやさやがお正月早々縮んじゃった!」


 お誕生日の日に動こう。

 とはいえ、ご飯作りにも集中しなければならないからそれにばかり意識を向けずにしっかりやらなければならなかった。

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